月からの上昇
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 21:05 UTC 版)
予定されていた船外活動をすべて消化すると、まずオルドリンが先に「イーグル」に戻った。採集した岩石や撮影したフィルムなどを収めた箱は重量が21.55キログラム(47.5ポンド)に上り、月装備運搬装置(Lunar Equipment Conveyor、LEC)と呼ばれるフラットケーブル滑車装置で引っぱり上げたが、ハッチから船内に入れるのには若干苦労した。この方法は効率的でないことが証明されたため、後継のミッションでは機材や試料は手で持って船に荷揚げするようになった。アームストロングは宇宙服の袖のポケットに入っている記念品の袋を月面に残すのを忘れないようにとオルドリンに念を押し、オルドリンは月面に袋を放り投げた。それから、アームストロングははしごの3段目まで一気にジャンプして飛び乗り、はしごを上って船内に入った。船内の生命維持システムに移ったあと、月周回軌道まで帰るための「イーグル」上昇段の明かりをつけ、宇宙服の船外活動用生命維持装置、月面靴、空のハッセルブラッド製カメラなど、不要になった機材を放り捨てて、21日05:01にハッチを閉め、船内を与圧し、2人はようやく月面で初めての睡眠についた。 ニクソン大統領のスピーチライターだったウィリアム・サファイアは、最悪の事態として、万一アポロ11号の宇宙飛行士たちが月で遭難した場合を想定して、大統領がテレビ演説で読み上げるIn Event of Moon Disaster (月で災難の場合)と題した追悼文を用意していた。その不測の事態に対応するための計画は、セイファイアからニクソンの大統領首席補佐官だったH・R・ハルデマンに渡されたメモが発端だった。そのメモには、もしアポロ11号が不慮の事態に見舞われ、ニクソン政権がそれに対する反応を求められるかもしれなかった状況を想定して、セイファイアが作成した追悼の言葉の原案が示されていた。その計画によれば、ミッション管制センターが月着陸船との「交信を絶つ」と、聖職者が海葬になぞらえた公的儀式で「彼らの魂を深い淵の底に委ねる」手はずだった。用意された原稿の最後の一行では、ルパート・ブルックが第一次世界大戦期に詠んだ詩『兵士(英語版)』にそれとなく言及している。 オルドリンは船内で作業しているとき、月面から離陸するために使用する上昇用エンジンを作動させる回路ブレーカーのスイッチを誤って壊してしまった。このことで、船のエンジンの点火が妨げられ、彼らは月面に取り残されてしまう懸念があった。幸いにも、フェルトペンの先でスイッチを作動させることができたが、もしもそれがうまくいかなければ、上昇用エンジンを点火するために着陸船の電気回路は構成し直されていたかもしれなかった。 21時間半以上を月面で過ごした2人は、科学観測機器のほか、1967年1月に訓練中の火災事故で犠牲になった3名の飛行士(ロジャー・チャフィー、ガス・グリソム、エドワード・ホワイト)を追悼してアポロ1号のミッションパッチを、また古くから平和の象徴とされてきたオリーブの枝を模した金のレプリカの入った記念袋を、そして地球からのメッセージを収めたシリコンディスクを月面に残してきた。ディスクには、アメリカのアイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソンの歴代大統領からの親善声明文(英語版)や世界73か国の指導者たちから寄せられたメッセージが収録されていたほか、アメリカ合衆国議会の代表者たち、NASAの設立に尽力した上下両院の4つの委員会のメンバー、およびNASAの歴代長官の名前の一覧も記録されていた。 およそ7時間の睡眠ののち、アームストロングとオルドリンはヒューストンからの目覚ましによって起こされ、帰還飛行の準備を始めるよう指示された。2時間半後の21日17:54:00(UTC)に2人は「イーグル」の上昇段エンジンを点火して月を離陸し、コリンズが搭乗している月周回軌道上の司令船「コロンビア」を目指した。月面離陸時に「イーグル」の上昇段から撮影された映像には、月面に残された下降段から25フィート(8メートル)ほど離れた場所に立てられた星条旗が、上昇段エンジンの噴射で激しくはためく様子がとらえられていた。オルドリンはちょうど旗がぐらついて倒れるのを目撃し、「上昇を始めたとき、私はコンピュータの操作に集中し、ニールは姿勢指示器を注視していたが、私は旗が倒れるのを長い間見ていられた」と報告した。そのため、以後のアポロミッションでは、上昇段エンジンの噴射で吹き飛ばされることのないように、星条旗は着陸船から離れた位置に立てられることになった。
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