前立腺癌 予防の可能性

前立腺癌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/01 10:22 UTC 版)

予防の可能性

大豆に含まれるイソフラボン成分であるゲニステイン濃度、ダイゼインの代謝物であるエコール濃度が高いグループの前立腺に限局する前立腺癌リスクは低くなる。イソフラボンの血中濃度が高いと、限局前立腺癌のリスクを低下させる。進行前立腺癌では作用しない[28]緑茶をよく飲むグループで進行前立腺癌のリスクが低下する[29]

他に肉食を控えて減塩し、新鮮な野菜や果物を中心にした食生活も効果があるとされる[要出典]

2016年にハーバード大学公衆衛生教室から発表された、アメリカ人の男性を約20年間追跡調査した研究によると20代の時に月21回以上射精していた人の前立腺癌のリスクは、4~7回の人よりも2割少なかった[30][31]

自覚症状

初期症状
前立腺癌にかかっても初期は無症状のため[32]、気づくことはほとんどない[33]
排尿障害
前立腺癌の代表的な自覚症状は排尿障害であるが、前立腺癌は尿道から離れた辺縁域にできやすいため、早期には排尿関連の症状を呈することはまれである。従って、尿道まで及んで排尿障害を自覚できた時は癌が進行していると考えてよい[33]。前立腺癌の排尿障害はさまざまな形で現れ、具体的には夜中に何度もトイレに通う夜間頻尿、尿線が細くなって放物線を描いて飛ばない尿線細小、排尿し終わるまで時間がかかる排尿遅延、途中で止まりいきまないと続けられない尿線途絶といった症状がある[33]
その他
排尿障害以外では残尿感、尿失禁、血尿、精液に血が混じる血精液症、強い尿意があるのに全く尿を出せない尿閉などがあり、尿閉の場合は尿道から膀胱にカテーテルという柔らかいチューブを挿入する処置をする場合もある[33]。ほか、直腸浸潤による下血を認めることがある。
骨転移
前立腺癌が骨盤や腰椎に転移(骨転移)すると、背中や腰の痛み、足の麻痺・膀胱直腸障害などが出てくるが[33]、この場合は癌がすでにかなり広範囲に広がっている状態で脊髄の圧迫による運動障害や、鈍痛から刺すような痛みまで、さまざまな痛みを伴うことになる[34]
リンパ節転移
前立腺癌がリンパ節に転移した場合はリンパ液の流れが滞り、足や陰嚢、下腹部に浮腫みが生じるが、ここまで進行した場合は腎臓から膀胱へ尿を送る尿管も癌に侵され、尿の流れが障害されて水賢症を起こし、腎臓の働きが低下する場合もある[34]
勘違いされやすい自覚症状、注意点
前述したように前立腺癌は初期の場合は自覚症状が乏しいため、自ら気づくことはほとんどない。また自覚症状が出ても前立腺肥大と勘違いされやすい(実際は前立腺肥大と前立腺癌を併発している場合が多い)[33]。他にも排尿障害は主に高齢者に多いため、治療の機会を逃がして症状が出た時には全体の7割から8割が進行癌か転移癌の状態になっている例も多い[34]

検査と診断

血液検査によるPSA検査によるスクリーニングを行い、問診、直腸診、エコー検査(超音波断層撮影)を行った上で、癌が疑わわれる場合には、針生検による病理組織診断グリソンスコアなどの評価が行われる。一般にはPSAが4.0ng/mlをカットオフ値とし、これ以上ならば生検を行う場合が多いが、急性前立腺炎などでもPSAの上昇を認めるため、最適なカットオフ値は分かっていない。年齢別にPSAのカットオフ値を分ける場合もあり、施設によって値は異なる。一般に4ng/ml<PSA<10ng/mlでは前立腺癌の見つかる可能性は25-30%、10ng/ml以上で50-80%と言われている。前立腺生検には敗血症発症のリスクもある[35]。PSAを用いた前立腺癌のスクリーニングを行なう上で注意が必要なのは、フィナステリド(プロペシア)やデュタステリド(アボルブ)を服薬していると、PSA値が本来の半分程度となり、偽陰性となることと、まれながらPSAの上昇を伴わない前立腺の腺癌が存在することなどである[36]

スクリーニングの有用性については種々の意見があったが、最近の知見として、PSA検診で前立腺がん死亡リスクが44%減少、癌の発見率は1.64倍になるとの報告がなされている。[37]

生検で癌細胞が見つかった場合には、造影CTによりリンパ節転移の有無、精嚢浸潤などの前立腺被膜外への癌浸潤が検査されるが、CTによる精嚢・被膜外浸潤、リンパ節転移の診断能は低い。前立腺癌は比較的骨に転移しやすいため、核医学検査である骨シンチグラフィーで骨転移の有無を評価する必要がある。また、後述するT分類の精度を高めるため、MRIが行なわれることも少なくない。以前はPSA高値の症例にルーチンでMRI検査を行なうことを疑問視する意見もあったが、近年では、生検を行う前に磁力強度の高いMRI(3.0テスラMRI)や経直腸のMRIを用いることでより正確な画像診断が可能になってきている。

MP-MRIは、悪性度の高い前立腺癌を検出する感度がTRUSガイド下生検より有意に高かったが(93%対48%)、特異度は低かった(41%対96%)[38]

生検後にMRI検査を行なっても、真の病変を見ているのか、生検による出血を見ているのか、判別に苦慮することも多い。また、カラードップラー検査を用いた経直腸超音波でも、画像診断は可能となってきている。


注釈

  1. ^ 日本でPSA検査が普及し始めたのは、1990年ごろからであり、それ以前は前立腺酸ホスファターゼ (prostate acid phosphatase、略称:PAP) が用いられていたものの、感度は圧倒的に低かった。
  2. ^ びまん性に造骨性の骨転移を認め、PSA値も高値であり、臨床的には前立腺癌と考えられるが、種々の検査によっても、原発巣の悪性細胞を証明できない場合など。

出典

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