ハーモニカ 概要・特徴

ハーモニカ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/17 12:12 UTC 版)

概要・特徴

小型軽量で携帯に便利でありながら、メロディーのみならず簡単な和音も奏でられるなど演奏性能も優れている。種類も豊富で、価格帯も日本円で数百円ていどの廉価品からプロ用の高級品までそろっている。使用される音楽シーンも多彩で、学童の教育楽器や、アマチュアの趣味、プロのコンサートなど幅広い。人類が宇宙空間に持ち込んで演奏した最初の楽器でもある[注釈 1]

詳細・種類

ハーモニカには口の中に入れて演奏できるほど小型のものから60cmほどの長さのものまでさまざまあるが、基本的には単音ハーモニカと複音ハーモニカ、アンサンブル・ハーモニカ等に分けることができる。

単音ハーモニカ - 各音につき一枚のリードを持つものである。以下の通り

複音ハーモニカ - 上下に穴があり、各穴には1枚だけリードがあり、上下のリードの調律をわずかにずらして調律してあり、同時に吹く(吸う)とトレモロの響きが奏でられるハーモニカで、元はドイツ生まれだが、東アジアで特に発展し支持されてきているハーモニカである。

アンサンブル・ハーモニカ - 主に合奏で使われるハーモニカである。以下の通り

  • バス・ハーモニカ[1]
  • ホルン系ハーモニカ[2]
  • コード・ハーモニカ

※演奏例 クロマティック・ハーモニカ、バス・ハーモニカ、コード・ハーモニカの合奏(YouTube)[注釈 2]

ダイアトニック・ハーモニカ

全音階(ダイアトニック・スケール)のハーモニカである。

テンホールズ・ダイアトニック・ハーモニカ

ブルースハープとピアノ鍵盤の大きさの比較。

テンホールズ・ダイアトニック・ハーモニカ (Ten Holes Diatonic Harmonica) はおそらくもっともハーモニカの原型に近い楽器だと思われる。長さ10cmほどの掌におさまる大きさで、正面から見ると10個の穴が一列に並んでいる。ブルースハープと呼ばれるモデルが最も有名で、この種のハーモニカの代名詞のようになっているが、この名称はホーナー社のモデル名および登録商標である。最近ではテンホールズという呼称も定着してきた。

一つの穴の上面と下面に互いに逆向きにリードが取りつけてあり、吹いたときと吸ったときで違う音が出る。音の配列はメジャー・スケールに沿ったもので主要なモデルにはGからF#まで各調が用意されている。10穴で3オクターブをカバーするため実際の音配列は少し変則的であり、C調を例にとれば以下のようである。

ダイアトニック・ハーモニカの音配列
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
吹音 C E G C E G C E G C
吸音 D G B D F A B D F A

つまり3オクターブといっても完全な音階が吹けるわけではない。その代わり3つの穴をまとめて吹けばトニック・コード、2-4番(1-3番)をまとめて吸えばドミナント・コード、4-6番(8-10番)をまとめて吸えばサブドミナント・コードとなる。

10穴以外

ダイアトニック・ハーモニカのバリエーションとして少し小さめのポケットモデルや12穴や14穴に拡張した大型のモデルもある。また4穴のミニハーモニカはアクセサリーとしても人気があり各種発売されている。

短調配列のダイアトニック・ハーモニカ

マイナー・キー配列の10穴ハーモニカの代表的なモデルとして、トンボ楽器製作所の、「メジャー・ボーイ」の Minor Key 版がある。以前は「マイナー・ボーイ」という機種名だったが、統合された。海外では、この「メジャー・ボーイ」と「マイナー・ボーイ」の名称自体、スラングに起因する性的侮辱的な名称としてとらえられ、商品に対する印象として非常に良くないため、 ウォー のハーモニカ奏者であるリー・オスカー英語版 が彼のソロ・アルバムで「マイナー・ボーイ」を使って脚光を浴びたのをきっかけに、トンボ楽器製作所リー・オスカー と契約を結び、リー・オスカー・ブランド をトレードマークとして使用することで海外進出を図った。 「リー・オスカー」と「メジャー・ボーイ」はケースと表面プレートは異なるが中身は「メジャー・ボーイ・シリーズ」と全く同一のリード・プレート、同一素材同一形状のコームを使用している。日本で一般的な「マイナー配列」(Minor Key Harmonica / Harmonic Minor Key Harmonica)の他に、「ナチュラル・マイナー配列」(Natural Minor Key Harmonica)もあり、海外では「ナチュラル・マイナー配列」の方が一般的に使われている。

