小脳症候
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 15:03 UTC 版)
小脳失調を考える上で理解する必要がある小脳の運動機能は2つである。1つは意図する運動全体の企画やプランの具体的実行司令を作成するという事である。目的の運動を達成するためにはどの筋肉をどの順番で動かせばよいかというような意識に上らない実行司令の作成である。2つ目は運動の実行司令と実際の運動との差の補正である。これは起こってしまった運動だけではなく起こりつつあると予想される運動の補正も含まれる。運動の補正に関しては小脳のfunctional unitの関与がわかっている。このユニットへの情報入力は中小脳脚と下小脳脚を介しており出力系はプルキンエ細胞である。プルキンエ細胞では入力された様々な情報が処理されて実行司令を小脳核から上小脳脚を介して大脳に送っている。小脳徴候は実行司令の不良と補正の不良を見る場合がほとんどである。古典的な神経診断学では小脳症候を小脳遠心系の障害、小脳歯状核の障害、中小脳脚の障害と分類することはほとんどできない。多くの小脳症候は深部感覚障害、麻痺、錐体外路障害でもみられる。しかし異常のパターンが病態によって異なる。 測定障害 (dysmetria) 目的物めがけて運動している時に、目的物の空間的位置に対する実行司令が障害されており目的物に到着しないことである。空間的な位置に関する実行プランの不良である。目的物を通り過ぎる測定過大 (hypermetria) と手前で止まる測定過小 (hypometria) がある。測定過大が小脳症候として特徴的である。麻痺、深部感覚障害、錐体外路障害でも測定障害は認められる。深部感覚障害では測定過大と測定過小ともに認められミスの仕方に一貫性がない。錐体外路障害では測定過小、麻痺では測定過大が多い。被験者が測定過大することを見越して運動することもあるが、素早く行わせるとこの補正も効かなくなるので検査時はすばやく運動させることも重要である。 運動の分解 (decomposition) と共同運動障害 (dyssynergia) 運動がスムーズに行えず、一つ一つに分解されてしまうことをいう。 変換運動障害 (dysdiadochokinesis) ある運動を繰り返し行うことが難しく、リズムが乱れたり(時間的に乱れる)、運動そのものが空間的に乱れたりする現象である。この障害の原因は時間測定障害 (dyschronometria) と考えられている。麻痺や深部感覚障害、錐体外路障害でも認められるが、小脳症候では運動を早くすると悪化し、ゆっくりすると改善する傾向がある。 時間測定障害 (dyschronometria) 運動を始めようとした時に開始が遅くなるという所見としてあらわれる。 筋肉のトーヌスの低下 (hypotonus) 小脳の筋紡錘への制御に異常が生じて筋トーヌスが下がるとされている。 眼球運動障害 測定過大が眼球運動にも認められocular dysmetriaといわれる。眼振は小脳特有のものは少なく、rebound nystagmusが比較的特有である。これは注視した後、正中位に戻した時に逆向きに認められる眼振である。また小脳片葉病変ではdown beat nystagmusが認められる。 不随意運動 不随意運動としては口蓋帆振戦(口蓋帆ミオクローヌス)とaction myoclonusとaction tremorが知られている。口蓋帆振戦は規則的に軟口蓋が動く病態であり歯状核オリーブ路が傷害されると認められる。action myoclonusとaction tremorは安静時には何も症状がないが運動を始めようとすると大きな不随意運動が出現することである。
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