操作変数法 操作変数法の概要

操作変数法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/29 04:54 UTC 版)

操作変数法のイメージ

操作変数法は説明変数(共変数)が回帰モデルにおける誤差項と相関している時に一致推定英語版することを可能とする。このような相関は、被説明変数の変化が共変数の少なくとも一つの値を変化させる時("逆"の因果)、説明変数と被説明変数の双方に影響を与える除外変数が存在する時、共変数に測定誤差がある時(error-in-variables models)に起こるだろう。回帰の文脈において一つないしは複数の問題を持つ説明変数は時折、内生性として言及される。この状況下では、最小二乗法はバイアスを持ち一致性を持たない推定量を生み出す[2]。しかし、もし操作変数が利用可能ならば、一致推定量を得ることができる。操作変数とはそれ自身は説明すべき方程式には依存していないが、内生的な説明変数とほかの共変数の値による条件の下で相関している変数のことである。線形モデルにおいては操作変数法を用いるために二つの必要な仮定がある。

  • 操作変数は他の共変数で条件付けた時に、内生的な説明変数と相関しなくてはならない。もしこの相関が統計的に有意なほど高ければ、その操作変数は強い第一段階: strong first stage)を持つと言う。相関が弱いとパラメータの推定値と標準誤差について間違った推論を導きかねない[3]
  • 操作変数は説明方程式の誤差項と他の共変数で条件付けた時に相関してはならない。言い換えると、操作変数は元の予測変数と同じ問題に直面することがない。もしこの条件が満たされているならば、その操作変数は除外制約: exclusion restriction)を満たすと言う。

導入

操作変数法の概念はフィリップ・ライト(: Philip G. Wright)と共著者で息子のシューアル・ライトにより、1928年に出版された著書The Tariff on Animal and Vegetable Oils[4][5]において同時方程式英語版の文脈で導出された。1945年、Olav Reiersøl は彼の学位論文において、errors-in-variables modelsの文脈で同じ手法を用い、その手法に名前を与えた[6]

操作変数法の背後にあるアイデアは広いモデルのクラスに拡張できるが、操作変数法についての非常に一般的な文脈は線形回帰にある。伝統的に、操作変数は で定義され、操作変数と相関を持つ独立変数は 、操作変数と無相関な誤差項は として定義され、以下のような方程式を満たす[7]

ここで は通常、1のみからなる列と他の共変数からなる追加的な列を持つ行列である。この場合において操作変数が解くことのできる問題について考えよう。すると、操作変数法がいかにして問題を解くかを示すことができる。最小二乗法(OLS)が、 の下で について問題を解くことを思い出そう(これは簡単である。誤差の二乗和を最小化する時、、一階条件はまさしく である)。もし、上でリストアップした理由の一つのために、本当のモデルでは であるとしたら、例えばもし の両方に別々に影響を与える除外変数が存在するならば、OLSの手続きは、 に対する の因果的な効果を生み出さないだろう。OLSはただ単純に と相関しないように結果的になる誤差を生み出すパラメータを取り出すであろう。

一変数の場合を用いるとより明確になる。一変数と定数についての回帰を考えているとしよう(ひょっとしたら他の共変数は必要ないかもしれない、またひょっとしたらすでに他の関連する共変数を統制英語版しているかもしれない)。

この場合、興味のある説明変数に対する係数は として与えられる[8] について代入すると以下のようになる。

もし想定しているモデル上において ならば、OLSは興味のある因果効果を反映していない係数を推定する。操作変数法は、 と無相関か否かというより、他の変数 と無相関か否かに基づいてパラメータ を識別するので問題を解決することが可能になる。もし理論上 と関係し(第一段階)、 と無相関(除外制約)ならば、操作変数法は最小二乗法が失敗した興味のある因果パラメータを識別するだろう。線形の場合には操作変数推定量を使い導出する複数の特定の方法が存在するので、さらなる議論は推定の節で行う。

もちろん、操作変数法はより広い非線形モデルのクラスにも適用されてきた。操作変数の一般的な定義は、反事実的かつグラフィカルな形式論を用いることで、ジューディア・パールによって与えられた[9]。グラフィカルな操作変数の定義は Z が次の条件を満たすことで与えられる。

ここで ベイジアン・ネットワークにおけるd分離英語版 であり、 に入る矢印がすべてカットオフされるようなベイジアン・ネットワークにおけるグラフである。

操作変数の反事実的(: counterfactual)な定義は操作変数 Z が以下を満たすことである。

ここで であった時の の取りうる値であり、 は独立を表している。

もし追加的な共変数 があるのならば、 で条件付けた下での操作変数 として定義が変更される。

パールの定義のエッセンスは

  1. 興味のある方程式は"構造的"なものであり、単なる"回帰"ではない。
  2. 誤差項 が定数である時に に影響を与えるすべての外生的要因を表している。
  3. 操作変数 と独立でなければならない。
  4. 操作変数 が定数ならば、 に影響を与えてはならない。(除外制約)
  5. 操作変数 と独立ではない。