クロマチック・ハーモニカ

クロマチック・ハーモニカ

クロマチック(クロマティック)スケール、すなわち半音階も演奏できるように改良したタイプである。 クロマチック・ハーモニカ (Chromatic Harmonica) には上下式とスライド式がある。

上下式クロマチックというのは日本で学校教育用に考案されたもので、吹き口が上下2段にわかれている。鍵盤の白鍵に当たる音が下段に、黒鍵に当たる音が上段に配置されているので演奏方法は簡単であるが、後述のように鍵盤ハーモニカに取って代られ、現在ではアンサンブル用など一部で使われるのみである。 上下式クロマチックは別名シングル・クロマチック・ハーモニカ (Single Chromatic Harmonica) とも呼ばれる。一時期は学校教育の現場でも使用されたため、各種開発されたが、上下2段に穴があるためハーモニカに厚みがありすぎて、子供にとって非常に吹きにくいものであった。また、音階配列も各社で統一がなされなかったことも急速に衰退した理由の一つといえる。

スライド式クロマチックは、現在一般的に使われているクロマチック・ハーモニカで、どのモデルもほぼ同じ仕組みである。吹き口は一列であり、4穴で1オクターブの音が出せる。12穴3オクターブのものが主流であるが16穴4オクターブのモデルもよく使われる。吹き口は一つだが内部は上下2段にわかれていて、吹き口のすぐ後ろにある穴あき板によって片方が覆われる。側面のレバーを押すと板は横にスライドしてもう一方の穴が開放される。レバーを放せば板はばね仕掛けで元に戻る。つまりC調のハーモニカの場合CとC#のリードプレートが取りつけてあり、通常はCのリードが鳴り、レバーを押すとC#のリードが鳴る仕組みである。※(HOHNER SuperChrominica270)が有名。(ホーナーの歴史と共に歩んできたロングセラーモデル)

また、内部構造も複雑で、リードに空気を送るのを「バルブ」と呼ばれる薄い皮膜状の物で振り分けをしており、これが過度に濡れたりすると音質が変わったり、音が出なくなったりする。このバルブに不具合が生じやすい欠点があり、素人には使いにくい面がある。機構も複雑だが演奏家の技量も要求される機種なのでかなりの上級者向きのハーモニカと言える。

基本的にスライド式クロマチック・ハーモニカは単音のハーモニカであるが、2012年に鈴木楽器製作所の開発・発売により、世界初の複音スライドマチック式クロマチック・ハーモニカが世に出た。

クロマチック・ハーモニカの音配列
ノーマル 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
吹音 C E G C C E G C C E G C
吸音 D F A B D F A B D F A B
レバー押 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
吹音 C# E# G# C# C# E# G# C# C# E# G# C#
吸音 D# F# A# B# D# F# A# B# D# F# A# D

※ B#とC、E#とFは実際には同じ音であるが吹音と吸音の違いがあり、曲によって使い分けたりする。

複音ハーモニカ

トレモロ・ハーモニカ

複音ハーモニカは、海外ではトレモロ・ハーモニカ (Tremolo Tuned Harmonica) と言われる。1音につき2枚のリードがありわずかにピッチをずらして調律してあるため微妙にビブラートがかかり豊かな響きを生む。テンホールズ・ダイアトニック・ハーモニカやクロマティック・ハーモニカと違って、一つの穴につきリードが1枚である。正面から見ると小さめの穴が上下2段に並んでいて、上下の穴を同時に吹いて(吸って)鳴らす。吹く音と吸う音は交互に並んでいる。

元来はドイツで開発された物で、後述の欧米式音配列(リヒター配列) が海外では主流であったが、後に日本で川口章吾が改良した日本式配列の複音ハーモニカがアジア一帯に広く普及した。また、東アジアの広域で、その地域の音楽になじんだ音色だったこともあり、日本式配列の複音ハーモニカはアジアで大発展した。

複音ハーモニカの音配列(欧米式音配列(リヒター配列)) 普通の書体が吹音、斜体が吸音
_1 _2 _3 _4 _5 _6 _7 _8 _9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
C D E G G B C D E F G A C B E D G F C A
C D E G G B C D E F G A C B E D G F C A

