賃金の引き上げ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/23 05:32 UTC 版)
経済学者の伊藤元重は「持続的な物価上昇が実現するためには、賃金の上昇がカギとなる。賃金が上昇していくことで、それが物価にも反映される。そうした連鎖が生まれて、初めてデフレからの完全な脱却が可能となる。ただし、賃金はあくまでも民間企業・労働市場が決めるものである。企業の行動だけに過度に期待してはいけない。賃金を引き上げるためには、雇用を拡大させなければならない。雇用が拡大し、労働市場の需給が締まれば、賃金を引き上げざるをえなくなる。賃金上昇では労働市場における需給ギャップが大きな鍵を握る」と指摘している。 若田部昌澄は「賃金が上がらないと物価は上がらないというのは定説であり、物価だけ先に上がるというのは考えにくい」と指摘している。若田部は「デフレで実質賃金が上がっている状態で、さらに最低賃金を引き上げると、企業は雇用に慎重になる。最低賃金の引き上げが、デフレ不況を解消するほどの需要にならず、悪い効果を与える可能性が高い」と指摘している。 インフレのときには物価以上に賃金が上がるケースが多い。インフレと賃金の上昇は同時には起きず、賃金の上昇が少し遅れるというタイムラグが一般的である。 名目賃金とインフレーションが同じ速さで同時に上昇すると、実質賃金が上昇しなくなり、いったん増加した労働供給量が減少に転じ、統計的に失業率が上昇する。 浜田宏一は「インフレ期待が高まると、雇用増加の機会を失う場合もある。労働者が将来のインフレを見込んで賃上げを要求した結果、実際のインフレ時に名目賃金も上昇することで、実質賃金は変化しない。一方で、労働者がインフレを期待せずに賃上げを要求しなければ、企業はインフレによる実質賃金の低下に成功し、雇用を増やせる」と指摘している。 経済学者の原田泰は「失業率が下がっていけば、いずれ賃金は上がる。しかし、雇用が伸びる前に賃金を上げては、かえって雇用の伸びを妨げることになりかねない」と指摘している。 田中秀臣は「デフレから脱却すると、実質賃金は当初低下することにより企業側の採用コストが低下し、失業率が低下していく。やがて雇用状況が改善していくと、人手不足などの現象が起き、その後は実質賃金が上昇に転じていく」と指摘している。 岩田規久男は「インフレ予想が高まり需給ギャップが改善すれば、企業は需要の増加に対応し、実質賃金を引き上げてでも雇用と生産を拡大させていく」と指摘している。 池尾和人は「賃金の名目収入を下げるということについて抵抗感があるし、それが維持されているから緩やかなデフレが続いているということがある。それを考えると、緩やかなデフレの下で名目賃金を止めておくとすると、その緩やかなデフレに見合うだけの労働生産性の上昇が全く発生していないと、それは経済全体としては辛くなる。そういう意味で、マイルドなインフレの状況のほうが経済調整がやりやすいから、そういう状況がコストなしに実現できるのであればその方がいい」と指摘している。 「日本のデフレーション#賃金の下落」、「リフレーション#失業と賃金について」、および「スタグフレーション#物価と賃金のスパイラル」も参照
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