動機:座標の不適切さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/23 16:19 UTC 版)
「接続 (微分幾何学)」の記事における「動機:座標の不適切さ」の解説
球面上の(黒い矢印の)平行移動。青と赤の矢印は、それぞれ異なる方向への平行移動を表しているが、右下の同じところで終わっている。2つの矢印が同じ方向を向いて終わっていないことが、球面上の曲率の持っている意味である。 次の問題を考えてみよう。球面 S の接ベクトルが球面の北極で与えられたときに、このベクトルを球面の他の点へ整合性を持って移動、平行移動の意味での移動を定義することである。ナイーブに考えると、これは平行座標系を使ってできそうに見える。しかしながら、特別な注意を払わない限り、ある座標系で定義された平行移動は他の座標系で定義されたものとは一致しない。より適切な平行移動系は、球面の回転対称性を利用する。北極点であるベクトルが与えられると、回転軸方向を持たない曲線に沿って北極が移動するような方法で球面を回転させることで、このベクトルを曲線に沿って移動させることができる。これの平行移動の意味は、球面上のレヴィ・チヴィタ接続である。2つの異なる曲線の始点と終点が一致していて、ベクトル v が正確に回転より作られる第一の曲線に沿っているとすると、終点での結果として現れるベクトルは、第二の曲線に沿って正確に移動した v の結果として現れるベクトルとは異っている。この現象は、球面の曲率を反映している。平行移動を可視化することに使える単純な力学的な装置が、指南車である。 例えば、S に立体射影による座標を入れたとし、S を R3 の中の単位ベクトルからなると仮定すると、S は座標の対を持つことになる。一つは北極の近傍を覆い、もうひとつは南極を覆う。写像 φ 0 ( x , y ) = ( 2 x 1 + x 2 + y 2 , 2 y 1 + x 2 + y 2 , 1 − x 2 − y 2 1 + x 2 + y 2 ) φ 1 ( x , y ) = ( 2 x 1 + x 2 + y 2 , 2 y 1 + x 2 + y 2 , x 2 + y 2 − 1 1 + x 2 + y 2 ) {\displaystyle {\begin{aligned}\varphi _{0}(x,y)&=\left({\frac {2x}{1+x^{2}+y^{2}}},{\frac {2y}{1+x^{2}+y^{2}}},{\frac {1-x^{2}-y^{2}}{1+x^{2}+y^{2}}}\right)\\[8pt]\varphi _{1}(x,y)&=\left({\frac {2x}{1+x^{2}+y^{2}}},{\frac {2y}{1+x^{2}+y^{2}}},{\frac {x^{2}+y^{2}-1}{1+x^{2}+y^{2}}}\right)\end{aligned}}} は、北極の近傍 U0 と南極の近傍 U1 をそれぞれ覆う。X, Y, Z を R3 に付属する周りの座標とすると、φ0 と φ1 は、逆写像 φ 0 − 1 ( X , Y , Z ) = ( X Z + 1 , Y Z + 1 ) , φ 1 − 1 ( X , Y , Z ) = ( − X Z − 1 , − Y Z − 1 ) , {\displaystyle {\begin{aligned}\varphi _{0}^{-1}(X,Y,Z)&=\left({\frac {X}{Z+1}},{\frac {Y}{Z+1}}\right),\\[8pt]\varphi _{1}^{-1}(X,Y,Z)&=\left({\frac {-X}{Z-1}},{\frac {-Y}{Z-1}}\right),\end{aligned}}} を持つので、座標変換の函数は円に関する反転 φ 01 ( x , y ) = φ 0 − 1 ∘ φ 1 ( x , y ) = ( x x 2 + y 2 , y x 2 + y 2 ) {\displaystyle \varphi _{01}(x,y)=\varphi _{0}^{-1}\circ \varphi _{1}(x,y)=\left({\frac {x}{x^{2}+y^{2}}},{\frac {y}{x^{2}+y^{2}}}\right)} となる。 ここで、ベクトル場を導き出された座標系に対する成分として表現しよう。P が U0 ⊂ S の点であれば、ベクトル場は、次のプッシュフォワードで表現される。 v ( P ) = J φ 0 ( φ 0 − 1 ( P ) ) ⋅ v 0 ( φ 0 − 1 ( P ) ) . ( 1 ) {\displaystyle v(P)=J_{\varphi _{0}}(\varphi _{0}^{-1}(P))\cdot {\mathbf {v} }_{0}(\varphi _{0}^{-1}(P)).\qquad (1)} ここに、 J φ 0 {\displaystyle J_{\varphi _{0}}} は φ0 のヤコビ行列を表し、v0 = v0(x, y) は、vにより一意的に決定される R2 上のベクトル場である。さらに、座標系の交叉である U0 ∩ U1 の上では、φ1 に関して同じベクトルを表現することができる。 v ( P ) = J φ 1 ( φ 1 − 1 ( P ) ) ⋅ v 1 ( φ 1 − 1 ( P ) ) . ( 2 ) {\displaystyle v(P)=J_{\varphi _{1}}(\varphi _{1}^{-1}(P))\cdot {\mathbf {v} }_{1}(\varphi _{1}^{-1}(P)).\qquad (2)} 成分 v0 と v1 を関係づけるためには、連鎖律を等式 φ1 = φ0 o φ01 に適用して J φ 1 ( φ 1 − 1 ( P ) ) = J φ 0 ( φ 0 − 1 ( P ) ) ⋅ J φ 01 ( φ 1 − 1 ( P ) ) . {\displaystyle J_{\varphi _{1}}(\varphi _{1}^{-1}(P))=J_{\varphi _{0}}(\varphi _{0}^{-1}(P))\cdot J_{\varphi _{01}}(\varphi _{1}^{-1}(P)).\,} を得る。これの行列の等式の両辺を v1(φ1−1(P)) へ適用し、(1) と (2) を使うと、 v 0 ( φ 0 − 1 ( P ) ) = J φ 01 ( φ 1 − 1 ( P ) ) ⋅ v 1 ( φ 1 − 1 ( P ) ) . ( 3 ) {\displaystyle {\mathbf {v} }_{0}(\varphi _{0}^{-1}(P))=J_{\varphi _{01}}(\varphi _{1}^{-1}(P))\cdot {\mathbf {v} }_{1}(\varphi _{1}^{-1}(P)).\qquad (3)} を得る。 ここで、曲線に沿って平行にベクトル場をどのように平行に移動するのかという主要な問題へ至る。P(t) を S の中の曲線と仮定する。ナイーブには、曲線に沿ってベクトル場の座標成分が定数であれば、ベクトル場は平行であると考えることが可能である。しかしながら、直ちに曖昧さがでてくる。どの座標系に対して、これらの成分を定数とすべきなのか? 例えば、v(P(t)) が座標系 U1 で定数である、すなわち、函数 v1(φ1−1(P(t))) は定数であるあったと仮定する。しかし、積の微分法則を (3) へ適用し、dv1/dt = 0 を使うと次式を得る。 d d t v 0 ( φ 0 − 1 ( P ( t ) ) ) = ( d d t J φ 01 ( φ 1 − 1 ( P ( t ) ) ) ) ⋅ v 1 ( φ 1 − 1 ( P ( t ) ) ) . {\displaystyle {\frac {d}{dt}}{\mathbf {v} }_{0}(\varphi _{0}^{-1}(P(t)))=\left({\frac {d}{dt}}J_{\varphi _{01}}(\varphi _{1}^{-1}(P(t)))\right)\cdot {\mathbf {v} }_{1}(\varphi _{1}^{-1}(P(t))).} しかし、 ( d d t J φ 01 ( φ 1 − 1 ( P ( t ) ) ) ) {\displaystyle \left({\frac {d}{dt}}J_{\varphi _{01}}(\varphi _{1}^{-1}(P(t)))\right)} はいつも非特異行列であるので(曲線 P(t) は定常でなくなり)、v1 と v0 は曲線に沿って同時には決して定数ではありえない。
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