流体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/28 04:42 UTC 版)
定義
流体に共通の性質は流動性である。これは体積一定で準静的な変形には力を要しないことであり、さらに言い換えると、静止状態において接触面に平行な内部の力が発生しない(せん断応力、接線応力が発生しない)となる。これより、上述の「静止状態においてせん断応力が発生しない連続体」という流体の定義が得られる。
この「流動性」という定義は熱力学的・物性的なものでなく、運動学的なものである。よって、連続体としての固体と流体の区別は、物質の形態としての固体と液体・気体の区別と厳密には一致しない。例えば、非常に急激な力を加えると水も固体のような性質を示すし、非常に緩慢な力が働いていると氷も流動する[3]ことからも、同じ状態の物質でも運動の時間・空間スケールの違いによって流体とも固体とも観ることができる(粘弾性を参照)。また、塑性を持つ固体や、分散系と呼ばれる液体・気体中に固体が分散した状態のものも流体として扱われることがある[4]。
体積変化を伴う変形には力が必要だが、これは接触面に垂直な内部の力は発生してもよいからである。いかなる方向の接触面に関しても面に平行な内部の力が発生しないことから、「静止流体において内部の力は接触面に垂直でその大きさは接触面の方向によらず面積に比例すること」が導かれる[5][1]。この定理を発見者の名前からパスカルの原理と呼び、垂直な内部の力と面積の間の比例定数を圧力(あるいは静水圧[6])と呼ぶ。なお、以上のことから流体の定義を「静止状態において等方的な応力をもつ連続体」[6]とすることもできる。
連続体モデル
実在流体は互いに衝突をする離散的な分子から構成される。しかし、連続体モデルでは流体を連続であると、すなわち、密度・圧力・温度・速度といった量は各点で定義され、空間に対して連続的に変化すると考える。これは、各「点」を十分に小さいが多数の分子を含む領域と考え、諸量はこの領域での平均量として定義することで実現できる。
連続体モデルは、不連続に変化する量を連続的に変化するとみなす近似である。クヌーセン数 Kn(分子の平均自由行程長と、考えている物理問題に現れる特徴的な長さスケールとの比)が1より十分小さければ(たとえば Kn < 1/5 ならば[6])、近似の精度は十分に高く、実在流体を連続体とみなしてよい。
希薄流体力学
通常のモデルの流体は多くの分子で構成される連続した物質として捉えられるが、分子数が極めて少ない場合には個々の分子運動の性質に大きく影響されるものであり希薄流体力学という分野で扱われる[7]。
- ^ a b c d 今井功『流体力学(前編)』裳華房〈物理学選書 ; 14〉、1973年11月25日発行。ISBN 4-7853-2314-0。全国書誌番号:69025715。
- ^ 山田英巳; 濱川洋充; 田坂裕司『流れ学 流体力学と流体機械の基礎』森北出版、2016年、5頁。
- ^ 湯川秀樹他 『新装版 現代物理学の基礎 古典物理学I』 岩波書店、2011年8月26日第1刷発行、ISBN 978-4-00-029801-8
- ^ 小峯龍男『よくわかる最新流体工学の基本』秀和システム、2006年4月6日第1版第1刷発行。ISBN 4-7980-1283-1。
- ^ 谷一郎『流れ学』岩波書店〈岩波全書〉、1967年5月30日発行。ISBN 4-00-021431-4。全国書誌番号:67003365。
- ^ a b c d 巽友正『新物理学シリーズ21 流体力学』培風館、1982年4月15日初版発行。ISBN 4-563-02421-X。全国書誌番号:82029938。
- ^ 山田英巳; 濱川洋充; 田坂裕司『流れ学 流体力学と流体機械の基礎』森北出版、2016年、6頁。
- ^ a b c 神部勉『流体力学』裳華房、1995年9月20日発行。ISBN 4-7853-2063-X。
- ^ シュッツ (Bernard F. Schutz); 江里口良次・二間瀬敏史訳『相対論入門』丸善、2010年11月30日発行。ISBN 978-4-621-08309-3。
- ^ 後野正雄 流れの科学講義ノート
- ^ 大橋秀雄『流体力学 1』コロナ社〈標準機械工学講座 ; 11〉、1982年12月10日発行。ISBN 4-339-04010-X。全国書誌番号:83007052。
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