コンパイラ 分類

コンパイラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 08:56 UTC 版)

分類

機械語にコンパイルするコンパイラもあれば、そうでないコンパイラ(後述)もある。機械語コードのことを、ハードウェアであるプロセッサの生のコード、というような意味でネイティブコードなどと言うことがあり、機械語にコンパイルするコンパイラのことをネイティブコンパイラと言うことがある。

コンパイラに限らず、入力と出力を持つあらゆる変換系は、入力の種類がm種類、出力の種類がn種類あるとすると、m×n種類があることになる。コンパイラの場合、プログラミング言語がm種類、コード生成の対象となる命令セットアーキテクチャがn種類、といったような感じになるわけであり、入力側をフロントエンド、出力側をバックエンドと言うが、中間表現の設計いかんでは、残りの中間処理の部分、特に重要な部分であるコンパイラ最適化を共有できるため、1980年代以降に基本設計が為されたGCCやCOINSやLLVMなどでは、そのようにして多言語・多ターゲットに対応している。

汎用OSなど、開発環境と同じ環境で目的プログラムも動作させるような開発を「セルフ開発」と言い、セルフ開発のコンパイラを「セルフコンパイラ」という。それに対し、開発環境とは別の環境で実行するような開発を「クロス開発」といい、そのためのコンパイラをクロスコンパイラという。OSカーネル自身のコンパイルなどは、カーネル自身の実行環境は、そのOSではなくベアメタルであるという意味ではある種のクロスコンパイルのようなものであるし、新しいコンピュータシステムのための環境を最初に作るにはクロス開発の必要がある。あるいは、組み込みシステムPDAなど、それ自体が開発環境を動作させるだけの機能や性能を持たない場合、といったものもある。

いわゆるネイティブコードではなく中間コードを生成し、さらに別のコンパイラに処理を任せたり、別のインタプリタによって実行したりするものもある。これを中間コードコンパイラ、バイトコードコンパイラなどと呼ぶ。またそのバイトコードを解釈実行する処理系をバイトコードインタプリタなどと呼ぶ。

ワンパスとマルチパス

コンパイラは様々な処理の集合体であり、初期のコンピュータではメモリ容量が不十分であったため、一度に全ての処理を行うことができなかった。このためコンパイラを複数に分割し、ソースコードや何らかの中間的な表現に何度も処理を施すことで解析や変換を行っていた。

一回でコンパイルが可能なものをワンパスコンパイラと呼び、一般にマルチパスコンパイラよりも高速で扱いやすい。Pascalなど、多くの言語はワンパスでコンパイルできるよう意図して設計されている。

言語の設計によっては、コンパイラがソースコードを複数回読み込む必要がある。たとえば、20行目に出現する宣言文が10行目の文の変換に影響を与える場合がある。この場合、一回目のパス(読み込み)で影響を受ける文の後にある宣言に関する情報を集め、二回目のパスで実際の変換を行う。

ワンパスの欠点は、高品質のコードに欠かせない最適化を行いにくいという点が挙げられる。最適化コンパイラが何回読み込みを行うかというのは決まっていないが、最適化の各フェーズで同じ式や文を何度も解析することもあるし、一回しか解析しない箇所もある。

コンパイラを小さなプログラムに分割する手法は、研究レベルでよく行われる。プログラムの正当性の判定は、対象プログラムが小さいほど簡単なためである。

ネイティブコンパイラの他にも以下のような、「ネイティブの機械語」以外をターゲットとするコンパイラ(ないしトランスレータ)がある。

  • 何らかの高水準言語から、何らかの高水準言語に変換する「トランスレータ」。「トランスコンパイラ」などという語もある。たとえば、OpenMPなどの自動並列化コンパイラは並列化が明示されていないプログラムを、並列化を明示したプログラムに変換する。または、FORTRANの DOALL 文など何らかの言語構文を変換する。
  • ステージコンパイラ(Stage Compiler)は何らかの理論上のマシンのアセンブリ言語を出力する。たとえば、一部のPrologでそのような実装がなされている。[要出典]JavaPython のバイトコードコンパイラもステージコンパイラの一種と言える。
  • Java や Smalltalk やマイクロソフトの共通中間言語システムで使われているJITコンパイラ。コンパイラはいったん中間表現を生成し、実行時に中間表現がターゲットの機械語にコンパイルされる。

