ユースホステル 日本のユースホステルの問題

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ユースホステル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 00:37 UTC 版)

日本のユースホステルの問題

ホステラーの高年齢化

日本では、1970年代まではホステラーのほとんどが10代後半から20代前半の学生生徒(世代としては当時の「団塊の世代」からその10歳前後下までが中心)で、1980年代から1990年前後までは若年の社会人の利用が多くなったとはいえ、学生・生徒の利用も少なくなかった。

近年の日本では、学生等の若者よりむしろ中高年の利用が多く、かつてはあまり見られなかった高齢者、家族連れの利用もかなり多く見られるようになった。

ホステラーの高齢化が進んでいる理由は、多くの場合、単一の理由のみによってではなく、複合的な要因によることが多いと考えられる。また、それぞれの地域固有の事情など他の様々な要因も関係する。日本のユースホステル独特のしきたりが敬遠されていることも大きな要因である。

利用者側の側面

  • 少子化によって日本全体で若年者の割合が減っていること。
    若い旅行者が、ユースホステル独特の団体生活的なしきたりや文化・設備、面識のない他人との相部屋が、嫌厭されていること。
  • 日本国内のユースホステルのホステラーが、年齢層の高い社会人が主流となるにつれて、学生・生徒が心理的に宿泊しにくくなってしまったこと。
  • 国内の経済情勢の変化(主に悪化)により、大学生は3年次から就職活動を強いられ、卒業後も社会に出て1〜2年目は遊びどころではない。
    その反動で数少ない機会の旅行に行く場合、豪華な国内外旅行コースで、高級ホテルを選ぶ傾向にある。
  • ビジネスホテルが、2000年代以降、料金がリーズナブルでしかも(夕)朝食も無料提供という優待サービスも少なくない。既に多くのビジネスホテルはユースホステルより安価であり、サービスも設備も良い。
    このため、出張でなくてもビジネスホテルを選択する傾向がある。

施設側の側面

  • 設置者がマネージャーである民営ユースホステルにとって、比較的多くの安定収入のある20代後半以降の会社員・公務員が主たるホステラーであれば、単に宿泊するだけでなく、年越しパーティやカヌーラフティングなどのツアーといった施設主催の行事に参加し、また、施設で販売する地酒・輸入ビールなどの安価ではない酒類を購入するなど、本来の宿泊料金以外にサービス・商品などでの収入が多額となり、学生が主なホステラーであるよりも多くの収益を見込める。また、そのような社会人が固定客となれば、安定した施設の経営に繋がりやすい。そこで、日本国内のかなり多くの施設で、本来のユースホステルの設立趣旨から逸脱・乖離しながらも、学生・生徒よりも比較的年齢層の高い社会人の宿泊を主眼において経営を進めるようにもなり、そのような施設運営のあり方も、日本でのホステラー高年齢化をさらに亢進させている。
  • ユースホステルの長所のひとつである廉価な利用料金が、格安なビジネスホテルの増加により長所でなくなっていること。詳しくは次節を参照。

施設数の減少

日本における施設数の減少傾向の理由としては、宿泊施設の多様化と、宿泊する側の要望する水準が高くなっていることに対して、既存のユースホステルが応えきれていないこと、少子化による想定した利用者人口の減少などにより、ユースホステル会員数が大幅に減少していることが挙げられる。

一方で、施設の老朽化による閉鎖や、民営ユースホステルにおいては「後継者」問題がある。国鉄の終焉時代から始まった赤字ローカル線廃止や、それを引き継いだ第三セクター鉄道バス路線の登場、それら企業者がJRとは全く関係ないためワイド周遊券などの周遊券の通用除外となったこと、JR旅客各社が周遊券を廃止して、より通用期間が短い周遊きっぷに置き換えた事などによる、その地域の公共交通機関を利用した旅行者の減少、公営ユースホステルにおける収支逆ザヤなど、様々な要因が複雑に絡み合っている。

実際には、近年でも新しいユースホステルも次々と開所しているので、閉所しているユースホステルは、表面的な減少数よりも遥かに多い。

価格帯が競合する宿泊施設の登場

利用料金

以前は、ユースホステルの宿泊料金は素泊まり3000円以下、1泊2食4000円前後かそれ以下という価格設定になっており事実上最も安い宿泊施設であった。しかし、今は宿泊施設の多様化が進み、価格面でも競合相手が多数出てきている。

特にユースホステルは会員制であるため、1泊しかしない旅行者にとっては、年会費+宿泊料金が事実上1泊に必要な料金となってしまうため、割高感が否めない。またこれがネックとなって、入会および利用へのブレーキになっている。実際には会員でなくてもビジター料金600円で宿泊できるが、地方都市の駅前など朝食付きの安価なビジネスホテルには料金面で太刀打ちできなくなっている。

このことを踏まえて財団法人日本ユースホステル協会は、この料金面での不利さを払拭し、とくに本来的なユースホステルの利用者層とされる若年層の利用促進を図るため、2009年1月1日4月30日の間、「ユースホステル100周年記念事業 若者旅立ちキャンペーン」を実施し、巻き返しを図った。これは、高校生以下の人がユースホステルを利用する際に「会員証不要」とするもので、かつ会員証そのものも無料で配布される。

他の宿泊施設との比較

バブル経済期と同期してレジャーブーム、アウトドアブームが起き、数多くのアウトドア施設(テントサイト)が建設された。以前のテントサイトは、トイレさえ不十分であったが、水道・トイレ施設の充実の他、シャワールームが設置されたり、温泉露天風呂までも併設されたりした。このため、価格面だけで言えば、ユースホステルの強力な競合相手となった。

