金属カルボニル 自然における発生

金属カルボニル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/26 05:08 UTC 版)

自然における発生

ヒドロゲナーゼ酵素は鉄と結合した CO を含む。この CO は水素との結合を促進させる、低い酸化状態を安定化させていると考えられている[4]。痕跡量の金属カルボニルが、これらの形成環境に矛盾しない還元性環境の埋立地で計測された[5]

化合物

大部分の金属カルボニル錯体は複数の配位子をもっている。例として、歴史的に重要な IrCl(CO)(P(C6H5)3)2 や、アンチノック剤である (CH3C5H4)Mn(CO)3 がある。これらの混合配位子錯体の多くの親化合物は、化学式が [M(CO)n]z と表される二元カルボニル化合物である。これらの多くは市販されている。多くの金属カルボニルの化学式は18電子則から推測することができる。

電気的中性な二元金属カルボニル

  • 4個の価電子をもつ第4族元素の金属カルボニルは珍しいが、Ti(CO)7 の置換誘導体が知られている。
  • 5個の価電子をもつ第5族元素の金属カルボニルは V(CO)6 がよく知られているが、V2(CO)12 のような M-M 結合をもつ種の形成は、立体化学的な影響によって妨げられるため知られていない。
  • 6個の価電子をもつ第6族元素の金属カルボニルには Cr(CO)6Mo(CO)6W(CO)6 (6 + 2x6 = 18 電子) などがある。ヘキサカルボニルシーボーギウム(Sg(CO)6)は2014年に初めて合成に成功し、他の第6族元素のカルボニル錯体と似た性質であることが判明した[6]
  • 7個の価電子をもつ第7族元素の金属カルボニルには二量体である Mn2(CO)10、Tc2(CO)10、Re2(CO)10 (7 + 1 + 2x5 = 18 電子) などがある。
  • 8個の価電子をもつ第8族元素の金属カルボニルには Fe(CO)5、Ru(CO)5、Os(CO)5 (8 + 2x5 = 18 電子) などがある。後ろ2つは不安定で、Ru3(CO)12Os3(CO)12 を与えるために脱カルボニル化する傾向がある。鉄の他の主要な金属カルボニルには Fe3(CO)12Fe2(CO)9 がある。
  • 9個の価電子をもつ第9族元素の金属カルボニルは二量体 M2(CO)8 をつくる。実際、コバルトオクタカルボニルが唯一安定な単量体である。しかし四量体はよく知られている:Co4(CO)12、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、Ir4(CO)12 (9 + 3 + 2x3 = 18 電子) 大部分の18電子の金属カルボニルと違い、Co2(CO)8 は酸素に敏感である。
  • 10個の価電子をもつ第10族元素の金属カルボニルには Ni(CO)4 (10 + 2x4 = 18 電子) がある。奇妙なことに Pd(CO)4 と Pt(CO)4 は安定ではない。

アニオン性二元金属カルボニル

  • 第4族元素の金属カルボニルのジアニオンは中性の第6族カルボニルに類似している:[Ti(CO)6]2-[7]
  • 第5族元素の金属カルボニルのモノアニオンも中性の第6族カルボニルに類似している:[V(CO)6]-
  • 第7族元素の金属カルボニルのモノアニオンは中性の第8族カルボニルに類似している:[M(CO)5]- (M = Mn, Tc, Re)
  • 第8族元素の金属カルボニルのジアニオンは中性の第10族カルボニルに類似している:[M(CO)4]2- (M = Fe, Ru, Os) 縮合したものも知られている。
  • 第9族元素の金属カルボニルのモノアニオンは中性の第10族カルボニルに類似している:[Co(CO)4]- は最も研究されている化合物である。

Ni、Pd、Pt の大きなアニオン性クラスターもよく知られている。

カチオン性二元金属カルボニル

  • 第7族元素の金属カルボニルのモノカチオンは中性の第6族カルボニルに類似している:[M(CO)6]+ (M = Mn, Tc, Re)
  • 第8族元素の金属カルボニルのジカチオンも中性の第6族カルボニルに類似している:[M(CO)6]2+ (M = Fe, Ru, Os)[8]

金属カルボニル水素化物

金属カルボニル水素化物 pKa
HCo(CO)4 "strong"
HCo(CO)3(P(OPh)3) 5.0
HCo(CO)3(PPh3) 7.0
HMn(CO)5 7.1
H2Fe(CO)4 4.4, 14
[HCo(dmgH)2PBu3 10.5

金属カルボニルは、負の酸化状態の錯体を形成するという点で特徴的である。これには上述のアニオンも含まれる。これらのアニオンは、対応する金属カルボニル水素化物を与えるためにプロトン化されることができる。中性の金属カルボニル水素化物はしばしば揮発性で、強酸性である[9]