ということである。

これらの条件は方程式の特定の関数形に依存しておらず、ゆえに非線形方程式、つまり誤差項 が非加法的である場合にも適用できる。これらの条件はまた複数の方程式からなるシステムにも適用でき、そこでは (と他の要因)がいくつかの中間的な変数を通して に影響を与える。操作変数は の原因である必要はない。そのような原因の代理変数は、条件1から5を満たすならば、操作変数としてまた使えるだろう[9]。また、除外制約(条件4)は条件2と3から導けるので省略できる。

カジュアルな言い方では、ある変数 が他の変数 に与える因果効果を推定しようとする時、操作変数は における効果のみを通して に影響を与える変数 のことである。例えば、研究者は喫煙の一般的な健康における因果効果を推定したいとしよう[10]。健康と喫煙の相関は、他の変数が健康と喫煙の両方に影響を与えた、もしくは健康状態が喫煙に影響を与えたと考えることもできるので、喫煙が健康を悪化させる原因であるということは意味しない。一般の母集団において喫煙状態を制御した実験を行うのはとても難しく費用がかかる。研究者は、因果分析における喫煙の操作変数としてタバコ製品の税率の時系列を用いて観測データから健康における喫煙の因果効果を推定しようとするだろう。研究者はタバコ製品についての税率は喫煙に与える効果のみを通して健康に影響を与えると仮定するので、タバコ製品についての税率は操作変数としては合理的な選択である。もし研究者がタバコ税と健康状態が相関しているのを発見できたならば、それは喫煙が健康状態の変化の原因であるという証拠と見なしうる。

ヨシュア・アングリストアラン・クルーガーは操作変数法の使用と歴史についてのサーベイを行っている[11]


  1. ^ Imbens, G.; Angrist, J. (1994), “Identification and estimation of local average treatment effects”, Econometrica 62 (2): 467–476, JSTOR 2951620, https://jstor.org/stable/2951620 
  2. ^ Bullock, J. G.; Green, D. P.; Ha, S. E. (2010). “Yes, But What’s the Mechanism? (Don’t Expect an Easy Answer)”. Journal of Personality and Social Psychology 98 (4): 550–558. doi:10.1037/a0018933. 
  3. ^ https://www.stata.com/meeting/5nasug/wiv.pdf
  4. ^ The Fall of OLS in Structural Estimation, doi:10.2307/2663184 (inactive 23 March 2015), JSTOR 2663184
  5. ^ Stock, James H.; Trebbi, Francesco (2003). "Retrospectives: Who Invented Instrumental Variable Regression?". Journal of Economic Perspectives. 17 (3): 177–194. doi:10.1257/089533003769204416
  6. ^ Reiersøl, Olav (1945). Confluence Analysis by Means of Instrumental Sets of Variables. Arkiv for Mathematic, Astronomi, och Fysik. 32A. Uppsala: Almquist & Wiksells. OCLC 793451601 
  7. ^ Bowden, R.J.; Turkington, D.A. (1984). Instrumental Variables. Cambridge, England: Cambridge University Press 
  8. ^ 証明については [1]を参照。
  9. ^ a b c Pearl, J. (2000). Causality: Models, Reasoning, and Inference. New York: Cambridge University Press. ISBN 0-521-89560-X 
  10. ^ Leigh, J. P.; Schembri, M. (2004), “Instrumental Variables Technique: Cigarette Price Provided Better Estimate of Effects of Smoking on SF-12”, Journal of Clinical Epidemiology 57 (3): 284–293, doi:10.1016/j.jclinepi.2003.08.006 
  11. ^ Angrist, J.; Krueger, A. (2001), “Instrumental Variables and the Search for Identification: From Supply and Demand to Natural Experiments”, Journal of Economic Perspectives 15 (4): 69–85, doi:10.1257/jep.15.4.69 
  12. ^ Davidson, Russell; Mackinnon, James (1993). Estimation and Inference in Econometrics. New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-506011-3 
  13. ^ Balke, A.; Pearl, J. (1997). “Bounds on treatment effects from studies with imperfect compliance”. Journal of the American Statistical Association 92 (439): 1172–1176. doi:10.1080/01621459.1997.10474074. 
  14. ^ Heckman, J. (1997). “Instrumental variables: A study of implicit behavioral assumptions used in making program evaluations”. Journal of Human Resources 32 (3): 441–462. JSTOR 146178. 
  15. ^ Bound, J.; Jaeger, D. A.; Baker, R. M. (1995). “Problems with Instrumental Variables Estimation when the Correlation between the Instruments and the Endogenous Explanatory Variable is Weak”. Journal of the American Statistical Association 90 (430): 443. doi:10.1080/01621459.1995.10476536. 
  16. ^ Nelson, C. R.; Startz, R. (1990). “Some Further Results on the Exact Small Sample Properties of the Instrumental Variable Estimator”. Econometrica 58 (4): 967–976. JSTOR 2938359. 
  17. ^ Stock, J.; Wright, J.; Yogo, M. (2002). “A Survey of Weak Instruments and Weak Identification in Generalized Method of Moments”. Journal of the American Statistical Association 20 (4): 518–529. doi:10.1198/073500102288618658. 
  18. ^ Hayashi, Fumio (2000). “Testing Overidentifying Restrictions”. Econometrics. Princeton: Princeton University Press. pp. 217–221. ISBN 0-691-01018-8. https://books.google.com/books?id=QyIW8WUIyzcC&pg=PA217 





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