NHK番組改変問題
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その後
2006年5月16日の朝日ニュースター『ニュースの深層』に出演した中川昭一は、「朝日新聞は裏づけをしっかりしてから、記事にして欲しい。圧力はかけていないという事実関係を私は証明しているのに、訂正も反論もないまま記者は一切出て来ず、逃げ回っている。そして朝日新聞社は社を挙げてそれを守っている」と批判した。
2007年1月29日のNHK制作の報道番組「ニュースウオッチ9」での高裁判決の放送内容について、原告(VAWW-NETジャパン)側は、放送倫理・番組向上機構(BPO)に対して、公平・公正な取扱いを欠いたことによる放送倫理違反だと申し立てた。これに対してBPOは2008年、「本件放送が公平・公正を欠き、放送倫理違反があった」とし、申し立て人が「公平・公正を欠いた放送によって、著しい不利益を被ったものと判断する」が、「謝罪まで認める必要もない」、という見解を示した[27]。
一方で、BPOの放送倫理検証委員会は、2009年1月9日の定例会で、「改変経過がNHKの自立性に疑問を持たせ、放送倫理上問題があるという認識で一致した」(川端和治・委員会委員長)として「審議」に入る旨決定した[28]。2009年4月28日、BPOの放送倫理検証委員会は、この番組について意見書を発表し、「NHKの予算等について日常的に政治家と接している部門の職員が、とりわけそれら政治家が関心を抱いているテーマの番組の制作に関与すべきではない」ことを指摘している[29]。
影響・その他の争点
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NHKへの影響
- 2005年6月、NHK番組制作局やスペシャル番組センターなどの職員有志が、改革・新生委員会(委員長・橋本元一会長)に文書を出し、「番組変更の最大の原因は政治への過剰反応だった」として、NHK倫理・行動憲章の改定を提言した。これに対して、NHK経営広報部は「局内で出ているさまざまな提言の一つとして検討中」とした[30]。
- 番組改変の記事を執筆した本田雅和記者は、NHK不払い運動を行っている本多勝一記者の弟子にあたる。
放送法
一連の騒動において問題にされる「中立」「編集の自由」の語に該当することは、放送法第一条(目的)と三条(番組編集の通則)にある。[31]
- 原則。法律の目的(一章の一条)として、『放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること。』
- 通則。具体的な編集(三条)について、「法的権限のない者に従う必要がない」、と保護する一方でまた義務(または必要)として、「政治的に公平」、「事実を曲げない」、「対立問題については、論点をできるだけ多角的にとらえて見せる」、と明記している。
女性国際戦犯法廷の報道をめぐるNHK裁判
NHKが放送した番組内容に関し、女性国際戦犯法廷の主催者であるVAWW-NETジャパンが、取材時に製作会社であるドキュメンタリージャパン(以下DJ)と同意していた企画と異なったことから、「政治的圧力に屈して内容を改竄した」としてNHK・NHKエンタープライズ21(NEP21)・DJの三者を訴えた裁判。最高裁まで争われ、VAWW側の訴えはすべて退けられた[32]。
原告側主張
VAWW-NET側(主催者側)の主張では、制作会社との合意に反して審理の解説や判決言い渡しシーンを削除したり、日本大学教授であった秦郁彦のコメントを挿入するなど批判的な立場の意見も取り入れて編集され、放送時間も短縮された。この編集により構成が取材を受けたVAWW-NET側の期待にそぐわないものになったとし、期待権を損ねたと訴えた。
被告側主張
NHK側は、上記編集は全体的に番組のバランスを取るために行われたことであり、特に問題ないと主張している。
判決
裁判後の反応
原告の反応
原告のVAWW-NETは「政治家の圧力・介入を正面から取り上げない不当判決だ」「司法の公平、公正性に大変失望した。一部政治家の意向に沿うようにゆがめて放送していいのか」(西野瑠美子共同代表)、「判決は具体的な事実を離れて一般論に終始している。NHKを勝たせようという結論が先にあったのではないか」(飯田正剛弁護団長)と最高裁判決を批判した[35]。
被告NHKの反応
NHK広報部は「どのような内容の放送をするかは放送事業者の自律的判断にゆだねられており、正当な判断と受けとめている。最高裁は『編集の自由』は軽々に制限されてはならないという認識を示したものと考える」とコメント[36]。
政治家の反応
自民党の中川昭一は「私と安倍晋三前首相が『事前に番組に圧力をかけた』と朝日新聞で報じられたことが捏造だと確認されたが、(朝日新聞からは)私たちに謝罪はなく名誉は毀損されたままだ。問題はまだ決着していない」と述べた[37]。また、安倍晋三は「最高裁判決は政治的圧力を加えたことを明確に否定した東京高裁判決を踏襲しており、(政治家介入があったとする)朝日新聞の報道が捏造であったことを再度確認できた」とコメントした[35]。
報道関係の反応
- 朝日新聞は広報部を通じて「訴訟の当事者ではなく、判決も番組改変と政治家とのかかわりについて具体的に判断していないので、コメントする立場にない」との見解を示している[35]。