  • ラブホテル

バブル経済期以降の若者のモータリゼーションの進展から、若者の旅行は、交通機関での移動からオートバイ、さらに自動車での旅行に大きく変化し、究極的には「車中泊」が最も安いが、カップルでの車旅行の場合は、郊外立地型のラブホテルもユースホステルの競合相手となった。2人分の宿泊料金と駐車場代を含めて考えればユースホステルよりも安いことが多く、時間の指定や受付の煩わしさもなく、設備も充実しているため、「カップルでの車旅行」のスタイルでは、ユースホステルが選ばれることは稀になった。但し、入室後の出入りが自由かどうかはホテルによって違いがあるため、限定的な利用スタイルでもある。

  • ゲストハウス

ユースホステルと似た形態であるが、主に都市部ではゲストハウスといわれる外国人向けの低価格宿泊施設も登場している。これは、日本の宿泊費が高い事から、外国人バックパッカー向けにつくられたもので、東京京都・沖縄などに多い。元々宿泊施設として作られたものではなく、普通の家やアパート、マンションを改装して2段ベッドなどを詰め込んだドミトリー型の宿泊施設となっており、立地条件にもよるが、1泊のみだと2000円から4000円程度である。外国人の場合、長期宿泊することが多いため長期の割引率が高く、沖縄の場合は1ヶ月いると1泊あたり1000円以下になる所もある。外国人向けに作られたものであるが、その安さのために日本人の利用者も増加し、日本人専用のゲストハウスもできてきている。ただし、長期利用者が多いゲストハウスでは、ルームシェアの一形態とも見なされ、ユースホステルよりも宿泊における規則が厳しくなってしまった所も出てきており、均質的なユースホステルと比べると利用しづらい面もある。

  • 民宿

民宿においても、ユースホステルと同じく男女別相部屋を基本とし、料金もユースホステルの会員料金と同程度であり、宿によっては寝室に二段ベッドを備え、JYHと契約がないことを除けばユースホステルとほぼ同一の方式・形態で運営される宿がある。1980年代以降、北海道や信州などで開業が増えた。かつてはユースホステルより利用者の年齢層がやや高く、飲酒が可能など規律もユースホステルより緩やかだったが、ホステラーの高齢化と規律の緩和により、現在ではそのような民宿とユースホステルの実質の差はさらに僅かとなっている。そのような民宿を「旅人宿」と呼び、かつては「ユース民宿」の語も使われた。代表例では、「とほネットワーク旅人宿の会」を形成する民宿である通称「とほ宿」があり、共同で情報誌「とほ」を発行している。既述の内容と重複するが、ユースホステルがJYHとの契約を解約して同一形態のまま、そのような民宿に移行する場合もあれば、逆にそのような民宿がJYHとの契約で、民宿の頃と営業形態を変えずにユースホステルに移行する例もある(民宿の項目を参照)。

  • ビジネスホテル

既存の宿泊形態であっても、最近のインターネットによる宿泊予約システムの普及によって、宿泊料金の低価格化が進んでいる。インターネットで予約すれば、3000円台後半から4000円台で宿泊できるビジネスホテルが非常に増えている(予約・受付業務における人件費削減による低廉化)。もちろんこれらの施設は個室であり、部屋にバス、トイレ、テレビ、エアコン、冷蔵庫の他、インターネット設備まで取り揃えている場合もある。さらにこの値段で朝食付きの所まである。ユースホステルが相部屋である事から考えると、ユースホステルの割高感を持たざるを得ない。ビジネスホテルの立地として、公共交通機関利用者を主なターゲットにした駅前立地の他、自家用車利用者をターゲットにした高速道路のインターチェンジ付近に立地するものもあり、広大な駐車場を併設したモーテル型もある。

  • 当日割引

また、ビジネスホテルより豪華な一般のホテル旅館であっても、空室にしておくよりは割引してでも満室にしておいた方が利潤があるとして、地方中核都市や温泉地を中心に、「直前割引」「当日割引」を設定している宿泊施設がある。この場合、携帯端末やパソコン対応のホテル独自のサイト旅行会社によるサイト、当日予約専業のサイトなどから、数日前から当日の予約に限って50%近い割引がされていることがある。また、三大都市圏などでは、ネットによる当日予約で、予定チェックインの時間帯(夕方、夜、深夜)によって宿泊料金が変わる宿泊施設がある。これは、終電後にタクシーで帰宅する人に対し、タクシー代と競合する価格帯(5000円程度)にすることで、新たな宿泊需要を掘り起こすことを目的としている。いずれの場合も価格競争力があるため、ホテル側の設定意図とは離れて、ユースホステルと競合することになってしまった。

  • モーテル

以上のように、携帯電話を持って車旅行をする者にとっては、ユースホステルは価格面において唯一の選択肢ではなくなってしまった。この例として、車による旅行者を主なターゲットとする「モーテル」(一人旅でも家族連れでも利用可能)という、低廉で気軽に利用できる宿泊施設が全国各地の町にあるアメリカでは、個人の家庭をユースホステルとして提供している施設も含め、ユースホステルは132軒に留まる。施設数自体は日本に次ぐものの、東海岸や西海岸に集中し、内陸部は少ない。

その他の問題点

一人での利用の場合は原則的に相部屋とされる。このためプライバシーの制限を受けることが少なくなかった。しかし最近では夫婦や家族での一室利用も歓迎されることも増え、以前に比べればかなり利用しやすくなってきたといえる。またシングルルームを用意している施設も少なからずあり、前述のビジネスホテルとの競合を意識した経営戦略を打ち出すところも出始めている。海外では、個室やファミリールームを設けているユースホステルが多い。

相部屋という性質上、まれに盗難事件が起こることもある。海外のユースホステルの場合、鍵付き(または持参をした鍵をつけられる)ロッカーが整備されていることも多い。








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