コンパイラ言語

もっぱらその言語の処理系がコンパイラとして実装される言語を「コンパイラ言語」などと言い、インタプリタとして実装される言語を「インタプリタ言語」などと言うこともあるが、実験的な実装まで含めればどちらもある言語も多い。Microsoft Visual Studioに付属するF#/C# Interactiveのように、対話環境で入力したプログラムを、コンパイラで共通中間言語中間表現)にコンパイルし、さらに共通言語ランタイム仮想機械)上でネイティブコードにJITコンパイルしてインタプリタ的に実行する、というような処理系もある。JavaMicrosoft Visual Basicのように、登場当初はインタプリタ方式だったが、のちにネイティブコードへのJITコンパイルやAOTコンパイルをサポートするようになった言語もある。

Common Lispなど言語によっては、実装にコンパイル機能を含むことを義務とする仕様もある(ただし、Common Lisp仕様は解釈実行の処理系を禁止しているのではない)。また、インタプリタの実装が容易でコンパイラの実装が困難な言語もある(APLSNOBOL4など)。メタプログラミングの利用、特に文字列をevalすることは、インタプリタ方式では造作ないことだが、コンパイラ方式では実行環境にコンパイラ自体が必要となる(動的プログラミング言語も参照)。

ハードウェア・コンパイラ

ハードウェア記述言語の処理系(合成系)を、ハードウェアコンパイラとかシリコンコンパイラなどと呼ぶことがある。

コンパイルのタイミング

コンパイルをアプリケーションの実行時に行うか、実行前に行うかで2つに分かれる。

  • 事前コンパイラ - 実行前に事前にコンパイルする。Ahead-Of-Timeコンパイラ (AOTコンパイラ)。
  • 実行時コンパイラ - 実行時にコンパイルする。Just-In-Timeコンパイラ (JITコンパイラ)。

教育用コンパイラ

コンパイラ構築とコンパイラ最適化は、大学での計算機科学情報工学のカリキュラムの一部となっている。そのようなコースでは適当な言語のコンパイラを実際に作らせることが多い。文書が豊富な例としてはニクラウス・ヴィルトが1970年代に教育用に設計し、教科書中で示した PL/0 がある[14]。PL/0 は単純だが、教育目的にかなった基本が学べるようになっている。PL/0 はPascalで書かれていた。ヴィルトによる教科書は何度か改訂されており、1996年の版ではOberonでOberonのサブセットOberon-0を実装している。

  1. 段階的改良によるプログラム開発[リンク切れ]の採用
  2. 再帰下降構文解析の採用
  3. 拡張BNF記法による文法記述の採用
  4. Pコードの採用
  5. ブートストラップ問題をT図式(en:Tombstone diagram)で形式的に記述

注釈

  1. ^ この本の表紙には赤いドラゴンの絵が描かれているのでドラゴンブックと呼ばれている。
  2. ^ オブジェクトコードの記述に使われる言語は、要は、その言語から最終的に機械語に翻訳する道筋が1筋(1本)でもあるものであればよい。理論上、機械語にたどり着くまでに途中で何種類もの言語にコンパイル(翻訳)する必要があっても、ともかく最終的に機械語に翻訳するまでの道筋が1本あれば良い。オブジェクトコードの記述に使われる言語は必ずしもアセンブリ言語や機械語でなくてもよい。たとえばC++で書かれたオブジェクトコードを出力するコンパイラやC言語で書かれたオブジェクトコードを出力するコンパイラもある。それぞれ、C++を機械語に、あるいはC言語を機械語に変換するコンパイラを別途用意すれば最終的にCPUが実行できる機械語に変換できる。よくあるのはアセンブリ言語で書かれたオブジェクトコードを出力するコンパイラである。アセンブリ言語で書かれたプログラムも通常そのままでは実行できないが、アセンブラを使ってやはりCPUが実行できる機械語に変換できる。
  3. ^ 最終的に出力されるターゲットプログラムは、機械語やアセンブリ言語で記述したものが多いが、それらに限るわけではなく、中間コードや高級言語のプログラムを出力するコンパイラもある。

