介護保険
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 14:52 UTC 版)
地域支援事業
市町村は、被保険者の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止及び地域における自立した日常生活の支援のための施策を行うことができる。これを地域支援事業と呼ぶ(115条の45)。
かつて介護予防事業は一次予防事業と二次予防事業に分かれていたが、高齢者の様々な生活支援や社会参加のニーズに応えていくため、NPOや民間企業、協同組合、ボランティアなどの多様な主体による柔軟な取り組みにより効果的・効率的なサービスが提供できるように、2017年(平成29年)4月までに介護予防・日常生活支援総合事業に移行した[23]。
介護予防・日常生活支援総合事業には一次・二次予防事業を引き継いだ一般介護予防事業と二次予防事業のうち、訪問型介護予防事業と 通所型介護予防事業を引き継いだ介護予防・生活支援サービス事業、および一般介護予防事業の一つとして新規に追加された地域リハビリテーション活動支援事業などがある[23]。これにより、既存の介護事業所によるサービスに加えて、多様なサービスが多様な主体により提供され、利用者がこれらのサービスの中から選択できるようになった[24]。
地域支援事業は以下の通り(地域支援事業実施要綱[25])。
- 介護予防・日常生活支援総合事業(115条の45第1項)
- 介護予防・生活支援サービス事業(第1号事業) - 要支援者および#基本チェックリストに該当する第1号被保険者が対象。
- 第1号訪問事業 - 居宅要支援被保険者等の介護予防を目的として、当該居宅要支援被保険者等の居宅において行われる日常生活上の支援。
- 第1号通所事業 - 居宅要支援被保険者等の介護予防を目的として、厚生労働省令で定める施設において行われる日常生活上の支援又は機能訓練。
- 第1号生活支援事業 - 介護予防サービス事業若しくは地域密着型介護予防サービス事業又は第一号訪問事業若しくは第一号通所事業と一体的に行われる場合に効果があると認められる居宅要支援被保険者等の地域における自立した日常生活の支援。
- 栄養改善を目的とした配食や一人暮らし高齢者に対する見守りとともに行う配食等
- 定期的な安否確認及び緊急時の対応、住民ボランティア等が行う訪問による見守り
- その他、訪問型サービス及び通所型サービスの一体的提供等地域における自立した日常生活の支援に資するサービスとして市町村が定める生活支援
- 第1号介護予防支援事業 - 上記の事業が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助を行う事業。
- 一般介護予防事業 - 第1号被保険者の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止
- 介護予防把握事業
- 要介護認定及び要支援認定の担当部局との連携による把握
- 訪問活動を実施している保健部局との連携による把握
- 医療機関からの情報提供による把握
- 民生委員等地域住民からの情報提供による把握
- 地域包括支援センターの総合相談支援業務との連携による把握
- 本人、家族等からの相談による把握
- 特定健康診査等の担当部局との連携による把握
- その他市町村が適当と認める方法による把握
- 介護予防普及啓発事業
- 介護予防に資する基本的な知識を普及啓発するためのパンフレット等の作成及び配布
- 介護予防に資する基本的な知識を普及啓発するための有識者等による講演会や相談会等の開催
- 介護予防の普及啓発に資する運動、栄養、口腔等に係る介護予防教室等の開催
- 介護予防に関する知識又は情報、各対象者の介護予防事業の実施の記録等を管理するための媒体(介護予防手帳等)の配布
- 地域介護予防活動支援事業
- 介護予防に関するボランティア等の人材を育成するための研修
- 介護予防に資する多様な地域活動組織の育成及び支援
- 社会参加活動を通じた介護予防に資する地域活動の実施
- 一般介護予防事業評価事業 - 介護保険事業計画において定める目標値の達成状況等の検証を通じ、一般介護予防事業を含め、地域づくりの観点から総合事業全体を評価し、その評価結果に基づき事業全体の改善を目的とする。
- 地域リハビリテーション活動支援事業
- 住民への介護予防に関する技術的助言
- 介護職員等(介護サービス事業所に従事する者を含む。)への介護予防に関する技術的助言
- 地域ケア会議やサービス担当者会議におけるケアマネジメント支援
- 介護予防把握事業
- 介護予防・生活支援サービス事業(第1号事業) - 要支援者および#基本チェックリストに該当する第1号被保険者が対象。
- 包括的支援事業(115条の45第2項) - 第1号被保険者および第2号被保険者が対象。
- 総合相談支援事業 - 被保険者の心身の状況、その居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、保健医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整その他の被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援。
- 権利擁護事業 - 被保険者に対する虐待の防止及びその早期発見のための事業その他の被保険者の権利擁護のための援助。
