除雪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 01:51 UTC 版)
概要
家の出入口や駐車場など比較的小規模なもの、階段など機械の入れないところは、人力で行なわれるが、道路や線路などで、積雪量や除雪範囲の大きい場合は、重機や除雪車が使用される。人力で行う除雪作業は、雪掻き、雪除け、雪片し、雪透かし、雪撥ね、雪掘り、雪放り、雪寄せ、雪投げなど地方・地域によって様々な呼び名がある。
なお、除雪された雪を、離れた場所に移したり、川や海など邪魔にならない場所に捨てることを排雪と呼ぶ[1]。
人の歩く道は足で踏み固め(雪踏み)、荷物の運搬ではソリなども利用された。鉄道や自動車の登場によって除雪の必要性は格段に増した。今日では冬季においても至る所で、自動車の通行が不可欠となっており、除雪は極めて現代的な問題である。
毎年かかる多額の除雪・排雪予算、排雪した雪の処分場所の確保、雪中の廃棄物の処理といった問題は、行政の悩みの種となっている。
屋根の雪下ろし時や除雪機の運転ミスにより、毎年少なからず死者や負傷者が発生する。2017年-2018年の日本における除雪時の死者は23人。うち19人は65歳以上の高齢者という特徴がある[2]。
カナダでは法律により、家の敷地に沿う歩道の除雪義務が設けられている[3]。アメリカ合衆国のシカゴなどでも中心市街地では沿道住民の歩道除雪が義務づけられている[4]。
建築物における除雪
除雪を行わない場合は、橋は崩落[5][6]、家は倒壊する危険がある[7]。
家屋が雪の重みで崩れないようにするために屋根に上り、屋根に積もった雪を下へ落としたりする作業(雪下ろし)や、さらに積雪が多い場合には家の周囲に壁の様になった積雪の上へ屋根雪を投げ上げる作業(雪掘り)などとは区別されるが、これらを含む場合もある。
足元の滑りやすい高所での作業となるため、毎年、転落事故が後を絶たない。日本では年間100人ほどが除雪作業で亡くなっている[8]。
自宅用に融雪機やロードヒーティングを設置する家や、家庭用の小型除雪機を持つ家もある。小型除雪機を利用することで、30cm以上積もった雪でも作業可能になる[9]。高齢者の一人暮らしなど、除雪することが困難な家屋が増えてきたため、除雪ボランティアが呼びかけられている地域もある。
日本では、屋根や道路から、より多くの雪を除雪するためにスノーダンプが用いられることがある。ただし、カナダなどでは道路に沿った側溝が設けられておらず、スノーダンプは一般的な用具ではなく、シャベルが用いられている[3]。
除雪の歴史
多くの都市では、住民に除雪を行わせる条例が出されており、住民は通りの道を平らにする作業などを行う業者に委託することもあった[5]。
- 日本
江戸時代以前における除雪技術に関する文献は、ほとんど見当たらない。
江戸時代になると、屋根のひさしを伸ばし各家同士を連結させた雁木造によって歩道に雪が降らないような対策が取られた[11]。
雁木造がない歩道は、地域の住民が回覧板(道踏み板)を回すことで雪踏み当番を決めて、藁でできたバケツの底に草履が付いたような踏俵(ふみたわら)[12]や雪俵、専用のかんじきなどを履いて踏み固めた。木で作った雪べら、竹などを編んで作った新雪用のジョンパというスコップが使用された[13][14]。家の壁面に雪が積もると室内が寒くなることから、雪囲い、雪垣という竹や木材でできた囲いで壁面に直接雪が積もるのを防止した[15]。
除雪機などなかったので第二次世界大戦前後までは、屋根では除雪用の木鍬(クシキ、コシキ)、屋根と地面に板を渡して屋根の上から安全に雪を降ろせる雪樋(ユキドヨ)、雪運搬用に用いられた雪串(ユキグシ)や背負い籠(コエカゴ)が用いられた[16][17]。茅葺屋根では、棟の方からバランスよく雪を降ろすなど家に負担をかけないような作法が見られる[18]。
札幌市では、1886年にロシアから馬に曳かせて道の除雪・圧雪を行う三角ぞリが輸入され、そのほかの馬車も三角ぞりに改造して使用した[19]。
日本では、1890年(明治23年)ごろから鉄道の除雪が考えられるようになった。1911年(明治44年)には、木製のラッセル車が日本の鉄道(北海道1台)に導入された。しかし、1927年までは、ほとんどの鉄道では人力による除雪が行われていた[20]。
注釈
出典
- ^ 青森市 排雪する基準(2019年4月8日閲覧)。
- ^ “除雪中の事故(雪下ろしや雪かき中の事故)”. 首相官邸ホームページ (2018年). 2018年4月14日閲覧。
- ^ a b 三条市発情報発信コラム 三条市、2017年1月12日閲覧
