変圧器 運用

変圧器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 01:22 UTC 版)

運用

変圧器の並行運転

負荷に供給したい電力が1台の変圧器の容量で不足する場合、複数台の変圧器の一次側および二次側を並列接続して運転することがある。これを並行運転と呼ぶ。並行運転を行うためには、電圧の極性をそろえること、巻数比が等しいことが必要である。さらに、負荷が複数台の変圧器の容量に応じて分配されるために、各変圧器のパーセントインピーダンスが等しいことが必要となる。

歴史

誘導コイルの実験

1831年にマイケル・ファラデーは変圧器の基本となる原理であるファラデーの電磁誘導の法則を発見し、コイル間の電磁誘導に関する実証を行なったが、将来それが起電力を操作する役割を持つという認識は無かった。1836年にアイルランドのメイヌース大学 (St Patrick's College, Maynooth) のニコラス・カラン牧師 (Nicholas Callan) が誘導コイルを発明し、これが変圧器として広く用いられる初めてのものとなった。彼は、一次巻線に対して二次巻線の巻数を増やすほど大きな起電力が発生するということに気づいた初期の研究者の1人であった。誘導コイルは、電池からより高い電圧を取り出そうとする科学者や発明家の努力によって発展した。電池は交流ではなく直流の電源であることから、電磁誘導に必要な磁束の変化を生み出すために一次側でコネクタを振動させて定期的に電流を遮断することによって誘導コイルが働くようになっていた。1830年代から1870年代にかけて、よりよい誘導コイルを、ほとんどは試行錯誤によって作り出そうとする試みにより、ゆっくりと変圧器の基本原理が明らかとなっていった。効率的で実用的な設計は1880年代まで発明されなかったが[8]、それから10年の間に電流戦争において交流が直流に対して勝利を収め、それ以来支配的な地位を確保し続けているために変圧器が助けとなった[8]

1876年にロシアの技術者であるパーヴェル・ヤブロチコフは、一次側巻線が交流電源に接続され、二次側巻線を彼の設計した複数の「電気ろうそく」(アーク灯)に接続できる誘導コイルの組み合わせに基づいた照明システムを発明した[9][10]。このコイルはシステムの中で原始的な変圧器のように用いられた[9]。この発明に関する特許では、このシステムは「単一の電源からいくつかの照明装置にそれぞれ異なる輝度で電力を供給する」としている。

1878年、ハンガリーガンツ社の技術者がオーストリア=ハンガリー帝国での電灯装置製造のために大きな技術的な貢献をし、1883年までに50を超える装置を製作した。ガンツはアーク灯・電球・発電機・その他の備品からなる全般的なシステムを提供した[11]

ルシアン・ゴーラールとジョン・ディクソン・ギブスは1882年にロンドンで「二次発電機」(secondary generator) と称する鉄心に空間の空いた装置を初めて公開し、このアイデアをアメリカ合衆国ジョージ・ウェスティングハウスの会社に売却した[12]。また彼らはこの発明を1884年にイタリアトリノでも公開し、そこで電灯システムとして採用されることになった。

1880年頃まで高圧の電源から低圧の負荷に交流電力を送る方法は、電源に対して直列に負荷をつなぐものであった。直列につなぐことで各負荷に掛かる電圧は下がったが、その代わりに個々の負荷の電源を切ると全体の電源が切れてしまう。このことから、巻数比が1対1の変圧器が使われた。高圧側の電源に直列に変圧器の一次巻線を接続し、二次巻線で低圧の電灯に接続して、二次側で電源を入り切りすることで、全体の電源を切らずに個別の電灯の電源を切ることができるようにしていた。この方法の本質的な問題は、それでもなお1つの電灯を入り切りするだけで他の回路全体に影響を与えてしまうことで、この直列回路の問題のある特性に対応するために多くの調整可能なコイルの設計がなされた。そのために鉄心を調整し、あるいはコイルの周りを迂回して磁束を流すなどの電圧を調整するための多くの方法が開発された。しかし、磁気回路に空間の空いた誘導コイルは電力を変換する効率が悪かった[13]

最初の変圧器の発明

1884年から1885年にかけて、ブダペストのガンツ社の技術者、ジペルノウスキー、ブラーティ、デーリの3人が効率的な"ZBD"式の閉じた鉄心モデルを開発した[14]。これはゴーラールとギブスが開発した設計に一見似ていたが、ゴーラールとギブスはあくまで鉄心に空間のあるものを設計している。ジペルノウスキー、ブラーティ、デーリは、それ以前の鉄心が無い、あるいは鉄心の磁気回路が閉じていない装置は電圧を調整できず、実用的でないことを発見した。彼らが合同で出願した特許では鉄心に極が無い、鉄心が環状になっているものと、鉄心が覆いのようになっているものの2つの構成が記載されていた[15]

環状鉄心モデルでは、鉄心は環状に構成され、その周りに2つのコイルが同様に巻かれていた。覆い方式のモデルでは、銅製の誘導ケーブルが鉄心の中を通されていた。どちらの設計でも、一次と二次のコイルを結ぶ磁束はほぼ全て鉄心の中をとおり、意図的に空中を通る経路は無い。鉄心は鉄の線あるいは板で作られていた。この発明によって、産業と家庭に経済的に電力を供給することが可能となった[16]。ジペルノウスキー、ブラーティ、デーリは変圧器の巻数比と電圧比の関係する数式も発見した。この数式により、変圧器は計算して設計できるようになった。彼らの特許の出願の中で、ブラーティが造語した"transformer"という言葉が初めて使われた[17]

