ローラン級数
例えば、関数 f(x) = e−1/x² を考える。ただし、f(0) = 0 と置く。実関数としては、これは各点で無限回微分可能である。一方、複素関数としてはこれは点 x = 0 において微分可能ではない。 指数関数のテーラー展開に −1/x2 を代入することにより、得られるローラン級数が収束すること、およびそのローラン級数が特異点である x = 0 を除く各複素数点 x において f(x) と一致することなどが確かめられる。
さらに一般に、ローラン級数はアニュラス上定義された正則関数を表示するのに用いられる。これは円板 (disk) 上定義された正則関数が冪級数で表されるのと同様である。さて、
を与えられたローラン級数で、複素数の係数 an を持ち、中心 c も複素数とする。ここで、内半径r および外半径 R が一意的に存在して以下を満たす:
- 与えられたローラン級数が開アニュラス A := {z | r < |z − c| < R} 上で収束する。ここでローラン級数が収束するというのは、正冪部分の冪級数と負冪部分の級数(を w = 1 / (z − c) の冪級数と見たもの)がともに収束することを意味する。さらにいえばこの収束性は広義一様収束(任意のコンパクト部分集合上で一様)である。また、収束ローラン級数はこの開アニュラス上で正則な関数 f(z) を定義する。
- 上記の開アニュラス A の外側では与えられたローラン級数は発散する。つまり、A の外部の点においては正冪部分か負冪部分の冪級数が発散する。
- アニュラス A の境界上では、内側の境界と外側の境界(というのは一般的な言い方ではないけれども)のそれぞれで f(z) が滑らかに繋がらない点が少なくとも一つずつ存在する。
もちろん、r が 0 に取れることも R が無限大に取れることもある。それとは反対に、必ずしも r < R である必要もない。これらの半径は
によって計算することができる。後者の上限が 0 であるときに R を無限大としてとる。
上記の議論とは逆に、アニュラス A = {z | r < |z − c| < R} と A 上定義された正則関数 f(z) から始めるなら、c を中心とし、少なくとも A 上では収束するローラン級数で f(z) を表すものが一意的に存在する。
例として、関数
を考える。この関数は分母が 0 になるために関数が定義できない点として z = 1 と z = 2i を特異点としてもつ。z = 0 におけるテイラー級数は半径 1 の円板上で収束するので、収束円の境界は特異点である z = 1 に「ぶつかる」。一方、z = 0 のまわりでのローラン展開というのは z の属する領域に応じて三種類可能である。
- 一つは |z| < 1; なる円板上で定義されるもので、これは上記テイラー級数と同じものである:
- .
- 別な一つは 1 < |z| < 2 なる二つの特異点の間にあるアニュラス上で定義されるもので、以下のようになる:
- .
- 最後の一つは 2 < |z| < ∞, なる無限アニュラス上で定義されるものである:
- .
r = 0 の場合というのは、つまり一点 c においてのみ定義されないかも知れない正則関数 f(z) の場合であるが、特に重要である。そのような関数のローラン展開における −1 番目の係数 a-1 は関数 f(z) の特異点 c における(微分形式 f(z)dz の)留数と呼ばれ、留数定理における重要な役割を演じる。
例えば、関数
を考える。この関数は z = 0 を除いた各点で正則である。中心 c = 0 に関するローラン展開を決定するために、指数関数のテイラー展開を利用すると
なる展開を得る。したがって留数が 2 であることが見てとれる。
- 1 ローラン級数とは
- 2 ローラン級数の概要
- 3 形式ローラン級数
- 4 関連項目
ローラン級数と同じ種類の言葉
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