パラコート 反対運動

パラコート

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/23 03:26 UTC 版)

反対運動

解毒が出来ないことや高い死亡率、中毒経過が悲惨であることから、医師薬剤師の間から、販売規制を求める声が出た。1978年、日本救急医学会総会で、パラコート製剤の販売禁止を求める声明が出され、1983年には愛知県保険医協会が県下の自治体に使用自粛を申し入れた。

1985年には、筑波大学の研究者が自殺等による死者を減らすため、24%の液剤を5%の粒剤に転換し販売方法も改善するように農水省等へ文書で要請した他、日本農村医学会総会が「特定毒物」指定を折り込んだ決議を採択、東京弁護士会は販売禁止を求める声明を出した。

メーカー側は、厚生省による「特定毒物」指定を避けるため、1985年10月にパラコート10%、ジクワット14%の混合液剤「プリグロックス」を発売、さらに1986年7月からは高濃度製剤の生産は中止し、代わりにプリグロックスの濃度をさらに低くしたパラコート5%、ジクワット7%の混合液剤プリグロックスLやマイゼットに切り替えることで対処した(2003年以降はプリグロックスLに統一)。

また厚生省と農水省は、販売時の記名において身分証明書の提示を求めることで、1986年2月に合意した。

1986年、東京都下の自治体が公園等公共施設でのパラコート製剤の使用中止を決めた。その他、福岡県、愛知県、大阪府等の自治体の一部で市民団体の要望に応えて、使用をやめた。

規制が厳しくなったこともあり、除草剤としてのパラコートの市場占有率は年々下がり、1999年9月を最後にパラコート原体の日本での生産が中止された[18][注釈 1]。しかし2000年代になっても、日本における農薬中毒による死亡事故の約40%を占めるなど問題となっている[7]。これについて、現在の製品も依然として液剤であることや、ジクワットというパラコートとは異なる成分が新たに加えられたことを指摘する研究者もいる[20]

マレーシアでは2003年にパラコート禁止令が出た他、欧州連合(EU)では2007年7月11日以来禁止となった。またアメリカ合衆国では、免許を得た有資格者以外の者がパラコートを扱うことは禁止されている。中華民国では2019年2月1日からパラコート製剤の販売及び使用は禁止となった。

中華人民共和国は2020年9月26日以来、パラコートの輸入と販売を禁止している。

非政府組織・国際農薬ネットワーク (International Pesticide Network, PAN) は、禁止すべき農薬の一つに「パラコート」を挙げている[11]


注釈

  1. ^ パラコート原体が日本での生産が中止されたのであって、パラコート製剤自体は日本での製造が継続されている[19]

出典

  1. ^ 国際化学物質安全性カード パラコートジクロライド ICSC番号:0005 (日本語版), 国立医薬品食品衛生研究所, http://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_card_id=0005&p_version=2&p_lang=ja 
  2. ^ 水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準の設定に関する資料 (PDF) 環境省
  3. ^ とは、4,4'-ビピリジンの窒素原子上にそれぞれ置換基を導入した“N,N’-二置換-4,4’-ビピリジニウム”の慣用名。田中泰彦「高配向グラファイト電極上の吸着層の酸化還元による相転移挙動に関する研究」長崎大学 博士 (工学) 博 (生) 甲第126号、2007年、NAID 500000442469 
  4. ^ 渡辺泰, 本間豊幸, 伊藤一幸, 宮原益次「パラコート抵抗性のハルジオン」『雑草研究』第27巻第1号、日本雑草学会、1982年、49-54頁、doi:10.3719/weed.27.49 
  5. ^ 加藤彰宏, 奥田義二「パラコート抵抗性のヒメムカシヨモギについて」『雑草研究』第28巻第1号、日本雑草学会、1983年、54-56頁、doi:10.3719/weed.28.54 
  6. ^ 伊藤一幸, 宮原益次「ハルジョオンにおけるパラコート抵抗性の遺伝」『雑草研究』第29巻第4号、日本雑草学会、1984年、301-307頁、doi:10.3719/weed.29.301 
  7. ^ a b 中毒情報・資料 その8パラコート、日本中毒学会
  8. ^ 光で汚れを落とす?ー光触媒反応による色の変化 化学展:光触媒のしくみを実験で紹介している
  9. ^ プリグロックスL シンジェンタジャパン
  10. ^ 青くないパラコート 保存状態さえ良ければ数十年経っても製剤のパラコート濃度は低下しない
  11. ^ a b 『農薬毒性の事典』:三省堂
  12. ^ 『毒物雑学事典』(講談社・ブルーバックス。1984年1月初版)
  13. ^ 岸本卓巳, 藤岡英樹, 山鳥一郎, 小崎晋司, 大家政志, 河端美則「パラコートのウス内散布により肝・腎障害を初発とし呼吸不全を来して死亡した1例」『日本呼吸器学会雑誌』第36巻第4号、1998年4月、347-352頁、ISSN 13433490NAID 10005611855  (要購読契約)
  14. ^ 食品安全ハンドブック(丸善 著者・林祐造 2010/1/22)
  15. ^ 吉田薫 and 浅野泰 and 中島逸郎 ほか,「パラコート中毒10症例に対するDirect Haemoperfusionの効果検討」『日本腎臓学会誌』第22巻第8号、日本腎臓学会、1980年、1001-1012頁、doi:10.14842/jpnjnephrol1959.22.1001 
  16. ^ 最近の中毒と医療 農薬パラコート(財)日本中毒情報センター
  17. ^ 中岡康「パラコート服毒7年後に発症した気胸例について」『日本胸部臨床』第46巻、克誠堂出版、1987年、932-937頁、NAID 80003646291  (要購読契約)
  18. ^ 野口裕司, 金子直之, 「自殺企図によるパラコート中毒3例の報告 : 行政介入への提言」『日本救急医学会関東地方会雑誌』 40巻 3号 2019年 p.234-237, doi:10.24697/jaamkanto.40.3_234, 日本救急医学会関東地方会。
  19. ^ 野口裕司, 金子直之「自殺企図によるパラコート中毒3例の報告 : 行政介入への提言」『日本救急医学会関東地方会雑誌』第40巻第3号、日本救急医学会関東地方会、2019年、234-237頁、doi:10.24697/jaamkanto.40.3_234ISSN 0287-301XNAID 130007777897 
  20. ^ 南江堂『中毒百科「パラコート・ジクワット」』 内藤裕史、2001年6月






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