演奏も容易で日本では昔から人気があった。古い歌謡曲の歌本にはハーモニカ用の数字譜が付いているものも多かった。日本では穴の数を増やし低音部でもメロディが吹けるように工夫し、21穴や23穴3オクターブのものが主流であり、ハーモニカ・メーカーでも、主力品種のモデルには、長調短調24調子を揃えていることが多いし、売れ口のモデルには特注で「ナチュラル・マイナー・ハーモニカ」も用意されていることもある。特殊な例として、トンボ楽器製作所の製作した、日本民謡に対応したペンタトニック・モデル・ハーモニカなど限定的使用機種も開発されている。

複音ハーモニカの音配列(川口章吾考案の日本式24穴音配列) 普通の書体が吹音、斜体が吸音
_1 _2 _3 _4 _5 _6 _7 _8 _9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
G D C F E A G B C D E F G A C B E D G F C A E B
G D C F E A G B C D E F G A C B E D G F C A E B

※ 21穴に低音部のG、高音部のE、bを追加してある。


21穴式  24種類、配列紹介   (C) stephano

音階
メジャー 2 1 4 3 6 5 7 1 2 3 4 5 6 1 7 3 2 5 4 1 6
E♭.D# ファ
F
#レ
D#
#ソ
G#

G

C
#ラ
A#

D
#レ
D#
ファ
F

G
#ソ
G#
#ラ
A#

C
#レ
D#

D

G
ファ
F
#ラ
A#
#ソ
G#
#レ
D#

C
D
E

D

G
#ファ
F#

B

A
#ド
C#

D

E
#ファ
F#

G

A

B

D
#ド
C#
#ファ
F#

E

A

G

D

B
D♭.C# #レ
D#
#ド
C#
#ファ
F#
ファ
F
#ラ
A#
#ソ
G#

C
#ド
C#
#レ
D#
ファ
F
#ファ
F#
#ソ
G#
#ラ
C#
#ド
C#

C
ファ
F
#レ
D#
#ソ
G#
#ファ
F#
#ド
C#
#ラ
A#
C
D

C
ファ
F

E

A

G

B

C

D

E
ファ
F

G

A

C

B

E

D

G
ファ
F

C

A
B #ド
C#

B

E
#レ
D#
#ソ
G#
#ファ
F#
#ラ
A#

B
#ド
C#
#レ
D#

E
#ファ
F#
#ソ
G#

B
#ラ
A#
#レ
D#
#ド
C#
#ファ
F#

E

B
#ソ
G#
B♭.A#
C
#ラ
A#
#レ
D#

D

G
ファ
F

C
#ラ
C#

C

D
#レ
D#
ファ
F

G
#ラ
A#

A

D

C
ファ
F
#レ
D#
#ラ
A#

G
A
B

A

D
#ド
C#
#ファ
F#

E
#ソ
G#

A

B
#ド
C#

D

E
#ファ
F#

A
#ソ
G#
#ド
F#

B

E

D

A
#ファ
F#
A♭.G# #ラ
A#
#ソ
G#
#ド
C#

C
ファ
F
#レ
D#

G
#ソ
G#
#ラ
A#

C
#ド
F#
#レ
D#
ファ
F
#ソ
G#

G

C
#ラ
A#
#レ
D#
#ド
C#
#ソ
G#
ファ
F
G
A

G

C

B

E

D
#ファ
F#

G

A

B

C

D

E

G
#ファ
F#

B

A

D

C

G

E
F# #ソ
G#
#ファ
F#

B
#ラ
A#
#レ
B#
#ド
C#
ファ
F
#ファ
F#
#ソ
G#
#ラ
A#

B
#ド
C#
#レ
D#
#ファ
F#
ファ
F
#ラ
A#
#ソ
G#
#ド
C#

B
#ファ
F#

D
F
G
ファ
F
#ラ
A#

A

D

C

E
ファ
F

G

A
#ラ
A#

C

D
ファ
F

E

A

G

C
#ラ
A#
ファ
F

D
E #ファ
F#

E

C
#ソ
G#
#ド
C#

B
#レ
D#

E
#ファ
F#
#ソ
G#

A

B
#ド
C#

E
#レ
D#
#ソ
G#
#ファ
F#

B

A

E
#ド
C#
音階
マイナー 7 6 2 1 4 3 #5 6 7 1 2 3 4 6 #5 1 7 3 2 6 4
Em.D#m ファ
F
#レ
D#
#ソ
G#
#ファ
F#

