日本語訳小史
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1922年発表の作品だけに、第二次世界大戦前から井上良夫の翻訳によって紹介されていた。この井上訳は終戦後の1950年、雄鶏社の「雄鶏みすてりーず」で『赤毛のレドメイン』として再刊されており、縮訳版ながら歴史的なものである。井上はフィルポッツ作品では他に『闇からの声』も翻訳している。 最初の完訳版となったのは、1956年6月、新潮社「探偵小説文庫」の1冊として刊行された『赤毛のレドメイン家』で、翻訳は橋本福夫(橋本は同書の解説でやや控え目に、最初の完訳版だと述べている)。橋本版は58年9月に新潮文庫に編入されて長く親しまれたが、現在は品切。橋本は後に『闇からの声』や『灰色の部屋』『溺死人』(すべて創元推理文庫)も翻訳、日本でのフィルポッツ紹介に功があった。 橋本版の刊行以後、60年代にかけて多くの叢書からの翻訳が相次いで刊行される。まず橋本版の初出直後の1956年9月、東京創元社「世界推理小説全集」で大岡昇平訳による『赤毛のレッドメーン』刊行、1959年、同叢書の普及文庫版として創刊された創元推理文庫にも同年6月に『赤毛のレッドメーンズ』として加わった。 1961年3月には中央公論社「世界推理名作全集」に『赤毛のレドメイン家』として収められる。翻訳は宇野利泰(彼は翻訳家生活初期にフィルポッツ作品『医者よ自分を癒せ』を訳した経験を持つ)。宇野版は1962年9月、同叢書の普及版「世界推理小説名作選」にも加わる。更に1970年10月には創元推理文庫に新版として編入されることになり、それまで同文庫で親しまれた大岡版『赤毛のレッドメーンズ』は宇野版と入れ替わる形で絶版となった。その後は宇野版・創元推理文庫新版が50年近くにわたって版を重ねていた。 一方、1962年に東都書房で「世界推理小説大系」が刊行されており、同叢書にも荒正人訳で『赤毛のレドメイン一家』として収められている。同じ巻にはやはり荒の訳で『闇からの声』も収録された。1977年10月、荒版は『赤毛のレドメイン家』に改題して講談社文庫に収められたが、現在は品切(荒版『闇からの声』も翌1978年同文庫に収められたが、こちらも現在品切)。角川文庫でも、1963年5月に『赤毛のレッドメーン家』として赤冬子の訳で刊行された(現在品切)。さらに1999年、集英社文庫で「乱歩が選ぶ黄金時代ミステリー」シリーズの刊行が始まり、本作も実に36年ぶりに安藤由紀子による新訳が刊行された(現在品切れ)。そして2019年11月に創元推理文庫から武藤崇恵による宇野版からほぼ半世紀ぶりの新訳版が刊行され、現在新刊で唯一入手可能なヴァージョンとなっている。
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