ジョージ・ウェスティングハウスはゴーラールとギブス、そしてZBD式の両方の特許を1885年に購入した。ウェスティングハウスはZBD式の変圧器を商用化する設計をウィリアム・スタンリーに任せた[18]。スタンリーは、鉄心を組み合わせられたE字形の鉄のプレートから作成した。この設計は1886年に初めて商用に用いられた[19]。ロシアの技術者ミハイル・ドリヴォ=ドブロヴォルスキー (Mikhail Dolivo-Dobrovolsky) は、1889年に初めて三相の変圧器を開発した。1891年にニコラ・テスラは高電圧を高周波数で発生させる空芯コアで共鳴を利用したテスラコイルを発明した。可聴周波数の変圧器は、電話の開発に際して初期の研究者に利用された。

スイッチング電源

1950年代にスイッチング電源が登場し高効率化・小型化が進むと一般向けの電源では主流となった[20]。トランス式と比較して高周波ノイズが多いことから、医療機器や高級オーディオなどノイズを嫌う分野ではトランス式が利用されている[21]

脚注


  1. ^ ルーフ・デルタ結線変圧器 [1]
  2. ^ 久水泰司『電圧降下を小さくする交流き電システム』鉄道総研パテントシリーズ114 [2] (PDF)
    • 特許385661号『ATき電システム』 (2006.7.7)
  3. ^ 新型(ルーフ・デルタ)結線変圧器 [3] (PDF)

注釈

  1. ^ 日本国商標第299989号で、登録されたのは1938年(昭和13年)である。
  2. ^ スライダック (SLIDAC) は東芝登録商標(商標第299989号)であったが、現在の商標権者は東光東芝メーターシステムズ株式会社である。なお東芝はスライダックの生産を終了しており、2016年時点のところ、山菱電機の「ボルトスライダー」(同社名のYAMABISHIは同業他社)や東京理工舎の「リコースライドトランス」などがある。

出典

  1. ^ トランスについて|北川電機”. www.kitagawa-denki.co.jp. 2022年3月11日閲覧。
  2. ^ What is a Electrical Transformer ? - www.electricaldeck.com
  3. ^ 電気主任技術者国家試験問題平成16年度第3種
  4. ^ 電気用語辞典、コロナ社、1997
  5. ^ 電気学会規格調査会標準規格 「変圧器」JEC-2200-1995
  6. ^ JIS C 4304:1999「配電用6kV油入り変圧器」日本産業標準調査会経済産業省
  7. ^ 鳳誠三郎監修・青木正喜著『電気工学概論』実教出版、2002年、93頁
  8. ^ a b Coltman, J. W. (January 1988), “The Transformer”, Scientific American: 86–95, OSTI:http://www.osti.gov/energycitations/product.biblio.jsp?osti_id=6851152 
  9. ^ a b Stanley Transformer, ロスアラモス国立研究所;フロリダ大学, http://www.magnet.fsu.edu/education/tutorials/museum/stanleytransformer.html 2009年1月9日閲覧。 
  10. ^ W. De Fonveille (1880-1-22). “Gas and Electricity in Paris”. Nature 21 (534): 283. https://books.google.co.jp/books?id=ksa-S7C8dT8C&pg=RA2-PA283&redir_esc=y&hl=ja 2009年1月9日閲覧。. 
  11. ^ Hughes, Thomas P, Networks of Power: Electrification in Western Society, 1880-1930, The Johns Hopkins University Press, Baltimore and London, 1993. ISBN 0-8018-4614-5, 9780801846144.
  12. ^ Allan, D.J., “Power transformers – the second century”, Power Engineering Journal 
  13. ^ Uppenborn, F. J., History of the Transformer, E. & F. N. Spon, London, 1889.
  14. ^ アメリカ合衆国特許第 352,105号
  15. ^ Hungarian Inventors and their Inventions in the Field of Heavy-Current Engineering”. energosolar.com. 2008年12月26日閲覧。
  16. ^ HPO - OTTÓ TITUSZ BLÁTHY (1860 - 1939)
  17. ^ Ottó Titusz Bláthy”. Hungarian Patent Office. 2008年12月26日閲覧。
  18. ^ Skrabec, Quentin R. (2007). George Westinghouse: Gentle Genius. Algora Publishing. p. 102. ISBN 978-0875865089. https://books.google.co.uk/books?id=C3GYdiFM41oC&pg=PA102&hl=en 
  19. ^ International Electrotechnical Commission. Otto Blathy, Miksa Déri, Károly Zipernowsky. オリジナルの2010年12月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20101206042832/http://www.iec.ch/cgi-bin/tl_to_htm.pl?section=technology&item=144 2007年5月17日閲覧。 
  20. ^ スイッチング電源を誕生させたパワーエレクトロニクスの技術史”. TDK. 2022年4月24日閲覧。
  21. ^ 今さら聞けないトランスの基本Vol.9 トランス式ACアダプタ編 | 過去メルマガ一覧 | 加美電子工業株式会社”. www.kamidenshi.co.jp. 2022年4月24日閲覧。






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