科学的実在論 対立する立場

科学的実在論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/06 09:04 UTC 版)

対立する立場

対立する立場の一つに道具主義がある。道具主義は、「科学的な概念は、単に説明や理解のための道具に過ぎず、観察可能な現象の背後にある観察不可能な隠れた実在の真の姿は知り得ない」と主張する立場。現在の物理学者に対して「電子は存在するのか、波動関数は実在するのか」といった存在論的な問いを発した際に受ける最もよく見られる受け答えは、この道具主義の立場に基づくものである。

科学的実在論の位置づけ

戸田山による位置づけ

科学的実在論を擁護する戸田山和久は、著書『科学哲学の冒険』(150P)の中で、“独立性テーゼ”と“知識テーゼ”という用語を創出し、それらを分類基準として様々な関連する立場を分類している。“独立性テーゼ” とは「わたしたち人間の認識活動とは独立して、世界の存在や秩序があるはずだ」という主張。“知識テーゼ” とは「世界に存在するものや、それを統べる秩序について、私達は正しく知ることができるはずだ」という主張。この二つの主張をそれぞれ認めるか認めないかを基準にし、関連する立場を次のように分類した。

知識テーゼ
認める 認めない
独立性テーゼ 認める 広義の実在論
科学的実在論 反実在論
操作主義道具主義、構成的経験主義)
認めない 観念論独我論
社会構成主義

諸論が対立する背景

科学的概念に関する以上のような対立が生まれる背景には、現在の理論物理学のモデルの中に、電子波動関数といった、日常感覚から言えばかなり奇妙な性質をもつ対象が頻繁に登場する、という事情がある。例えば電子には大きさがないかもしれない、と考えられている。 こうしたかなり特殊なありかたで記述される種々の物理学上の概念に出会ったとき、実際にそうした対象が普通の意味で存在しているのか、という点について、人によって意見が分かれることになる。

普通の人間の立場

ちなみに普通の人間の取っている立場は、厳密な意味では上記の分類のどこにも位置づけられない。普通の人間は、目の前に机が見えれば、「あ、机があるな」と素朴に考えるが、いちいち、「本当に机は存在しているのだろうか?」「実際に目に映るこのような形で、机は実在していると考えていいのか?」といったややこしい事は考えない。こうした普通の人間が日常生活を送る上で前提にしている存在に関する態度は、科学哲学の世界では素朴実在論と呼ばれており、 上の表の中で、素朴実在論の立場に一番近いものをあえて選ぶなら、科学的実在論が最も近い。

ちなみに、どんな突飛な存在論的主張をしている哲学者であっても、日常生活を送る上では、素朴実在論に基づいた行動を取っており、例えば車にひかれそうになったなら、「本当に車は私に向かってきているのか?」などと問うこともなく、急いで逃げだす、などがその例である。

関連項目


  1. ^ Hempel, Carl. (1950). "Empiricist Criteria of Cognitive Significance" in Boyd, Richard et al. eds. (1990). The Philosophy of Science Cambridge: MIT Press
  2. ^ Quine, W.V.O. (1951). "Two Dogmas of Empiricism" in his (1953)From a Logical Point of View Cambridge: Harvard University Press
  3. ^ Kuhn, Thomas. (1970). The Structure of Scientific Revolutions, 2nd Edition Chicago: University of Chicago Press
  4. ^ Quine, W.V.O. (1960). Word and Object Cambridge: MIT Press
  5. ^ Putnam, Hilary. (1962). "What Theories are Not" in Ernst Nagel et al. (1962). Logic, Methodology, and Philosophy of Science Stanford University Press
  6. ^ Maxwell, Grover (1962). "The Ontological Status of Theoretical Entities" in Feigl and Maxwell Scientific Explanation, Space, and Time vol. 3, Minnesota Studies in the Philosophy of Science, 3-15


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