下請代金支払遅延等防止法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/08 14:53 UTC 版)
概要
親事業者が下請事業者に委託業務を発注する場合、親事業者が優越的地位にある。そのため、親事業者の一方的な都合により、下請代金が発注後に減額されたり、支払いが遅延することがある(優越的地位の濫用)。そこで、下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護するために、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特別法として制定された。平成15年(2003年)の法改正により、規制対象が役務取引に拡大され、違反行為に対する措置の強化が行われた[1]。
規制対象
親事業者と下請事業者
下請法における「親事業者」と「下請事業者」は次の区分に従って定義されている(2条7項、8項)。いずれも、委託する側が親事業者であり、委託を受ける側が下請事業者となる。
親事業者 | 下請事業者 |
---|---|
資本金3億円超の法人事業者 | 個人事業者・資本金3億円以下の法人事業者 |
資本金1千万円超3億円以下の法人事業者 | 個人事業者・資本金1千万円以下の法人事業者 |
親事業者 | 下請事業者 |
---|---|
資本金5千万円超の法人事業者 | 個人事業者・資本金5千万円以下の法人事業者 |
資本金1千万円超5千万円以下の法人事業者 | 個人事業者・資本金1千万円以下の法人事業者 |
これらに該当する場合、事業者は会社に限らず、公益法人などでも適用される[3]。また、規定の上では親子会社間の取引であっても適用されることになるが、実質的に同一会社内での取引とみられる場合は、運用上問題とされない[3]。
なお、事業者が直接他の事業者に委託すれば下請法の適用がある場合に、上記の親事業者に該当しない子会社[4]を設立し、その子会社を通じて委託取引を行うことで、下請法の適用を逃れることが考えられる。このような行為を防止するため、親会社と子会社の支配関係や取引実態が一定の要件を満たせば、この子会社は親事業者とみなされる(トンネル会社規制、2条9項)[5]。
取引内容
下請法の規制対象となる取引の内容は、以下の取引である。
- 製造委託(2条1項)
- 物品の製造や販売、修理を営んでいる事業者(親事業者)が、「規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを細かく指定して」[6]他の事業者(下請事業者)に物品等(物品、その半製品、部品、付属品、原材料、金型)の製造や加工などを委託する取引。
- 修理委託(2条2項)
- 物品の修理を営んでいる事業者(親事業者)が業として請け負う物品の修理の全部又は一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引と、事業者(親事業者)が自社で使用する物品を自社で業として修理する場合に、修理の一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引。
- 情報成果物作成委託(2条3項)
- 情報成果物(ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザイン[6])の提供や作成を営む事業者(親事業者)が、その情報成果物の作成の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引と、事業者(親事業者)が自社で使用する情報成果物の作成を業として自社で作成する場合に、作成の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引。
- 役務提供委託(2条4項)
- 役務(サービス)の提供を営む事業者(親事業者)が、請け負った役務の全部または一部を他の事業者(下請事業者)に委託する取引。なお、建設業者が請け負う建設工事は除かれており、これについては建設業法の定めるところによる(2条4項)。
親事業者の義務
下請取引にあたって、親事業者は、次のような義務を負う。
- 書面の交付義務(3条)
- 発注にあたって、下請事業者に対し、取引内容に関する具体的記載事項を全て記載した書面(三条書面)を交付しなければならない。記載すべき内容は、「下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則」1条1項に定められている。
- 下請代金の支払期日を定める義務(2条の2)
- 下請事業者との合意の上で、下請代金の支払期日を定めなければならない。この期日は、納品日から60日以内で、かつできるだけ短い期間内でなければならない。
- 書類の作成・保存義務(5条)
- 下請取引が完了したとき、取引記録を作成し、2年間保存しなければならない。
