狐火
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/08 07:48 UTC 版)
概要
郷土研究家・更科公護がまとめた狐火の特徴によれば、火の気のないところに、提灯または松明のような怪火が一列になって現れ、ついたり消えたり、一度消えた火が別の場所に現れたりするもので、正体を突き止めに行っても必ず途中で消えてしまうという[5]。また、現れる時期は春から秋にかけてで、特に蒸し暑い夏、どんよりとして天気の変わり目に現れやすいという[5]。
十個から数百個も行列をなして現れ、その数も次第に増えたかと思えば突然消え、また数が増えたりもするともいい[6]、長野県では提灯のような火が一度にたくさん並んで点滅するという[7]。
火のなす行列の長さは一里(約4キロメートルあるいは約500~600メートル)にもわたるという[8]。火の色は赤またはオレンジ色が多いとも[6]、青みを帯びた火だともいう[9]。
現れる場所は、富山県砺波市では道のない山腹など、人の気配のない場所というが[2]、石川県鳳至郡門前町(現・輪島市)では、逆に人をどこまでも追いかけてきたという伝承もある[10]。狐が人を化かすと言われているように、狐火が道のない場所を照らすことで人の歩く方向を惑わせるともいわれており[3]、長野県飯田市では、そのようなときは足で狐火を蹴り上げると退散させることができるといわれた[11]。出雲国(現・島根県)では、狐火に当たって高熱に侵されたとの伝承もあることから、狐火を行逢神(不用意に遭うと祟りをおよぼす神霊)のようなものとする説も根強く唱えられている[12]。
また長野の伝説では、ある主従が城を建てる場所を探していたところ、白い狐が狐火を灯して夜道を案内してくれ、城にふさわしい場所まで辿り着くことができたという話もある[13]。
正岡子規が俳句で冬と狐火を詠っている通り、出没時期は一般に冬とされているが、夏の暑い時期や秋に出没した例も伝えられている[14]。
狐火を鬼火の別称とする説もあるが[4]、一般には鬼火とは別のものとして扱われている。
各地の狐火
王子稲荷の狐火
東京北区 王子の王子稲荷は、稲荷神の頭領として知られると同時に狐火の名所とされる[15]。かつて王子周辺が一面の田園地帯であった頃、路傍に一本の大きな榎の木があった。毎年大晦日の夜になると関八州(関東全域)の狐たちがこの木の下に集まり、正装を整えると、官位を求めて王子稲荷へ参殿したという[8][15][16]。その際に見られる狐火の行列は壮観で、近在の農民はその数を数えて翌年の豊凶を占ったと伝えられている[16][17]。
狐の嫁入り
山形県の出羽や秋田県では狐火を「狐松明(きつねたいまつ)」と呼ぶ。その名の通り、狐の嫁入りのために灯されている松明と言われており[8]、良いことの起きる前兆とされている[18]。
宝暦時代の越後国(現・新潟県)の地誌『越後名寄』には、怪火としての「狐の嫁入り」の様子が以下のように述べられている[19]。
夜何時(いつ)何處(いづこ)共云う事なく折静かなる夜に、提灯或は炬の如くなる火凡(およそ)一里余も無間続きて遠方に見ゆる事有り。右何所にても稀に雖有、蒲原郡中には折節有之。これを児童輩狐の婚と云ひならはせり。
ここでは夜間の怪火が4キロメートル近く並んで見えることを「狐の婚」と呼ぶことが述べられており[20]、同様に日本各地で夜間の山野に怪火が連なって見えるものを「狐の嫁入り」と呼ぶ[21]。
その他
岡山県・備前地方や鳥取県では、こうした怪火を「宙狐(ちゅうこ)」と呼ぶ[22][23]。一般的な狐火と違って比較的低空を浮遊するもので、岡山の邑久郡豊原村では、老いた狐が宙狐と化すという[23]。また同じく邑久郡・玉津村の竜宮島では、雨模様の夜に現れる提灯ほどの大きさの怪火を宙狐と呼び、ときには地面に落ちて周囲を明るく照らし、やがて跡形もなく消え去るという[24]。明治時代の妖怪研究家・井上円了はこれに「中狐」の字を当て、高く飛ぶものを天狐、低く飛ぶものを中狐としている[22]。
- ^ 村上 2000, p. 134.
- ^ a b 林 1977, p. 5
- ^ a b 鈴木 2002, pp. 38–39.
- ^ a b “きつねび【狐火】”. Yahoo!辞書. Yahoo! JAPAN. 2013年3月20日閲覧。
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- ^ a b 草野 1997, p. 102
- ^ 有賀喜左衛門「爐辺見聞」『民族』4巻3号、民族発行所、1929年4月、 144-145頁、 NCID AN00236864。
- ^ a b c 多田 1990, pp. 344–345
- ^ 土井卓治「伯耆大山を眺めつつ歩く」『あしなか』通巻49号、山村民俗の会、1955年11月、 22頁、 NCID AN00406352。
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- ^ 宮澤千章「火の玉と狐火」『伊那』51巻1号(通巻896号)、伊那史学会、2003年1月、 30頁、 NCID AN00015559。
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- ^ 石川正臣「飯田の伝説 飯田の烏」『伊那』32巻1号(通巻688号)、伊那史学会、1984年1月、 15頁、 NCID AN00015559。
- ^ 中島繁男「狐火」『日本民俗』2巻12号、日本民俗協会、1937年8月、 19頁、 NCID AN00018761。
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- ^ 笹間良彦 『図説・日本未確認生物事典』柏書房、1994年1月、109頁。ISBN 978-4-7601-1299-9。
- ^ a b c 鈴木 1982, pp. 198–199.
- ^ a b 井上 1916, p. 160
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- ^ 角田 1979, p. 183.
- ^ a b 菊岡 1800, p. 474
- ^ a b c 神田 1931, pp. 15–17
- ^ a b c 神田 1931, pp. 23–25
狐火と同じ種類の言葉
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