B
#ラ
G#

D
#レ
D#
ファ
F
#ファ
F#
#ソ
G#
#ラ
A#

b
#レ
D#

D
#ファ
F#
ファ
F
#ラ
A#
#ソ
G#
#レ
D#

B
Dm
E

D

G
ファ
F
#ラ
A#

A
#ド
C#

D

E
ファ
F

G

A
#ラ
A#

D
#ド
C#
ファ
F

E

A

G

D
#ラ
A#
D♭m.C#m #レ
D#
#ド
C#
#ファ
F#

E

A
#ソ
G#

C
#ド
C#
#レ
D#

E
#ファ
F#
#ソ
G#

A
#ド
C#

C

E
#レ
D#
#ソ
G#
#ファ
F#
#ド
F#

C
Cm
D

C
ファ
F
#;レ
D#
#ソ
G#

G

B

C

D
#レ
D#
ファ
F

G
#ソ
G#

C

B
#レ
D#

D

G
ファ
F

C

D
Bm #ド
C3

B

E

D

G
#ファ
F#
#ラ
A#

B
#ド
C#

D

E
#ファ
F#

G

B
#ラ
A#

D
#ド
C#
#ファ
F#

E

B

G
B♭m.A#m
C
#ラ
A#
#レ
D#
#ド
C#
#ファ
F#
ファ
F

A
#ラ
A#

C
#ド
C#
#レ
D#
ファ
F
#ファ
F#
#ラ
A#

A
#ド
C#

C
ファ
F
#レ
D#
#ラ
A#
#ファ
F#
Am
B

A

D

C
ファ
F

E
#ソ
G#

A

B

C

D

E
ファ
F

C
#ソ
G#

C

B

E

D

A
ファ
F
A♭m.G#m #ラ
A#
#ソ
G#
#ド
C#

B

E
#レ
D#

G
#ソ
G#
#ラ
A#

B
#ド
F#
#レ
D#

E
#ソ
G#

G

B
#ラ
A#
#レ
D#
#ド
C#
#ソ
G#

E
Gm
A

G

A
#ラ
A#
#レ
D#

D
#ファ
F#

G

A
#ラ
A#

C

D
#レ
D#

G
#ファ
F#
#ラ
A#

A

D

C

G
#レ
D#
F#m #ソ
G#
#ファ
F#

B

A

D
#ド
C#
ファ
F
#ファ
F#
#ソ
G#

A

B
#ド
C#

D
#ファ
F#
ファ
F

A
#ソ
G#
#ド
C#

B
#ファ
F#

D
Fm
G
ファ
F
#ラ
A#
#ソ
G#
#ド
C#

C

E
ファ
F

G
#ソ
G#
#ラ
A#

C
#ド
C#
ファ
F

E
#ソ
G#

G

C
#ラ
A#
ファ
F
#ド
C#
Em #ファ
F#

E

A

G

C

B
#レ
D#

E
#ファ
F#

G

A

B

C

E
#レ
D#

G
#ファ
F#

B

A

E

C

その他のハーモニカ

ハーモニカの歴史の中にはさまざまな変わった機種が存在するが、現在では上記の3種が主流である。他に使われるものとしては、複音ハーモニカから派生した、上下にリードをオクターブ違いに調律したものがある。これは「オクターブ・ハーモニカ」と呼ばれる。この機種はかなり限定的な使用をされるので各メーカーで必ず制作している物ではない。構造としては、二段式の穴になっており、上と下では同じ音階だがオクターブの異なるリードが同時に鳴るので、ハーモニカ・アンサンブルなどで伴奏に厚みを付ける役目で利用されるにとどまる。

また、「コード・ハーモニカ」と「バス・ハーモニカ」があるが、ハーモニカ・アンサンブルでの上記同様、伴奏楽器として以外に使用されることはまずない。利用方法も限定的なため、古くから同じ機種が細々と継続販売されている物が多い。

この他、複数のトランペット型のホーンが付いたハーモニカ(ビブラート効果があり独特な響きになる)や、ベル付きのハーモニカ、調が異なる複数のハーモニカを星形にまとめて転調もこなせる回転式ハーモニカ、夜中でも練習できる消音器付きハーモニカ[2]など、ユニークな機種が多数、存在する。