- 遅延利息の支払い義務(4条の2)
- 支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、納付日から60日を経過した日から実際に支払われた日まで、年14.6%の割合による遅延利息を支払わなければならない。
- ^ 金井・川濵・泉水(2006)321頁
- ^ a b 下請代金支払遅延等防止法施行令(平成13年1月4日政令第5号)において、情報成果物として「プログラム」が、役務として「運送」「物品の倉庫における保管」「情報処理」が定められている。
- ^ a b c 公正取引委員会「よくある質問コーナー」
- ^ 例えば、製造委託をする場合であれば、資本金が3億円以下の子会社
- ^ 『ポイント解説下請法』7頁
- ^ a b 『知るほどなるほど下請法』4頁
- ^ 『知るほどなるほど下請法』11頁
- ^ 下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(平成15年12月11日事務総長通達第18号)
- ^ 『ポイント解説下請法』12頁
- ^ 『ポイント解説下請法』8頁
- ^ 『ポイント解説下請法』15頁
- ^ 金井・川濵・泉水(2006)325頁
- ^ 下請法勧告一覧(平成21年度以降)公正取引委員会
- ^ 勧告件数は以下の通り。2009年度はダイゾー・マルハニチロ食品・とりせんなど15件、2010年度は日産サービスセンター・トステムビバ・ドギーマンハヤシ・いすゞ自動車中国四国・西鉄ストアなど15件、2011年度は生活協同組合連合会コープ中国四国事業連合・タカキュー・はるやま商事・たち吉・大創産業など18件、2012年度はコナカ・生活協同組合コープさっぽろ・アイリスオーヤマ・ライトオン・ニッセン・日本生活協同組合連合会・サンゲツなど16件、2013年度は日本旅行・三共理化学・ヨークベニマルなど10件、2014年度はヒマラヤ・大創産業(2回目)・北雄ラッキー・マルショクなど7件。2015年度はゼビオ・大地を守る会など4件。2016年度はファミリーマート・農協観光・ニッド・プレナス・あらたなど11件。2017年度は久世・山崎製パン・タカタ・セブン-イレブン・ジャパン・伊藤園など9件。2018年度は小野建・全日本食品・サンリオ・柿安本店など7件。2019年度は森永製菓・LIXILビバ・東洋電装・サンクゼールなど7件。2020年度はリーガルコーポレーション・コモディイイダ・フジデン(本社:大阪府枚方市)・マツダの4件。2021年度はティーガイア・東京吉岡の2件。
- ^ ダイソー、下請け代金を不当減額…公取委勧告2012年3月27日 読売新聞
- ^ 株式会社ニッセンに対する勧告について (PDF) 平成24年9月20日 公正取引委員会
- ^ 通販大手ニッセン、下請法違反で勧告 支払い不当に減額2012年9月21日 朝日新聞
- ^ 日本生活協同組合連合会に対する勧告等について(PDFファイル)平成24年9月25日 公正取引委員会
- ^ ヒマラヤが下請法違反=不当返品など1億円-公取委2014年6月27日 時事通信
- ^ 売れ残り、下請けに不当返品…ダイソーに勧告2014年7月14日 読売新聞
- ^ 「ダイソー」が下請法違反=不当に返品、勧告2回目-公取委2014年7月14日 時事通信
- ^ 下請法の指導件数 7年連続で最多 公取委、16年度2017年5月24日 日本経済新聞 公取委によると、近年は下請け業者が書面調査に積極的に回答するようになっているほか、親事業者からの自発的な申告も増えているという。公取委は政府の中小企業対策が浸透し、これまで明らかにならなかった違反が表面化するようになっており、親事業者が不当に得た利益(不当利得)が公取委の指導や勧告によって下請け業者に返還されるなど、一定の効果を上げていると見ている。
- ^ ファミマ、下請けへの支払代金を不当に減額2016年8月25日 読売新聞
- ^ 下請法違反で「久世」に勧告=5000万円不当減額-公取委2017年4月27日 時事通信
- ^ 下請法違反、山崎製パンに勧告=コンビニ事業で不当減額-公取委2017年5月10日 時事通信
- ^ (平成29年7月21日)株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する勧告について平成29年7月21日 公正取引委員会
- ^ (令和元年9月27日)株式会社LIXILビバに対する勧告について令和元年9月27日 公正取引委員会
- ^ (平成30年5月7日)平成30年度「下請取引適正化推進月間」キャンペーン標語の一般公募について平成30年5月7日 公正取引委員会
- ^ 各種パンフレット下請法関係 公正取引委員会
固有名詞の分類
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