- 読売新聞は、最高裁が期待権の法的保護の要件を厳格に評価したことについて、妥当な判決だと評価している[38]。
- 産経新聞は、この判決について『「政治の介入」判断せず』として、高裁判決が「NHK幹部が政治家の意図を忖度した」と指摘した点について、「最高裁がこの問題をどう判断するかも焦点だったが、争点の判断に必要なかったために判決ではまったく触れられなかった」と伝えた[39]。
- ^ ETV2001
- ^ a b c d e f g h 韓永學「NHKの危機と放送法制に関する一考察」『北海学園大学法学研究』第41巻第1号、北海学園大学法学会、2005年6月、1-21頁、ISSN 03857255、NAID 110004476319。
- ^ “NHK vs. 朝日新聞「番組改変」論争 「政治介入」の決定的証拠 News for the People in Japan”. www.news-pj.net. 2022年8月28日閲覧。
- ^ a b NHK教育テレビ 『ETV2001シリーズ戦争をどう裁くか』 第2回「問われる戦時性暴力」に関する意見 (BPO、2009)
- ^ “「NHKの自主自律危うくした」 BPO、「番組改編」で意見書”. J-CAST ニュース (2009年4月29日). 2022年8月28日閲覧。
- ^ 柳本祐加子「2000年「女性国際戦犯法廷」という経験」『学術の動向』第8巻第10号、日本学術協力財団、2003年、90-91頁、doi:10.5363/tits.8.10_90、ISSN 1342-3363、NAID 130001496861。
- ^ 判決・認定の概要
- ^ polimediauk. “NHK-3”. 小林恭子の英国メディア・ウオッチ. 2022年8月28日閲覧。
- ^ フジテレビ『報道2001』[いつ?]
- ^ “4年悩み「真実を」/NHKチーフプロデューサー/「不利益ある。でも…」”. www.jcp.or.jp. 2022年8月31日閲覧。
- ^ “NHK番組改変問題 「会長了承していた」と告発者会見”. 朝日新聞. (2005年1月13日)
- ^ NHKに今、何が? 異常な秘密保護法報道 まるで政府報道官 しんぶん赤旗2013年12月16日
- ^ 2005年(平成17年)1月13日 テレビ朝日報道ステーション[出典無効]
- ^ “「きちんとした取材ない」 中川氏、朝日新聞を批判”. 共同通信社. 47NEWS. (2005年1月27日) 2012年11月10日閲覧。
- ^ a b c 永田浩三『NHKと政治権力――番組改変事件当事者の証言』岩波現代文庫、2014
- ^ 西村2012,p275
- ^ NHK vs.朝日新聞「番組改変」論争 「政治介入」の決定的証拠 魚住昭 News for the People in Japan、本人による全文公開。
- ^ 2005.08.01 ニュース(自民党)
- ^ 「朝日広告をやめブログ記者まで集めた自民の広報戦略」嶌信彦 (MSN-Mainichi INTERACTIVE 一筆入魂 2005年10月27日、「財界」2005.11.01号より) ただし、全ての広告を中止したわけではない。
- ^ 「NHK報道」委員会の見解より 引用。
- ^ a b 「NHK報道」委員会の見解と各委員の意見(朝日新聞社)(2005.09.30)
- ^ 西村『「反日」の正体 ―中国、韓国、北朝鮮とどう対峙するか―』文芸社文庫2012年
- ^ 西村2012,p273
- ^ 「女性国際戦犯法廷」には、北朝鮮から4人、韓国から8人が検事として参加している。
- ^ 『正論』2005年10月号
- ^ 『創』2005年12月号
- ^ 第36号 高裁判決報道の公平・公正問題(放送倫理・番組向上機構)
- ^ BPOの「ETV2001」改変事件「審議入り」決定について=放送を語る会日本ジャーナリスト会議ブログ「Daily JCJ」2009年1月20日
- ^ BPO放送倫理検証委員会・委員会決定
- ^ 共同通信2005年7月25日「政治との距離を提言 改編問題でNHK職員有志」
- ^ “放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)”. e-Gov (2019年6月5日). 2019年12月25日閲覧。 “2019年5月17日施行分”
- ^ NHK番組改編訴訟、市民団体の「期待権」認めず 最高裁 - 2008年6月13日日経新聞
- ^ “NHK番組改編訴訟の判決要旨 東京高裁”. 共同通信社. 47NEWS. (2007年1月29日) 2014年2月16日閲覧。
- ^ “市民団体が逆転敗訴 NHKの番組改編訴訟”. 共同通信社. 47NEWS. (2008年6月12日) 2014年2月16日閲覧。
- ^ a b c NHK特番問題:取材対象者逆転敗訴 「政治圧力」判断せず--最高裁判決 2008年6月13日付 毎日新聞
- ^ NHK番組改変訴訟 取材現場は「当然の判決」 2008年6月12日産経新聞
- ^ 2008年6月13日産経新聞
- ^ 「期待権」退けた妥当な判決 2008年6月13日付 読売新聞
- ^ 「「政治家の介入」最高裁判断せず NHK改変訴訟」事件です‐裁判ニュース-イザ!(2008.06.13) (産経新聞)
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