ハーモニカの構造と材質及びその分類

内部構造

ハーモニカのリードは金属製で、一般的には合金である真鍮を主に使われるが、それに多種の金属を混ぜた複雑な合金製の物もあり、真鍮リードと一言で言っても、国内で使用が許可された真鍮合金は11種類有る。また、最近は、真鍮ではなくステンレスを用いたリードを持つハーモニカ (サイドル・ゾーン社製の物) も発売されている。これは真鍮性の物よりは丈夫であるが、せいぜい真鍮性の3倍程度の寿命が延びるもので、サイドル・ゾーン社のアナウンスほど耐久性が有るとの実証実験をされた物ではない。

次に、それぞれのリードよりわずかに大きい穴を開けたリード・プレートにリードが取りつけられ、「木製」あるいは、「プラスティック」、「木製の微細なチップを合成樹脂に練り込んだ特殊樹脂の新素材」、「アクリル樹脂」、また近年は「無垢のアルミ素材」や「真鍮にメッキをした金属」のボディ(これらは櫛型筐体のためコームと呼ばれる)などにリード・プレートが取りつけられる。高級品ハーモニカのコームは「木材製」にこだわる物も多くある。主に使用される木材は、国内だと楓材やローズウッド材があり、狂いも出にくく音程が安定しやすい。ドイツのホーナー社などは初期の頃はカリン材を使用していた。特定のコーム素材が他のコーム素材よりも優れているのは、その耐久性である[3]

そのコームにリード・プレードを取り付ける。昨今の「合成樹脂コーム」、「木材粉末入り特殊樹脂コーム」、「アクリル・コーム」、「無垢なアルミニウム素材で仕上げたコーム」そして、「真鍮素材に鍍金を施した金属製コーム」などは、先のリード・プレートをネジで締め付けて止める様に設計されている。しかし、戦前からある高級木製ハーモニカは、国内産の物は既に高級版しか残存しないため、ネジ止めとはせずに、わざわざ昔ながらの製法を尊び、リードプレートは、木製コームに釘止めされて組み上げられている。そのため、分解清掃が頻繁には出来ない。

また、コームにはリードの長さにあわせた溝が掘ってあり、前面の吹き口から吹き込まれた息で、それぞれのリードを振動させる仕組みとなっている。リードを取りつける向きによって、吹き吸い別々のリードを鳴らすことができる。「吹奏する楽器」であるが、いわゆる管楽器のような管体を持っていないので、管楽器という呼称はあまり用いられず、分類するなら(リードオルガン類)である。このことが口琴と言う名前の由来となっている。

一番利用率の高いコームの材質は、現在は殆どが合成樹脂製のものである。製造が安価で楽に出来ること、複雑な形の物も簡単に製作でき不良品が出にくい、また、長時間の演奏でも水分を吸収しないために、音質が安定しているなどの長所がある。リード・プレードとの接合部から息がもれるのも少ないため、その多くは音の立ち上がりが際だち、澄んだ音質に鳴りやすい。

しかし、より精緻な音質や微妙な余韻にこだわる高度な演奏家向けには、いろいろな素材のコームで出来た高級ハーモニカが販売されている。一般的には木材製の物は水分を含むと膨張して音程が狂ったり、変形しやすいのだが、ホーナー社は昔はカリン材を使用していた。カリン材(Pterocarpus indicus Willd., 1802) とは、「Burmese Rosewood」などと呼ばれ、バラ科のカリン(Chaenomeles sinensis (Thouin) Koehne, 1893) とは別種の木材である。ここで述べるカリン材とは、マメ科シタン属の広葉樹であり、主にミャンマーなどが主要産出国である。材質はシタン(紫壇)に劣るが、耐朽性は大きい。

また、日本の国産高級ハーモニカには、昔ながらの楓材を使用している物もある。本来の楓材とは、ハード・メープル(Acer saccharum Marshall, 1785) と ソフト・メープル {レッド・メープル(Acer rubrum L., 1753), シルバー・メープル(Acer saccharinum L., 1753), ボックスエルダー(Acer negundo L., 1753)などの以上3種の楓材の総称。} の合計4種の木材のことを指す。これらは用途に応じて使い分けられる。(しかしソフト・メープルとして分類される樹種のボックスエルダーは用材として現在はあまり使われない。) また、トンボ楽器製作所などは、以上の海外楓材ではなく、国産の楓に拘り、独自に開発使用しており、これはどの種(しゅ)のカエデを使用材としているかの内訳は非公開である。カエデ属の植物は964 records.もの多種が学術記載をされているため、真相は不明である。 