- 包括的・継続的ケアマネジメント支援事業 - 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による被保険者の居宅サービス計画及び施設サービス計画の検証、その心身の状況、介護給付等対象サービスの利用状況その他の状況に関する定期的な協議その他の取組を通じ、当該被保険者が地域において自立した日常生活を営むことができるよう、包括的かつ継続的な支援。
- 在宅医療・介護連携推進事業 - 医療に関する専門的知識を有する者が、介護サービス事業者、居宅における医療を提供する医療機関その他の関係者の連携を推進する事業[26]。以下の8つの事業項目がある。
- 地域医療・介護の資源の把握
- 在宅医療・介護連携の課題の抽出と対応策の検討
- 切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築推進
- 医療・介護関係者の情報共有の支援
- 在宅医療・介護連携に関する相談支援
- 医療・介護関係者の研修
- 地域住民への普及啓発
- 在宅医療・介護連携に関する関係市区町村の連携
- 生活支援体制整備事業 - 被保険者の地域における自立した日常生活の支援及び要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止に係る体制の整備その他のこれらを促進する事業。
- 認知症総合支援事業 - 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による認知症の早期における症状の悪化の防止のための支援その他の認知症である又はその疑いのある被保険者に対する総合的な支援。具体的には認知症初期集中支援チームを配置する[27]。
- 任意事業(115条の45第3項) - 直接的に被保険者を対象としない事業
- 介護給付費等適正化事業 - 介護給付等に要する費用の適正化
- 家族介護支援事業 - 介護方法の指導その他の要介護被保険者を現に介護する者の支援
- その他介護保険事業の運営の安定化及び被保険者の地域における自立した日常生活の支援のため必要な事業
これら地域支援事業を行うにあたって、市町村は政令で定める額の範囲内で行い(115条の45第4項)、高齢者保健事業を行う後期高齢者医療広域連合との連携を図るとともに、国民健康保険保健事業と一体的に実施するよう努め(115条の45第6項)、必要であれば後期高齢者医療広域連合に情報提供を求める(115条の45第7項)。後期高齢者医療広域連合はこれに応じる必要がある(115条の45第8項)。また市町村は、自らが保有する保健医療サービスや特定健康診査若しくは特定保健指導に関する記録も併せて活用することができる(115条の45第9項)。そして地域支援事業の利用者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、利用料を請求することができる(115条の45第10項)。
基本チェックリスト
以下の25項目があり、主に運動、栄養、口腔、閉じこもり、認知、うつに関する質問からなる[28]。
- バスや電車で1人で外出していますか
- 日用品の買い物をしていますか
- 預貯金の出し入れをしていますか
- 友人の家を訪ねていますか
- 家族や友人の相談にのっていますか
- 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか
- 椅子に座った状態から何もつかまらずにたちあがっていますか
- 15 分くらい続けて歩いていますか
- この 1 年間に転んだことがありますか
- 転倒に対する不安は大きいですか
- 6 ヵ月間で 2~3kg 以上の体重減少がありましたか
- 身長 cm 体重 kg(BMI)
- 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか
- お茶や汁物等でむせることがありますか
- 口の渇きが気になりますか
- 週に1回以上は外出していますか
- 昨年と比べて外出の回数が減っていますか
- 周りの人から「いつも同じことを聞く」などの物忘れがあるといわれますか
- 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか
- 今日が何月何日かわからない時がありますか
- (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない
- (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった
- (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今ではおっくうに感じられる
- (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない
- (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
実施
市町村は、介護予防・日常生活支援総合事業のうちの介護予防・生活支援サービス事業、つまり第1号事業(第1号介護予防支援事業にあっては、居宅要支援被保険者に係るものに限る。)については、当該市町村の長が指定する者が行う(115条の45の3)。事業者への支給費は租税その他の公課を課することはできない(115条の45の4)。なお事業者の指定は第1号事業を行う事業所ごとに行われる(115条の45の5)。実施に際し市町村は事業者に対して必要に応じて報告(115条の45の7)、勧告、命令(115条の45の8)、指定の取消し(115条の45の9)、連絡調整等(115条の45の10)を行う。