- ^ a b c 海外の冬期道路管理に係る制度・運用に関する調査 国土技術政策総合研究所
- ^ a b “Have Snow Shovel, Will Travel: A History of Snow Removal”. web.archive.org (2006年9月11日). 2023年1月25日閲覧。
- ^ 日経クロステック(xTECH). “雪の重みで長野県栄村の橋が崩落、3月の地震で損傷”. 日経クロステック(xTECH). 2023年1月25日閲覧。
- ^ “積雪による建築物の倒壊の防止等について - 建設部住宅局建築指導課”. www.pref.hokkaido.lg.jp. 2023年1月25日閲覧。
- ^ “雪害の死者、年100人 過疎化でお年寄りが雪下ろし”. 『朝日新聞』. (2014年2月3日)
- ^ “除雪機のおすすめ人気比較ランキング15選【小型家庭用で女性でも使える】”. タスクルヒカク | 暮らしのおすすめサービス比較サイト. 2020年1月7日閲覧。
- ^ “Rosstag Burggen 10.09.2023 – 's ländliche Leben anno 1900” (ドイツ語). 2023年1月25日閲覧。
- ^ 除雪技術における大・中・小技術システムに関する研究 掲載紙:第5回 日本土木史研究発表会論文集 1985年6月 著:鈴木 哲、大熊 孝、小野沢透
- ^ No.4 踏俵 雪国民俗館
- ^ “雪べら 文化遺産オンライン”. bunka.nii.ac.jp. 2022年2月8日閲覧。
- ^ 昔の雪道具
- ^ 世界大百科事典 雪の項目
- ^ 十日町の積雪期用具
- ^ 北海道豪雪過疎地域における除排雪活動に関する人類学的研究 著:小西, 信義 サイト:北海道大学
- ^ 北安曇・姫川流域における深雪気候と地域文化 著:内川 淳 雑誌名:新地理35巻 (1987-1988) 1号 p14-28 doi:10.5996/newgeo.35.14
- ^ 札幌市. “昔の除雪(明治時代~戦前まで)”. 札幌市. 札幌市. 2022年2月9日閲覧。
- ^ 鉄道除雪について 著:柴谷肇一 (1960)
- ^ a b c d e f g h i j 松澤勝「冬期道路管理の国際比較」 国土交通省北海道開発局
- ^ “戦車を改造して除雪車に(第8章 雪と闘い道切り拓く)”. 社団法人北海道バス協会. 2015年2月11日閲覧。
- ^ “7.RTO(railroad transportation office)の時代(― 千歳線八十年の歩みを振り返る ―小さな私鉄の大きな変身)”. 千歳市. 2013年10月21日閲覧。
- ^ 国土交通省 冬の道路情報(2019年4月8日閲覧)。
- ^ 北海道新聞社 編『北の道づくり』北海道新聞社、2004年、21-22頁。
- ^ “自主除雪のはじまり(第8章 雪と闘い道切り拓く)”. 社団法人北海道バス協会. 2015年2月11日閲覧。
- ^ “積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する法律”. e-Gov. 2019年12月28日閲覧。
- ^ 北国の除雪の歴史 NICHIJOの誕生のあゆみ「社会の出来事 NICHIJOの動き」、日本除雪機製作所ホームページ
- ^ “積雪寒冷地特別法の促進へ(第8章 雪と闘い道切り拓く)”. 社団法人北海道バス協会. 2015年2月11日閲覧。
- ^ 映画『雪にいどむ』(株)日映科学映画製作所1961年製作。
- ^ 札幌のササラ電車、初出動 竹ブラシで積雪飛ばす産経新聞 THE SANKEI NEWS(2018年11月22日配信)2019年4月8日閲覧。
- ^ 秋田空港 除雪の時間を大幅に短縮 - NHKニュース(2015年2月9日、キャッシュ)
- ^ 2015「冬の守り」おいしい山形空港除雪隊の活動を動画配信しています - 山形県
- ^ 青森空港除雪隊「ホワイトインパルス」、隊員の普段の職業は?(2015年2月8日)
- ^ a b “第1回国際スポーツ雪かき選手権in小樽”. 日本スポーツ雪かき連盟. 2016年3月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月14日閲覧。
- ^ a b c “雪かきの「国際大会」 来月、小樽で初開催 4人一組で時間競う”. 『北海道新聞』. (2013年12月14日). オリジナルの2013年12月14日時点におけるアーカイブ。 2013年12月14日閲覧。
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