背景・原理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/08/08 02:22 UTC 版)
「スギ花粉症」も参照 スギの花粉に対するアレルギー(スギ花粉症)は、IgEを介するI型アレルギーであり、日本では国民病と言えるほど多くの国民が発症している。唯一の根治的治療法としてアレルゲン免疫療法(減感作療法)が開発されているが、治療期間が長期に渡ることや、天然のアレルゲンを含む花粉エキスを用いることからアナフィラキシーショックなどの副作用が懸念されている。この問題を解決するため、副作用のない安全な抗原を作成しイネ種子中に発現させることで経口摂取により短期間でスギ花粉抗原に対する免疫反応性を抑制するスギ花粉症緩和米の開発が進められた。 スギ花粉のアレルゲンとしてCry j1とCry j2の2種類のタンパク質が知られている。これらのアレルゲンをアナフィラキシーショックを避けるためIgE抗体に認識されないようにしつつ、免疫反応性の抑制に必要なT細胞エピトープをもつように改変した改変型アレルゲンが開発された。 一方で、イネの種子にはタンパク質顆粒と呼ばれる細胞小器官が存在し、タンパク質顆粒に蓄積されたタンパク質は種子発芽時まで分解されることがない。また、経口摂取したタンパク質は一般的に胃の消化酵素で分解されるが、タンパク質顆粒の中でも小胞体由来のものに蓄積されたタンパク質はその消化酵素への耐性が高いことが知られている。さらに、腸管では食物タンパク質に対して抗体の産生が抑えられる経口免疫寛容という仕組みがあることが知られており、食物として摂取した場合、異物であっても免疫応答が抑制されていることが知られている。これらの性質を利用し、上記の改変型アレルゲンを小胞体由来タンパク質顆粒特異的に発現させることで大量の抗原をイネ種子中で発現させ、経口摂取により腸まで搬送させるようにしたイネがスギ花粉米である。
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