出典

  1. ^ a b (※)コンパイラの定義文にわざわざ「一括して」という言葉を含めることが多いのは、インタプリタと対比するためである。「一括して」を入れないとインタプリタまで含んでしまい、定義文としては落第点ものとなる。Merriam Websterの英文の定義文でも、やはり「translates an entire set of instructions[1]と、「命令群(の一部分ではなく)全部を」と明記している。
  2. ^ コンパイラとは - IT用語辞典”. IT用語辞典 e-Words. 2023年2月22日閲覧。
  3. ^ a b c d Alfred V. Aho, Compilers, Principles, Techniques, and Tools. Reprinted with corrections March, 1988.(Copyright 1986,Bell Telephone Laboratories, Incorporated), pp.1-2. (Chapter 1.1 "COMPILERS"の節の説明)
  4. ^ ASCII.jpデジタル用語辞典,デジタル大辞泉,IT用語がわかる辞典. “オブジェクトコード(おぶじぇくとこーど)とは”. コトバンク. 2020年4月26日閲覧。
  5. ^ 例えばCPUGPUなど。
  6. ^ 分割コンパイル”. www3.nit.ac.jp. 2020年4月27日閲覧。
  7. ^ プログレッシブ英和中辞典「compile」
  8. ^ Oxford Dictionary; Produce (a list or book) by assembling information collected from other sources 「何らかの情報源から集めた情報を元にして、一覧や本を作りだす」
  9. ^ プログレッシブ英和中辞典「compiler」
  10. ^ 大辞泉「コンパイラ」
  11. ^ Oxford Dictionary; compiler: A person who produces a list or book by assembling information or written material collected from other sources.
  12. ^ bit 編集部『bit 単語帳』共立出版、1990年8月15日、82頁。ISBN 4-320-02526-1 
  13. ^ CSAIL Publications”. publications.csail.mit.edu. 2020年6月16日閲覧。
  14. ^ https://www.246.dk/” (デンマーク語). 2020年6月16日閲覧。
  15. ^ 2020年4月13日 8分. “コンパイラとインタプリタの違いは?言語の違いを分かりやすく解説!”. じゃぱざむ. 2020年4月27日閲覧。
  16. ^ インタプリタとコンパイラ”. nyumon-info.com. 2020年4月27日閲覧。
  17. ^ a b Alfred V. Aho, Compilers, Principles, Techniques, and Tools. 1988., pp.10-15. 「1.3(1章3節) THE PHASES OF A COMPILER」
  18. ^ コンパイラの構造を解説 | Shinta's Site”. www.gadgety.net. 2020年4月27日閲覧。
  19. ^ コマンド:lex: UNIX/Linuxの部屋”. x68000.q-e-d.net. 2020年4月27日閲覧。
  20. ^ パーサジェネレータとは - Weblio辞書”. www.weblio.jp. 2020年4月27日閲覧。
  21. ^ コンパイラの入り口、「字句解析」のための文字列操作 (1/3)”. @IT. 2020年4月27日閲覧。
  22. ^ a b コンパイラの構成と最適化. Nakata, Ikuo, 1935-, 中田, 育男, 1935-. Tōkyō: Asakurashoten. (2009). ISBN 978-4-254-12177-3. OCLC 675837876. https://www.worldcat.org/oclc/675837876 
  23. ^ プリプロセッサとは - IT用語辞典”. IT用語辞典 e-Words. 2020年4月27日閲覧。
  24. ^ 抽象構文木”. home.a00.itscom.net. 2020年4月27日閲覧。
  25. ^ VU - exp. - compiler-general”. www.is.s.u-tokyo.ac.jp. 2020年4月27日閲覧。
  26. ^ MaryCore. “知っておいて損はない「コンパイラ最適化」の数々”. MaryCore 言語知能総合研究所. 2020年4月27日閲覧。






コンパイラと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「コンパイラ」の関連用語

コンパイラのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



コンパイラのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのコンパイラ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS