マクスウェル分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 00:39 UTC 版)
マクスウェル分布(マクスウェルぶんぷ、英: Maxwell distribution[1])とは、熱力学的平衡状態において、気体分子の速度が従う分布関数である。マクスウェル=ボルツマン分布(英: Maxwell–Boltzmann distribution[1])と呼ばれることもある。気体分子運動論により導かれたが、より一般化されたボルツマン分布からも導かれる。イギリスの物理学者J.C.マクスウェルが1859年に見いだしたことにちなんで名付けられた。
- ^ a b 『学術用語集』
- ^ a b c 『アトキンス物理化学』 p.27
- ^ a b c d 『理工系学生のための化学基礎』 p.17
- ^ a b 『化学・生命科学系のための物理化学』 p.28
- ^ a b c d e f 『アトキンス物理化学』 p.28
- ^ 『アトキンス物理化学』 p.26
- ^ 『化学・生命科学系のための物理化学』 p.29
- ^ a b c d 『化学・生命科学系のための物理化学』 p.30
- ^ a b c 『理工系学生のための化学基礎』 p.18
- 1 マクスウェル分布とは
- 2 マクスウェル分布の概要
- 3 導出
- 4 導かれる速度
- 5 脚注
- 6 外部リンク
マクスウェル分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/29 10:03 UTC 版)
「最大エントロピー原理」の記事における「マクスウェル分布」の解説
統計力学におけるマクスウェル分布は、容器中に気体(1種類の物質からなり、かつ定常状態にある)が閉じ込められている状況において、容器中の各分子の速度が従う確率分布で、分子の速度を ( v x , v y , v z ) {\displaystyle (v_{x},v_{y},v_{z})} とすると、この分布の確率密度関数は p ( v x , v y , v z ) = 1 Z e x p ( λ m ( v x 2 + v y 2 + v z 2 ) 2 ) {\displaystyle p(v_{x},v_{y},v_{z})={\frac {1}{Z}}\mathrm {exp} \left(\lambda {\frac {m({v_{x}}^{2}+{v_{y}}^{2}+{v_{z}}^{2})}{2}}\right)} となる。ここで Z は正規化定数で、λは逆温度(=絶対温度の逆数。通常はβで表すがここでは前節までと記号を合わせる為λと書く)。 マクスウェル分布は、最大エントロピー原理から以下のようにして導く事ができる。 容器中に気体(1種類の物質からなり、かつ定常状態にある)が閉じ込められているとし、その気体を構成する各分子の速度を考える。各分子が取りうる速度全体のなす空間(速度空間 )を考えると、速度は3次元のベクトル ( v x , v y , v z ) {\displaystyle (v_{x},v_{y},v_{z})} で表す事ができるので、速度空間は、3次元ベクトル空間(の有限体積の部分集合)となる。 速度空間を ℓ {\displaystyle \ell } 個の領域に分け、容器中の分子がそれらの領域のどこに属するかを考える。各分子は互いに衝突を繰り返す事でランダムにその位置や速度を変えるが、今気体は定常状態にあるので、各領域にある分子の総数は時間が経過してもほとんど変化しない。 そこで i 番目の領域に含まれている分子の数を ni とし、容器中の分子の総数を N とし、 p i = n i / N {\displaystyle p_{i}=n_{i}/N} とすると、各分子が領域i に含まれている確率は p i {\displaystyle p_{i}} である。 速度空間の各点における分子の存在確率が常に等しいとする(等確率の原理)と、各分子が領域 i にある確率は、領域の体積に比例すると考えられるので、1 番目、...、 ℓ {\displaystyle \ell } 番目の領域に入っている分子の個数がそれぞれ n 1 , … , n ℓ {\displaystyle n_{1},\dotsc ,n_{\ell }} である確率を考える。各分子が区別できないと仮定すると、多項分布より、 W = N ! n 1 ! ⋯ n ℓ ! V 1 n 1 ⋯ V ℓ n ℓ {\displaystyle W={\frac {N!}{n_{1}!\dotsb n_{\ell }!}}{V_{1}}^{n_{1}}\dotsb {V_{\ell }}^{n_{\ell }}} に比例する。 気体が定常状態にある事から、気体の分布は、分子の運動エネルギーの期待値が一定値であるという条件下、 W {\displaystyle W} が最大になる状態にあると考えられる。 前節で説明したように、分子の数→∞の極限において、 W {\displaystyle W} を最大化する事は、相対エントロピー ∑ i p i log p i V i {\displaystyle \sum _{i}p_{i}\log {\frac {p_{i}}{V_{i}}}} を最大化する事に等しい。確率と体積の比 p i / V i {\displaystyle p_{i}/V_{i}} は確率の「密度」を表すので、速度空間を分割する領域の数→∞とすると、 ∑ i p i log p i V i = ∑ i p i V i ( log p i V i ) V i → ∫ p ( v x , v y , v z ) log p ( v x , v y , v z ) d v x d v y d v z {\displaystyle \sum _{i}p_{i}\log {\frac {p_{i}}{V_{i}}}=\sum _{i}{\frac {p_{i}}{V_{i}}}(\log {\frac {p_{i}}{V_{i}}})V_{i}\to \int p(v_{x},v_{y},v_{z})\log p(v_{x},v_{y},v_{z})dv_{x}dv_{y}dv_{z}} となる。ここで p ( v x , v y , v z ) {\displaystyle p(v_{x},v_{y},v_{z})} は確率密度関数。従って気体はこの値を最大化するように振る舞う。 さて、分子の運動エネルギーの期待値が一定であるという前述した条件を数式で書き表すと E ( m ( v x 2 + v y 2 + v z 2 ) / 2 ) = {\displaystyle E(m({v_{x}}^{2}+{v_{y}}^{2}+{v_{z}}^{2})/2)=\,} 一定 と書ける。ここで m は分子の質量。 この条件は、 v x 2 , v y 2 , v z 2 {\displaystyle {v_{x}}^{2},~{v_{y}}^{2},~{v_{z}}^{2}} に関する期待値なので(確率密度関数 p ( v x , v y , v z ) {\displaystyle p(v_{x},v_{y},v_{z})} も v x 2 , v y 2 , v z 2 {\displaystyle {v_{x}}^{2},~{v_{y}}^{2},~{v_{z}}^{2}} に関する関数と見なせるので)、前の節で示した期待値が制約されている場合の最大エントロピー原理の一般解を適用する事で、 p ( v x , v y , v z ) = 1 Z exp ( λ m ( v x 2 + v y 2 + v z 2 ) 2 ) {\displaystyle p(v_{x},v_{y},v_{z})={\frac {1}{Z}}\exp \left(\lambda {\frac {m({v_{x}}^{2}+{v_{y}}^{2}+{v_{z}}^{2})}{2}}\right)} である事が分かる。
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