接着斑 接着斑の概要

接着斑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/12 15:22 UTC 版)

接着斑 (desmosome)
図1.組織切片(2次元)に見る接着斑の電子顕微鏡像。中央の橋のような2本の黒い平行線が接着斑
図2.接着斑の2次元模型(空色部分が図1の「2本の黒い平行線」)
概要
表記・識別
ラテン語 ''Macula adhaerens
MeSH D003896
コード TH H1.00.01.1.02015
TH H1.00.01.1.02015
FMA 67412
解剖学用語

接着斑の通常の英語「desmosome」は、古代ギリシア語δεσμός(desmo、「結合、固く締めること」の意)とσῶμα(soma、「体、身体」の意)に由来している。接着斑のもう1つの英語「macula adherens」は「接着する点」という意味のラテン語に由来している。

用語の注意

日本語としては、接着斑よりデスモソーム、またはデスモゾームという呼称の方が多用されている。

英語の「focal adhesion」(adhesion plaquesと同一)も「接着斑」と翻訳される場合が少しあるが、「focal adhesion」は「desmosome」(macula adherens) とはまったく別物である。混乱を避けるため、「接着斑」という用語をここでの定義のように使用し、「focal adhesion」(adhesion plaques) は「接着点」または焦点接着[1]'という用語を使用する。

位置付け

多細胞生物の細胞接着の大枠は、細胞結合である。その大枠の下に固定結合連絡結合閉鎖結合の3種類の中枠がある。その1つである固定結合の下に、ここで述べる接着斑(デスモソーム)と、接着結合半接着斑(ヘミデスモソーム)の3小枠がある。

3小枠の違いは、接着相手の違いと接着装置を支える細胞骨格の違いである。接着結合細胞骨格アクチンフィラメントである。「接着斑」と「半接着斑」は細胞骨格が中間径フィラメントである。「接着斑」は「細胞-細胞接着」の接着装置で、「半接着斑」は「細胞-基質接着」の接着装置である。

歴史

19世紀後半、イタリア病理学ジュリオ・ビッツォゼーロ(Giulio Bizzozero、1846-1901)が、表皮有棘層(ゆうきょくそう)に小さな高密度の結節を見つけた。この結節は、後に「ビッツォゼーロの結節」(nodes of Bizzozero)と呼ばれるが、彼は、「細胞-細胞接着」の接着構造と考えた。つまり、彼が最初に接着斑を発見したのである。

1920年、オーストリア・グラーツ医科大学のジョセフ・シェーファー(Josef Schaffer、1861-1939)が、ギリシア語の「desmo」(「結合、固く締めること」の意)と「soma」(「体、身体」の意)に因み、「desmosome」と命名した。

1950年代、1960年代、生物組織細胞微細構造の観察に電子顕微鏡が使用されるようになり、米国のキース・ポーター(Keith R. Porter、1912-1997)など多くの細胞生物学者が、接着斑の微細構造を観察し、記述した。

1974年、米国・ボストン医科大学のクリスチン・スケロウ(Christine J. Skerrow)とジェディオン・マトルトシー(A Gedeon Matoltsy)が牛の鼻の上皮から接着斑を単離し、分子量が230 kDa、210 kDa、140 kDa、120 kDa、90 kDa、75 kDa、60 kDaの7種類の主要な構成タンパク質を発見した[2]

スケロウとマトルトシーが生化学的な突破口を開いたことで、1980年代、抗体を用いたタンパク質の同定がさらに進み、接着斑の微細構造での局在も調べられ、構成タンパク質に関する研究が大きく前進した。ドイツがん研究センターのウェルナー・フランケ(Werner W. Franke)や米国・プリンストン大学のマルコム・スタインバーグ(Malcolm S.Steinberg)らの寄与が大きい。

構造

図3.接着斑の3次元模型。細胞接着タンパク質、細胞膜裏打ちタンパク質、中間径フィラメント

接着斑の2次元の断面(図1)では、2本の黒い平行線に見える。平行線の間は約30nmとかなり離れている。2本の黒い平行線の真中から左右が2つの細胞で、2本の黒い平行線の真中から左右対称に、右に3層、左に3層の構造がある。以下、1つの3層で説明する。

  • Extracellular Core Region(ECR、desmoglea):細胞外の部分。2本の黒い平行線を上空から見た「橋」に例えると、人が歩く部分(2本の黒い平行線の間)が細胞外で、そこに、細胞接着分子であるデスモグレイン(desmogleins)やデスモコリン(desmocollins)の細胞膜から飛び出た部分がある。細胞外で、デスモグレインは相手細胞のデスモグレインと、デスモコリンは相手細胞のデスモコリンと同親性結合(ホモフィリック結合、homophilic adhesion)をしている。
  • Outer Dense Plaque(ODP):2本の黒い平行線(橋の欄干)の細胞外側。細胞膜裏打ちタンパク質のプラコグロビン(plakoglobins)、デスモプラキン(desmoplakins)、プラコフィリン(plakophilins)が細胞接着分子に結合している領域[3]
  • Inner Dense Plaque(IDP):2本の黒い平行線(橋の欄干)の細胞内側。細胞膜裏打ちタンパク質が中間径フィラメントに結合している領域。

  1. ^ 細胞骨格のアクチンが細胞外基質へ固定、結合すること。 
  2. ^ Skerrow CJ, Matoltsy AG (1974). “Chemical characterization of isolated epidermal desmosomes”. J Cell Biol 63 ((2 Pt 1)): 524-530. PMC 2110930. PMID 4421013. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2110930/. 
  3. ^ Bornslaeger, E. A.; Corcoran, C. M.; Stappenbeck, T. S.; Green, K. J. (1996). “Breaking the connection: displacement of the desmosomal plaque protein desmoplakin from cell-cell interfaces disrupts anchorage of intermediate filament bundles and alters intercellular junction assembly”. J. Cell Biol. 134 (4): 985-1001. doi:10.1083/jcb.134.4.985. ISSN 0021-9525. PMC 2120955. PMID 8769422. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2120955/. 
  4. ^ Lahtinen, AM; Lehtonen, E, Marjamaa, A, Kaartinen, M, Helio, T, Porthan, K, Oikarinen, L, Toivonen, L, Swan, H, Jula, A, Peltonen, L, Palotie, A, Salomaa, V, Kontula, K (2011). “Population-prevalent desmosomal mutations predisposing to arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy.”. Heart rhythm : the official journal of the Heart Rhythm Society 8 (8): 1214-1221. doi:10.1016/j.hrthm.2011.03.015. PMID 21397041. 
  5. ^ Protonotarios N, Tsatsopoulou A (Mar 2006). “Naxos disease: cardiocutaneous syndrome due to cell adhesion defect”. Orphanet J Rare Dis 1: 4. PMC 1435994. PMID 16722579. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1435994/. 


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