一方、居宅要支援被保険者に係るものを除く第1号介護予防支援事業と包括的支援事業は、市町村などが設置する地域包括支援センターが実施する(115条の46第1項)。
また、市町村は地域支援事業のいずれも実施を委託することができる。
- 介護予防・日常生活支援総合事業 - 厚生労働省令で定める基準に適合する者、ただし第1号介護予防支援事業にあっては、居宅要支援被保険者に係るものに限る(115条の47第4項)。居宅要支援被保険者に係るものを除く事業は地域包括支援センターが実施するので委託できない。
- この委託を受けたものは厚生労働省令で定めるところにより、当該委託を受けた事業の一部を、厚生労働省令で定める者に委託することができる(115条の47第5項)。つまり再委託できる。この「厚生労働省令で定める者」とは指定居宅介護支援事業者である[29]
- 包括的支援事業 - 老人介護支援センターの設置者その他の厚生労働省令で定める者(115条の47第1項)。ただし総合相談支援業務と権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務の3つは一括での委託が条件となる(115条の47第2項)。委託を受けた者は地域包括支援センターを設置することができる(115条の46第3項)。
- 任意事業 - 老人介護支援センターの設置者その他の当該市町村が適当と認める者に一部もしくは全部(115条の47第9項)。
なお、老人介護支援センターは地域包括支援センターがその役割を担っている自治体が多い。
また、市町村は、地域支援事業の効果的な実施のために、介護支援専門員、保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者、民生委員その他の関係者、関係機関及び関係団体により構成される会議を置くように努めなければならない(115条の48第1項)。これは地域ケア会議と呼ばれる[25]。この会議では被保険者への適切な支援を図るために必要な検討を行うとともに、支援対象被保険者が地域において自立した日常生活を営むために必要な支援体制に関する検討が行われる(115条の48第2項)。なお、介護保険法には明記がないが、包括的支援事業として扱われる[25]。
保健福祉事業
市町村は、地域支援事業のほか、保健福祉事業として
- 要介護被保険者を現に介護する者の支援のために必要な事業
- 被保険者が要介護状態等となることを予防するために必要な事業
- 指定居宅サービス及び指定居宅介護支援の事業
- 介護保険施設の運営その他の保険給付のために必要な事業
- 被保険者が利用する介護給付等対象サービスのための費用に係る資金の貸付け
を行うことができる(115条の49)。
地域包括ケアシステム
高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービスを提供する体制のことを厚生労働省は「地域包括ケアシステム」と呼称する[30]。
地域包括ケアシステムを推進するためには、地域包括支援センターが地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援すること[30]が重要であり、システムを構築するためには、地域ケア会議を活用して、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備を同時にすすめることを提唱している[30]。
また「可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続ける」ためには、地域における医療・介護の関係機関が連携して、包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供を行うことが必要である[30]が、医療・介護以外にも認知症高齢者や単身高齢世帯の増加のため、配食・見守りなどの在宅生活を継続するための日常的な生活支援も必要となる[30]。
一方で高齢者は支えられるだけではなく、生活支援の担い手として活躍するなど、高齢者が社会的役割をもつことで、生きがいや介護予防にもつなげる取組みが重要である[30]。
注釈
- ^ 厚生労働省が広域化を進めてきたことから、広域連合や一部事務組合で運営されているケースも多い。
- ^ 後期高齢者医療広域連合はここでいう「医療保険者」には含まれていない。
- ^ 40歳以上、死亡まで。
- ^ ここでいう「公的年金」とは、老齢基礎年金のみならず障害基礎年金・障害厚生年金、遺族基礎年金・遺族厚生年金も含むが、老齢厚生年金は含まない(老齢厚生年金は老齢基礎年金又は障害基礎年金と併給されるため、老齢厚生年金から天引きされることは無い)。
- ^ 船員保険の場合は被保険者負担分の料率を控除できるとされ、実際には事業主負担の割合が高くなっている。
- ^ ここでいう「処分」は具体的事実や行為について、行政権または司法権を作用させる行為を指す。『処分』 - コトバンク
出典
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- ^ “特別養護老人ホームにおける待機者の実態に関する調査研究” (PDF). 社会保障審議会-介護給付費分科会 > 平成24年5月17日の資料. 厚生労働省. 2013年5月19日閲覧。
- ^ 『療養病床の再編成と円滑な転換に向けた支援措置について』(PDF)(プレスリリース)厚生労働省、2008年3月 。2013年5月20日閲覧。
- ^ a b 2011年2月23日の朝日新聞朝刊6面
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