日本語との同系説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/26 08:33 UTC 版)
それまでアルタイ諸語を通して日本語の起源の探究を行ってきた江実(ごうみのる)は、やがてアーサー・カペル(英語版)の論文に触発されてパプアニューギニアの言語に着目するに至り、大野晋と共同研究も行った。江は大野の著作を介する形で、当時パプア諸語と括られていた諸言語の中でも特にウサルファ語について日本語と構造的に共通する点を以下のように挙げている。 音韻構造: 1. 語は必ず母音で終わる。 2. 語頭が二重子音や三重子音となることはない。 3. 語頭に/r/や/ŋ/が立つことはない。 統辞構造: 4. 語順がSOVである。 5. 後置詞を用いる。 6. 形容詞が名詞の前に来る。 7. 命令、疑問、否定の役割を果たす要素が後方に置かれる。 江は後の論文においても日本語とウサルファ語との共通点についてこれとほぼ同様のことを羅列している。 一方、言語の系統関係の裏付けを行う上で必要不可欠な要素の一つである語彙の対応については、江と大野の両者とも日本語とパプア諸語との関連性が見出せない点を課題としていた。大野は自身の著作において、語彙の対応関係が明確には見出だされなかったことを窺わせる以下のような説明を行っている。 「ただウサルファ語などの語彙は、各方言によって極めて大きい相違を見せている。これは、タブーの観念が盛んなため、たとえば王様の死去に伴い、王様の名と同音で始まる語はすべてタブーとなって、別の語に言い換えをするなどのことがあって、語彙の変化が急速で、定着しないというような事情もあるらしい。」 — 大野、1974:211–212 こうした大野の説明について文化人類学者である紙村徹は2015年の論文において、大野がビッグマン(英語版)を王と誤ったのみならず、権力者の死をめぐるタブーについても夜に死者の名を口にしてはならないという禁忌や、死者が名前を利用して息子たちに不幸を与えることを回避する目的から息子たちが親族によって授けられた名やクリスチャンネームを元の名の代わりに用いる慣習との混同の可能性を指摘し、大野の「危うい仮説」に対する否定的な見方を示している。 1980年の論文において江は1978年に取り上げたウサルファ語との比較を再掲しつつも、むしろ「パプア湾沿岸の諸言語」の語彙に紙面を割き、これらと上代日本語の基礎語彙との間に相当の関連性が見られると結論付けている。江は更に同論文において、日本語の祖先にあたる言語がインドなどのアジアを起点としており、南下したものはパプアニューギニア、北上したものは日本に至ってそれぞれの地域に留まったとする仮説を提示した。共同研究者である大野の関心もやがてインドのドラヴィダ諸語へと移り、1987年以降パプア諸語と日本語との系統関係について大々的に取り上げることはほとんど行っていない。
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