前立腺癌 病期・リスク分類・病理組織学的分類

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前立腺癌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/01 10:22 UTC 版)

病期・リスク分類・病理組織学的分類

前立腺癌には「TNM分類」と「ABCD分類」(ジュエット分類)という2つの病期分類法(進行度・ステージ・浸潤度)がある[39]。TNM分類は癌の大きさ(T分類)、所属リンパ節転移の有無(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)の3つに分けて分類する方法であり、ABCD分類は腫瘍の進展度別に分類する方法である[39]。ちなみにTNM分類は国際対癌連合すなわちUICCが作成しているもので、TUMOUR(腫瘍・原発巣)、NODES(リンパ節)、METASTASIS(転移)の頭文字である[39]。現在、治療現場ではTNM分類が採用されることが多いが、上に上がるたびに進行しているといったように患者にとってわかりやすいABCD分類が採用されることも少なくなく、日本泌尿器科学会日本病理学会の前立腺癌取扱い規約ではABCD分類が採用されている[39]

分類上の問題として、T分類の根拠が直腸診によるのか、超音波検査によるのか、MRIによるのか、統一されていないことが挙げられる。(例えば、今まで用いられてこなかった感度の高い診断手法・装置で病期分類などを行なうと、見かけの治療成績が上がる、という現象が生じる。)また、T分類においては。生検所見ではなく、MRIや超音波によって分類する必要があり、画像上片側にしか病変を確認できないが、生検では両葉からがん細胞が証明された症例について、T2cと分類するのは不適切である。前立腺癌では、多発病変の扱いがTNM分類の分類規則の例外である点も注意が必要である。一般に、多発病変が確認された場合、そのうちの進行度の最も高い病変についてT分類を行なうが、腫瘍が多発することが多い前立腺癌では、独立した結節が両葉に認められる場合、これをT2cとする慣例がある。精嚢浸潤はT2強調画像の冠状断で評価しやすい。MRIによる原発巣の存在診断には、以前は造影検査が用いられてきたが、拡散強調画像(DWI)でも明瞭に描出されるため、ルーチンのシーケンスが置き換わっている。

TNM分類 UICC 8th edition
以下の分類は腺癌に限って適用するよう定められている。
  • TX :原発腫瘍の評価が不可能
  • T0 :原発腫瘍を認めない[注 2]
  • T1a :直腸診や画像検査では見つからないが、組織を調べると切除した組織の5%以下に偶然発見された癌。
  • T1b :直腸診や画像検査では見つからないが、組織を調べると切除した組織の5%を超え、偶然見つかった癌。
  • T1c :直腸診や画像検査では見つからないが、PSA値の上昇で疑われ、生検によって確認された癌。
  • T2a :癌が前立腺の片葉の2分の1に留まっている。
  • T2b :癌が前立腺の片葉の2分の1を超えているが、両葉には及ばない。
  • T2c :癌が前立腺の両葉に広がっている。
  • T3a :癌が前立腺の被膜外へ広がっている。
  • T3b :癌が精嚢に浸潤している。
  • T4 :癌が精嚢以外の隣接臓器(膀胱・頸部・外尿道括約筋・直腸・拳筋・骨盤壁)に浸潤している。
  • NX :所属リンパ節転移の評価が不可能
  • N0 :所属リンパ節転移なし
  • N1 :前立腺癌が領域リンパ節に転移している。(内調骨リンパ節・外腸骨リンパ節・閉鎖リンパ節)
  • M0 :遠隔転移なし。
  • M1 :前立腺から離れたリンパ節や臓器などへの転移、骨への転移がある。(M1a:領域外リンパ節への転移, M1b:骨転移, M1c:その他の部位への転移)
Stage T-classification N-classification M-classification
Stage I T1, T2a N0 M0
Stage II T2b, T2c N0 M0
Stage III T3, T4 N0 M0
Stage IV Any T N1 M0
Any T Any N M1
UICCのTNM分類第8版は、2017/1/1より適用されている。
ABCD分類
  • A1 :前立腺内に留まっている高分化癌(=T1a)
  • A2 :前立腺内に広がった癌か低分化癌(=T1b)
  • B1 :前立腺癌の片葉に病変が留まっている単発の癌(=T2b)
  • B2 :前立腺の片葉全体か両側にまたがっている癌(=T2c)
  • C1 :前立腺の被膜や被膜外に広がっている癌(=T3a)
  • C2 :膀胱頸部か尿管の閉塞が見られる(=T4)
  • D1 :骨盤内のリンパ節に癌の転移が見られる(=N1)
  • D2 :D1より広範囲のリンパ節や骨、肺、肝臓などの遠隔部位に癌の転移が見られる(=M1)
グレードグループ
前立腺癌では病理組織学的悪性度が予後に関与することが従前より指摘されてきた。近年、組織病理学的分類のひとつとして、より予後予測に有用と考えられるグレードグループというものが、新たに提唱され、UICCのTNM分類第8版で採用されている。
グリソングレード グリソンスコア グリソンパターン
1 ≦6 ≦3 + 3
2 7 3 + 4
3 7 4 + 3
4 8 4 + 4
5 9 - 10 4 + 5, 5 + 4, 5 + 5
リスク分類
UICCのTNM分類のみでは、前立腺癌の治療方針決定や予後の推定には不十分であり、これを補うためさまざまなリスク分類が提唱され、用いられている。例えば、D'Amico分類[40]では低リスク、中間リスク、高リスクの3つのリスク群に分類される。低リスクは、cT1-T2a, PSA ≦ 10 ng/mL,グリソンスコア 6以下を全て満たすものであり、高リスクは、T2c以上, PSA >20ng/mL, グリソンスコア 8以上のうち、一つでも満たすものがあった場合であり、中間リスクは、それ以外である。他にもさまざまなリスク分類が提唱されている。

注釈

  1. ^ 日本でPSA検査が普及し始めたのは、1990年ごろからであり、それ以前は前立腺酸ホスファターゼ (prostate acid phosphatase、略称:PAP) が用いられていたものの、感度は圧倒的に低かった。
  2. ^ びまん性に造骨性の骨転移を認め、PSA値も高値であり、臨床的には前立腺癌と考えられるが、種々の検査によっても、原発巣の悪性細胞を証明できない場合など。

出典

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