最近の流れとして、より良い音質と美しさを兼ね備えた付加価値が見いだされているため、鈴木楽器製作所などでは、ローズウッドを使用している高級機種が開発されている。ローズウッドとは、花のバラとは全く関係ない樹木で、マメ科のツルサイカチ属(Dalbergia)及び、シタン属(Pterocarpus)に属する木材である。西洋で高く評価されるローズウッドは、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra (Vell.) Allemão ex Benth., 1860) なのだが、今ではワシントン条約 (CITES) で絶滅の危機に瀕した種に指定されており入手困難である。(ブラジリアン・ローズウッドはリオ・ローズウッド、バイア・ローズウッドとしても知られている。)この木材は強い甘い匂いがあり、この匂いは長年持続するので、「ローズウッド」という名前が付けられた。591 records もの数が学術記載をされている、ツルサイカチ属のすべての樹種がローズウッドというわけではなく、ローズウッドと呼ばれる木は、その中でもおよそ 12 種類に過ぎない。東洋で重要視される木材のシタン(紫檀)も精密加工に向いた木材として利用することのできるツルサイカチ属(Dalbergia)及び、シタン属(Pterocarpus)に属する樹木の総称であり、ローズウッド同様堅く磨きが掛けられる良質の材質が得られる木材である。

それらとは逆に、コームを金属で製作した物も増えてきている。アルミニウムや、真鍮にクロム鍍金をしたものなどである。金属コームのハーモニカは、音質の正確性が依り増すので、レコーディングなどに向いたプロ用の超高級ハーモニカが作れる。

上記のリード・プレートとコームが組み上げられた物に、さらに金属のカバー・プレートで覆いネジ止めをして組み立てが完了する。この金属性のカバー・プレートが共鳴箱の役割をしてハーモニカの音を響かせている。そのため、このカバー・プレートの素材や素材の厚み、開口部の形状、カバー・プレートの金属に対するメッキの種類などを変えることで、音質もかなり大きく異なるため、金属のカバー・プレートは軽視されがちな部材であるが、この金属のカバー・プレートは実はとても大切な部材なのである。

また、ハーモニカのリードは、音を出す音域の周波数と同じ回数1秒間に振幅をし、音を発する。薄い金属片が1秒間に400回以上振える訳であり、長年月使用していたり、過度な使用をすれば必ず金属疲労を起こして、音程が狂ってくる。そして、その後はリードは折れてしまう。そのためリードは消耗品である。音程が不安定になってきたときには、リードの金属疲労が懸念されるので、専門家に見て貰うか、新規に購入し直す必要がある。金属疲労を起こし始めたハーモニカを使い続けていると、吸い音の際に折れたリードが口腔内に入り事故になる事例もあるので、この危険性はきちんと認識をしておく必要がある。なお、上を向いて吹くとより一層危険である。このことは、国内メーカー、特に鈴木楽器製作所の取扱説明書には記載されている。また、口を付ける楽器の性質上、ハーモニカを常に清潔に保つために、演奏前には必ず口腔内を丁寧に濯いでハーモニカを演奏し、演奏後はハーモニカを軽く振って水分を切ることが大切である。


