ホメオティック遺伝子 ホメオティック突然変異

ホメオティック遺伝子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/18 03:14 UTC 版)

ホメオティック突然変異

ホメオティック遺伝子群の不正確な発現は、個体の形態に大きな変化を引き起こす。1894年にウィリアム・ベイトソンは、花の雄しべがたまに誤った位置に発現することに気づき (彼は本来なら花弁が生える位置に雄しべが生える花のサンプルを発見した)、これが最初のホメオティック突然変異と同定された。

1940年代末にエドワード・ルイスは、キイロショウジョウバエにボディパーツの奇怪な再配置を発生させるホメオティック突然変異の研究を開始した。脚の発現をコードする遺伝子の突然変異が奇形や死を引き起こす。例として、アンテナペディア遺伝子の突然変異はハエの頭部に触角ではなく脚を生じさせる[11]

キイロショウジョウバエについての他の有名な例は、第3胸節を規定する Ultrabithorax ホメオティック遺伝子の突然変異である。正常な状態では、この体節は1対の脚と1対の平均棍 (翅が退化した器官) を持つ。変異体では、機能する Ultrabithorax タンパク質を欠いており、第3胸節はその直前の第2胸節 (1対の脚と1対の完全は翅を持つ) と同一の構造を発現することになる。これらの変異体は、自然の状態の個体集団でも現れることがあり、これがホメオティック遺伝子の発見に結びついた。

ホメオティック遺伝子のコリニアリティー

様々のホメオティック遺伝子が染色体上のグループまたはクラスターとして互いに非常に接近して配置されている。

ホメオティック遺伝子の分類

異なる門のホメオティック遺伝子群は異なる名称を持つが、これは分類表の上で混乱を引き起こしている。脱皮動物 (Ecdysozoa ; 節足動物線形動物など) の全ホメオティック遺伝子群はアンテナペディア複合遺伝子 (Antennapedia complex) とバイソラックス複合遺伝子 (Bithorax complex) という2つのクラスターから成る。これらは合わせては HOM-C (Homeotic Complex) と呼ばれる。新口動物 (Deuterostome ; 棘皮動物、脊索動物) のホメオティック遺伝子群は Hox 遺伝子群と呼ばれ、Hoxa、Hoxb、Hoxc および Hoxd という4つのクラスターに編成されている。新口動物に属さない門のホメオティック遺伝子群を「 Hox 遺伝子群」と呼ぶのは学術的には不正確であるが、「ホメオティック」の意味で「hox」を用いる慣例は、現在では科学論文においてさえも認容されている。

ホメオティック遺伝子群の系統学的な分布

脱皮動物では約10個のホメオティック遺伝子が存在する。脊椎動物では、Hoxa、Hoxb、Hoxc、および Hoxd として知られる、これら10個の遺伝子群の4つの重複した組 (パラローグ ; paralogue) を持つ。これら4組のパラローグクラスターは、脊椎動物の祖先のゲノムが全部で2回の重複を受けたことの結果である [12]。 最初の重複は刺胞動物 (Cnidaria) と左右相称動物 (Bilateria) の分岐の前に起こり、2回目の重複は魚類の進化の過程で起こった。 [13]

脊椎動物のこれらの遺伝子は脱皮動物に見られる遺伝子の重複なのであるが、これらの4組のコピーは実際には同一ではない。各コピーには時間の経過とともにそれ自身に特有の突然変異が蓄積され、特有の機能を持つタンパク質を生産することになる。いくつかの脊椎動物のグループでは完全に消滅してしまったり、あるいは再度重複が生じた遺伝子もある。

例えば、Hoxa と Hoxd は脚の軸に沿った節の配置に関係している。脚における Hox の発現は2段階である、早期の発現は腕を形成し、後期の発現は指を形成する。これには Hoxd 8 から 13 が関係しており、別個に Hoxd 13 の 5’制御領域を持つ (これは真骨類魚類では発見されていない) [14]


  1. ^ Lutz, B.; H.C. Lu, G. Eichele, D. Miller, and T.C. Kaufman (1996). “Rescue of Drosophila labial null mutant by the chicken ortholog Hoxb-1 demonstrates that the function of Hox genes is phylogenetically conserved”. Genes & Development 10: 176-184. 
  2. ^ Ayala, F.J.; A. Rzhetskydagger (January 20, 1998). “Origin of the metazoan phyla: Molecular clocks confirm paleontological estimates”. Proc Natl Acad Sci 95 (2): 606-11. 
  3. ^ Cesares and Mann 1998; Plaza et al 2001
  4. ^ Gilbert, Developmental Biology, 2006
  5. ^ Hanes and Brent 1989, 1991
  6. ^ Small S, 1992. Regulation of even-skipped stripe 2 in the Drosophila embryo. EMBO J. 1992 Nov;11(11):4047-57
  7. ^ Lempradl A, Ringrose L. 2008 How does noncoding transcription regulate Hox genes? Bioessays. 30(2):110-21.
  8. ^ Rinn JL et al, 2007. Functional demarcation of active and silent chromatin domains in human HOX loci by noncoding RNAs. Cell. 129(7):1311-23
  9. ^ Fraser P, Bickmore W. 2007. Nuclear organization of the genome and the potential for gene regulation. Nature. 447(7143):413-7.
  10. ^ Montavon et al. 2008. Modeling Hox gene regulation in digits: reverse collinearity and the molecular origin of thumbness. Genes Dev. 22(3):346-59
  11. ^ Pierce, Benjamin A. Genetics:A Conceptual approach.2nd edition
  12. ^ Dehal P, Boore JL (2005) Two Rounds of Whole Genome Duplication in the Ancestral Vertebrate. PLoS Biol 3(10): e314
  13. ^ ホメオティック遺伝子群の地図 矢印は染色体上に配置されたホメオティック遺伝子群を表す。下線はほとんどの脊椎動物以外の動物で見られる10個のホメオティック遺伝子を表す。これは脊椎動物の遺伝子の祖先的な一そろいでもある。 最上部の4つの線は脊椎動物で見られる、これら10個の遺伝子の4つの重複クラスターを示す。
  14. ^ Deschamps J. 2007. Ancestral and recently recruited global control of the Hox genes in development. Curr Opin Genet Dev. 17(5):422-7


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