運命論者
運命論者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 03:06 UTC 版)
軍左翼のコサックの村に2週間ほど滞在していた時のこと。 歩兵大隊の将校たちは、毎晩、順番に誰かの宿舎に集まってはカード遊びをするのが常だった。ある晩、S少佐の宿舎で、ボストン遊びにも飽きた頃、人間の運命は天上に記されている、というのは本当か、という議論で一座は盛り上がったが、各々が自説を披露するだけで結論は出ない。そこへヴーリッチ中尉 поручик Вуличが立ち上がり、「自由か宿命か、試してみれば良いではないですか」と言った。俺が最初冗談で「賭けで試しましょう。私は、宿命などない方に賭けます」と言い金貨を取り出すと、賭博好きのヴーリッチは乗って来て、本当に賭けが始まった。 ヴーリッチは少佐の寝室へ行き、壁に掛けられたいくつもの銃器から、ランダムに1挺のピストルをつかみ出し、火薬を詰めた。そして一同が別室のテーブルを囲んで座った時、俺にはヴーリッチの顔に、あと数時間で死ぬ、という予兆が見え、「あなたは今日死にますよ」と思わず口走ってしまった。 ヴーリッチは自分の額に銃口を当て、引き金を引いた。- 不発だった。次いで、窓の上側に掛かっている軍帽を狙って撃つと、今度は銃声が響き、帽子は撃ち抜かれた。ピストルは装填されていたのである。俺は賭けに負けた。 帰途、真っ二つに斬られた豚の死骸が、月明かりの路上に転がっていた。間もなく2人のコサックが走って来て、豚を追いかける酔っ払いのコサックを見なかったか、と訊く。俺が豚の死骸を指差すと、早く捕まえないと、と口々に言いながら2人は走り去った。 翌朝4時に、俺は3人の将校に叩き起こされた。ヴーリッチが殺されたという。夜の帰り道、例の豚殺しのコサックと鉢合わせたのだ。俺の直感は当たっていた。そしてヴーリッチは臨終に「彼は正しい」と言ったそうだ。殺人犯が立てこもった村はずれの空き家に着くと、俺は犯人生け捕りの陣頭指揮を取った。
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