注釈

  1. ^ 1965年12月16日、ジェミニ6-A号の船長ウォルター・シラー(ウォーリー・シラ)が地球と交信中、こっそり宇宙船に持ち込んだ私物のハーモニカ(ホーナー社のミニハーモニカ「リトル・レディ」)でジングル・ベルを演奏した。その時の音声はYouTubeのビデオ Gemini 6: Jingle Bells その他で聴くことができる。
  2. ^ 曲名:『ハンガリー舞曲第5番』 演奏者:台湾「狂響口琴楽団」 撮影地:東京・谷口楽器 撮影日:2018年3月12日
  3. ^ グランド・ファンク・レイルロード。『孤独の叫び』でブルースハープを演奏。
  4. ^ ジョン・レノンにハーモニカを教えたとされる
  5. ^ ヤードバーズのヴォーカル兼ハープ奏者。76年に33歳で死去
  6. ^ 元ラヴィン・スプーンフル。76年にソロでもヒットを放った
  7. ^ スティーヴ・ミラー・バンドと共演
  8. ^ 大阪市鶴見区でハーモニカ教室を主宰しており、南里沙・山下伶ら数多くの若手プロハーモニカプレーヤーを育成。クロマチックハーモニカ教本&曲集やハーモニカのメンテナンス方法を解説したDVDも出版。
  9. ^ 国内及び国際コンクールで数々の優勝を果たし、精力的な演奏活動を行う。2013年5月22日にアルバム『Mint Tea』(キングレコード)でメジャーデビューし、多くのアルバムを発表。ドイツ・HOHNER社とエンドース契約を結ぶ。
  10. ^ 学生時代にハーモニカとギターを独学で始める。1994年に鈴木楽器製作所へ入社し、2007年に退社するまでの13年間「ハーモニカに携わる業務全般(製造・修理・組立・調律・営業・教本&曲集編集など)」を経験。
  11. ^ 週に1-2回東京都内の徳永ハーモニカ教室で講師を兼務すると共に、メジャーデビュー前からロマチックハーモニカ&フルート演奏・及びメディア出演を通じての「クロマチックハーモニカ普及活動」を精力的に展開している(自身が講師を務めるハーモニカ教室受講生の発表会も年に数回開催)。2016年7月20日にアルバム『Beautiful Breath』でプロデビューした。ホーナー製クロマチックハーモニカ「Super 64 Gold・X」を愛用している。

出典

  1. ^ bass 58”. www.hohner.de. www.hohner.de. 2021年9月22日閲覧。
  2. ^ 鈴木楽器製作所のサイレンサー(消音器)付きハーモニカ「SUZUKI SNB-20  SHINOBIX 忍」
  3. ^ Weinstein, Randy F.; Melton, William (2001). The Complete Idiot's Guide to Playing the Harmonica. ISBN 0-02-864241-4. https://archive.org/details/completeidiotsgu00will 2021年3月9日閲覧。 
  4. ^ 下川耿史 家庭総合研究会 編『明治・大正家庭史年表:1868-1925』河出書房新社、2000年、395頁。ISBN 4-309-22361-3 
  5. ^ https://www.suzuki-music.co.jp/information/11261/ 鈴木楽器製作所公式サイト「ハーモニカの歴史」 2021年1月30日閲覧
  6. ^ 尾高暁子『両大戦間期の中日ハーモニカ界にみる大衆音楽の位置づけ』,東京藝術大学音楽学部紀要 33, pp.15-34, 2007年
  7. ^ 455 Echo Celeste Tremolo Harmonica”. www.musiciansfriend.com. www.musiciansfriend.com. 2021年9月22日閲覧。
  8. ^ Huey, Steve. “Big Walter Horton: Biography”. AllMusic. 2023年9月19日閲覧。
  9. ^ AllMusicのバイオ
  10. ^ "I Started the Big Noise Around Chicago". Interview with Snooky Pryor conducted by Jim O'Neal, Steve Wisner, and David Nelson. Living Blues, no. 123 (Sept.–Oct. 1995), pp. 10–11.
  11. ^ Brian Jones”. The Rolling Stones.com. The Rolling Stones. 2015年1月30日閲覧。
  12. ^ Barnard, Stephen (1993). The Rolling Stones: Street Fighting Years. BDD Illustrated Books. p. 22. ISBN 079245801X 
  13. ^ a b “ハーモニカ奏者、大石昌美氏が死去 「歌うハーモニカ」と親しまれる”. サンケイスポーツ. 産経デジタル. (2021年7月1日). https://www.sanspo.com/article/20210701-PV62QNYI35M35OKXGJKESU477Q/ 2023年1月9日閲覧。 
  14. ^ “ブルースハーモニカ第一人者の妹尾隆一郎さんが死去”. サンケイスポーツ. 産経デジタル. (2017年12月23日). https://www.sanspo.com/article/20171223-EZRE5LJMPRJ2JNYFX4RVQ2P6WQ/ 2023年1月9日閲覧。 
  15. ^ 堀井勝美プロジェクト・1993年8月21日発売のアルバム『LOVERS』での櫻井隆章のライナーノーツによる。
  16. ^ トンボ楽器製作所製のハーモニカホルダー「HH-800」を考案。また、同社の10穴ハーモニカ「メジャー・ボーイ」の製作にも協力。現在両モデルは国内外を問わず広く使用されている。[1]
  17. ^ 連続テレビ小説『エール』解説付き再放送直前コラム - 全日本歌謡情報センター 2020年10月22日閲覧






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