関連する化合物

多くの配位子が金属カルボニルに類似したホモレプティック錯体や、混合配位子錯体を形成することが知られている。

ニトロシル錯体

ニトロシル錯体ではホモレプティック錯体は知られていないが、主な配位子として NO を含むものは非常に多い。NO は CO と比較してより強いアクセプターであり、イソシアニドはよいドナーである。よく知られたニトロシルカルボニルには CoNO(CO)3 や Fe(NO)2(CO)2 がある[10]

チオカルボニル錯体

CS を含んだ錯体は知られているが、まれである[11][12]。このような錯体の希少性は、1つには一硫化炭素が不安定であるという事実に起因している。そのためチオカルボニル錯体の合成には、テトラカルボニル鉄酸二ナトリウムチオホスゲンとの反応のように、より複雑な合成ルートを必要とする。

CSe と CTe の錯体は非常にまれである。

ホスフィン錯体

すべての金属カルボニルは有機リン化合物配位子によって置換される。例えば、Fe(CO)5-x(PR3)x は x = 1, 2, 3 で様々なホスフィン配位子を含むものがよく知られている。PF3 も同様に振る舞うが、二元金属カルボニルのホモレプティックアナログを容易に形成するため、より注目に値する。例えば、揮発性の安定な錯体 Fe(PF3)5 と Co2(PF3)8 は、それぞれ Fe(CO)5 と Co2(CO)8(非架橋)の CO のないアナログに相当する。

イソシアニド錯体

イソシアニドも金属カルボニルに関連した広範囲にわたる錯体をつくる。代表的なイソシアニド配位子には、MeNC と Me3CNC がある。特殊な例は CF3NC で、不安定な分子が、金属カルボニルに対応して振る舞う安定な錯体を形成する。


  1. ^ a b Elschenbroich, C. ”Organometallics” (2006) Wiley-VCH: Weinheim. ISBN 3-527-29390-6
  2. ^ P. J. Dyson and J. S. McIndoe, Transition Metal Carbonyl Cluster Chemistry, Gordon & Breach: Amsterdam (2000). ISBN 9056992899.
  3. ^ A.D. Allian, Y. Wang, M. Saeys, G.M. Kuramshina, M. Garland (2006). “The combination of deconvolution and density functional theory for the mid-infrared vibrational spectra of stable and unstable rhodium carbonyl clusters”. Vibrational Spectroscopy 41: 101–111. doi:10.1016/j.vibspec.2006.01.013. 
  4. ^ Bioorganometallics: Biomolecules, Labeling, Medicine; Jaouen, G., Ed. Wiley-VCH: Weinheim, 2006.3-527-30990-X.
  5. ^ Feldmann, J. (1999). “Determination of Ni(CO)4, Fe(CO)5, Mo(CO)6, and W(CO)6 in sewage gas by using cryotrapping gas chromatography inductively coupled plasma mass spectrometry”. Journal of Environmental Monitoring 1: 33–37. doi:10.1039/a807277i. 
  6. ^ 106番元素シーボーギウム(Sg)のカルボニル錯体の合成に成功理化学研究所、2014年9月19日、2018年12月23日閲覧
  7. ^ Ellis, J. E. (2003). “Metal Carbonyl Anions: from [Fe(CO)4]2- to [Hf(CO)6]2- and Beyond”. Organometallics 22: 3322–3338. doi:10.1021/om030105l. 
  8. ^ Finze, M.; Bernhardt, E.; Willner, H.; Lehmann, C. W.; Aubke, F. (2005). “Homoleptic, σ-Bonded Octahedral Superelectrophilic Metal Carbonyl Cations of Iron(II), Ruthenium(II), and Osmium(II). Part 2: Syntheses and Characterizations of [M(CO)6][BF4]2 (M = Fe, Ru, Os)”. Inorg. Chem. 44 (12): 4206–4214. doi:10.1021/ic0482483. PMID 15934749. 
  9. ^ Pearson, Ralph G. (1995). “The Transition-Metal-Hydrogen Bond”. Chem. Rev. 95: 41. doi:10.1021/cr00065a002. 
  10. ^ Hayton, T. W.; Legzdins, P. and Sharp, W. B., "Coordination and Organometallic Chemistry of Metal-NO Complexes", Chemical Reviews, 2002, volume 102, 935-991.doi:10.1021/cr000074t
  11. ^ Petz, W., "40 years of transition-metal thiocarbonyl chemistry and the related CSe and CTe compounds", Coordination Chemistry Reviews, 2008, 252, 1689-1733.doi:10.1016/j.ccr.2007.12.011.
  12. ^ Hill, A. F.; Wilton-Ely, J. D. E. T. (2002). “Chlorothiocarbonyl-bis(triphenylphosphine) iridium(I) [IrCl(CS)(PPh3)2]”. Inorg. Synth. 33: 244–245. doi:10.1002/0471224502.ch4. 


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