国勢調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 05:21 UTC 版)
歴史
起源
国勢調査は、最も古いのは紀元前3800年代バビロン王朝で行われ、約紀元前3000年エジプトや中国などで見られる。英語で「Census」と呼ばれ、新約聖書の「ルカによる福音書」の中に、キリストの生誕に近い時期にローマ帝国の人口調査と行われたとの記述がみられる。
中世・近世
中世・近世においても、国家の運営に必要とされる情報を得るために、国家が人口・世帯に関する調査を行った事例が見られるが、それらは今日のような統計の作成を目的とした国勢調査とは性格が異なるものと考えられ、いつの時代のものをもって今日的な意味での国勢調査あるいは「Census」とみなせるかということについては定かではない。
近代国家以前の調査
近代国家の成立する以前の国勢調査の調査は、国によって様々である。ヨーロッパでは、出生、婚姻、死亡について教会と密接な繋がりがあったことから、国家が国民を調査するのではなく、出生等の出来事を教会に登録する習慣があった。その記録は、人口統計の発達の基礎となった。教会は
などの条件がそろっていたため、国勢調査を行う土台となった[4]。
近代的な国勢調査以前の時代においては、国の人口データは国家の最高機密とされていた事例も見られる。そのため出版の自由の議論の際には、「国勢調査の結果を刊行するかしないか」が問題となったケースもある[4]。
近代国家
近代国家においては、法に基づいて人口・世帯に関する全数調査が行われるようになった。その中で最も歴史の古いものの一つに、アメリカ合衆国のセンサスがある。アメリカ合衆国では、憲法の中に、下院議員の各州の議席数はセンサスによって得られた各州の人口に比例して配分しなければならないと定められている。このため、アメリカ合衆国では、1790年以来10年ごとに国勢調査(Population and Housing Census)が実施されている(アメリカ合衆国国勢調査を参照のこと)。19世紀以降になると、多くの国々で、それぞれの法令に基づいて国勢調査が実施されるようになった。
日本で国勢調査が本格的に始まるのは1920年からである。もっとも、近代的な方法はそれ以前の実施例が見られる。1868年に徳川家が駿河に移ったとき、同行した杉亨二は、沼津奉行に進言して、翌年この地方の人口調査「人別調」を行った。やがて杉は明治政府の役人となり、1879年に山梨県の人口調査を任された。この「甲斐国現在人別調」は、1846年10月15日に実施されたベルギーの第一回国勢調査において用いられた産業別職業分類法を採用している。1876年、杉は太政官政表課による「日本職業分稿」「日本商業区分稿」の作成に参画している。この二つは、いずれもオーストリア型の肩書き別分類を用いている。1902年(明治35年)に「国勢調査二関スル法律」制定され、1920年(大正9年)に第1回の国勢調査が実施された[5]。
現代
今日、国勢調査によって得られた個人情報は、法律によって厳格に秘密を保護されているが、統計として集計された結果については、民主国家においては広く公開されている。これは、国際連合統計委員会が国の統計に関する基本原則として1994年に採択した「官庁統計の基本原則(United Nations Fundamental Principles of Official Statistics)」に基づくものである[6]。この日本語による解説については、官庁統計の基本原則(総務省統計局)を参照。
同基本原則では、「経済・人口・社会・環境の状態についてのデータを政府、経済界及び公衆に提供することによって、民主的な社会の情報システムにおける不可欠な要素を構成している。この目的のため、公的な情報利用に対する国民の権利を尊重するよう、政府統計機関は、実際に役に立つ官庁統計を公正にまとめ、利用に供しなければならない。」としている。
ただし、公開されるのは、あくまでも集計して得られた統計のみであり、個人や世帯に関する個別のデータは厳重に保護されるべきとされている。同基本原則は、「統計機関が統計作成のために収集した個別データは、自然人又は法人に関するものであるかによらず、厳重に秘匿されなければならず、統計目的以外に用いてはならない。」としている。
日本でも、統計法において統計の「理念(第3条)」として、「公的統計は、広く国民が容易に入手し、効果的に利用できるものとして提供されなければならない。」(第3項)及び「公的統計の作成に用いられた個人又は法人その他の団体に関する秘密は、保護されなければならない。」(第4項)と規定されており、同基本原則と同趣旨のことが規定されている。
多くの国では定期的に国勢調査が行われるが、レバノンでは複雑な宗教・民族の対立により、1932年から現在まで国勢調査が行われていない[7]。
注釈
出典
- ^ 「国勢調査」『デジタル大辞泉』 。2020年9月23日閲覧。
- ^ “センサスの語源”. 2021年11月20日閲覧。
- ^ a b c d 『Principles and Recommendations for Population and Housing Censuses, Revision 2』United Nations 2008年
- ^ a b c d e f g 『近代統計制度の国際比較』安本稔編集 2007年12月 日本経済評論社 ISBN 978-4-8188-1966-5
- ^ “統計局ホームページ/国勢調査のあゆみ”. www.stat.go.jp. 2024年1月30日閲覧。
- ^ 『United Nations Fundamental Principles of Official Statistics』United Nations 1994年
- ^ Barshad, Amos (2019年10月17日). “In Lebanon, a Census Is Too Dangerous to Implement” (英語). ISSN 0027-8378 2021年4月10日閲覧。
- ^ 2007年6月29日付配信 NNAニュース
- 国勢調査のページへのリンク