「所有と経営の分離」の変質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/20 03:29 UTC 版)
「所有と経営の分離」の記事における「「所有と経営の分離」の変質」の解説
上記研究当時から、株式市場の発達は続き、「所有と経営の分離」は、ますます進行していくように見えた。所有者(株主)は会社経営に対しては無力かつ無関心といって良く、会社の経営方針に不満があるのであれば、株主総会等によるよりは、その株を株式市場で売却し、会社経営から離脱すること(これを、『ウォール・ストリート・ルール』という)が一般的な行動であるとされた。 しかし、1960年代以降、金融工学にその基礎をおく現代ポートフォリオ理論から組成された信託投資が拡大するにつれ、事情が変化してきた。「所有と経営の分離」の前提は、株主の大衆化とそれに伴う分散化であるが、投資信託に代表される、多数の投資家から集めた信託財産を分散投資する手法が一般的になると、これを取り扱う投資家(いわゆる機関投資家)は、「利害関係者(ステークホルダー)」としての位置づけを深めることとなる。即ち、持ち株比率が低いものであっても保有株数が大きくなるが故に、経営者の方針に満足しないからと言って、ウォール・ストリート・ルールに従って売却すると、一時的に市場の需給バランスが崩れ、大きな売却損を被りかねず、安易に離脱により対処できないという立場になったと言うことである。米国において、これが顕著になったのは、退職年金の運用責任を定めたERISA法の制定(1974年)であり、以降、機関投資家は会社経営を厳しくモニタリングし、一部にはカルパースに代表される「物言う株主」としての行動をとる機関投資家も現れるようになり、「所有と経営の接近」が意識されるようになってきている。この傾向から、議論されるようになったのが「誰が会社を支配(govern/governance:「支配」は必ずしも適訳ではない)するか」、即ち、「コーポレートガバナンス」の問題である。 また、経営者としては、会社への評価である株価を自らの報酬とすることにより、会社経営に対する責任とインセンティブをより直接に結びつける制度である株式による報酬制度やストックオプションの発展は、経営の側からの、所有への接近の契機となった。さらに、現在においては、この傾向が進行し、経営に介入する株主や企業買収に伴う軋轢を嫌い、経営者のより自由な裁量により経営を行ない、その効果(利益)を経営者に帰属させようとする思想から、流通株式を経営者が全て買い取ってしまうという「マネジメント・バイ・アウト」にまで至っている。ここに至っては「経営と所有の一致」への回帰と言って良い。ただし、この場合であっても、公開市場から退出は一時的なものであり、業績の復調を遂げた上で経営者からの株式の売り出しを行い、その利益を経営者に帰そうとする目的のものがほとんどであり、旧来の「経営と所有の一致」と同一にとらえるべきではない。
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