ロードプライシング 距離制課金制度

ロードプライシング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/22 06:32 UTC 版)

距離制課金制度

距離制課金制度とは、走行距離に応じた道路利用料金を課す制度のことを言う。道路交通需要に基づく合理的な道路整備維持の確立の目的に重きをおいて構想される場合が多い。欧米の機関で、距離制課金制度への将来の移行を不可避とし勧告する報告書が提出されている [10] [11] [12] [13] [14]

欧州ではキロメータ課金 (Kilometre charge) 制度とも呼ばれることもある(オランダ政府の道路課金制度計画(英語)。他にも下記の各種の呼称が存在する。

  • 距離制課金、対距離課金、走行距離課金、時刻・距離・場所(time distance place、 TDP) 制課金、 GNSS road pricing、road user charging (RUC)[15]、GNSS tolling、Vehicle miles traveled tax、pay-as-you-go fee。

日本の状況

日本でも、自動車排ガスによる深刻な大気汚染や救急車の到着を遅延させる等問題の多い渋滞が多発している。元凶である自動車乱用を抑制するため1968年8月に運輸省が『都心通行マイカー賦課構想』を発表したことがある。これは、東京では東京都道318号環状七号線の内側、大阪では中央環状道路神崎川で囲まれた地域において、午前8時から午後8時まで通行する自家用車に対して日額では500円、月額では4000円、年額では3万円の徴収を行うという内容であった。しかし、主として自家用車のユーザーから強い反発を受けた。されど、自動車乱用による重大事故多発、救急車の到着遅延、自動車公害による不経済や公共損失、健康被害も相次いでいたこともあり、自動車への規制取り締まり強化、課税強化は国民のひとつの声でもあった。 1973年7月、地下鉄網の整備が進展したこと、第一次オイルショック直前に既に問題になっていたエネルギー問題、排気ガス公害への関心の高まりなどを理由として、同省の自動車局は再度ほぼ同じ内容の賦課構想を提出し、規制区域の範囲や対象車種について議論を行ったが、やはり実現には至らなかった[16]

東京都では石原慎太郎東京都知事が渋滞緩和・環境改善のためにロードプライシング活用の意向を示し、2003年以降ロードプライシング導入計画の素案作りに取り組んでいる。しかし諸事情により、その後の進展は進んでいない。また、神奈川県鎌倉市では社会実験の実施が検討されたことがある。

その後、2021年に行われた東京オリンピック・パラリンピックの渋滞緩和策として、首都高速道路の一部区間で同大会の開催期間中に導入された[17]。また、休日における東京湾アクアラインの慢性的な渋滞の緩和策として、2023年7月22日から2024年3月末の予定で土日・祝日の上り線(千葉県木更津市→神奈川県川崎市)でETC搭載車両を対象に導入された[18][19][20][21]

都市高速道路の環境ロードプライシング

臨海部の路線へ大型車を誘導して市街地路線の沿線環境を改善することを目的に、首都高速道路と阪神高速道路において2001年からETC無線通行限定の割引として実施している。以下の内容は2011年11月現在のもの。

首都高速道路
湾岸線大黒JCT川崎浮島JCT間または神奈川6号川崎線の川崎浮島JCT~大師間を経由する大型車について、神奈川線料金を20%引き(割引後料金は50円単位に切り捨てるため、950円になる)。
  • 特定料金が適用される場合は割引対象外。
  • 神奈川1号横羽線浅田~大師間を通行する場合は、上記対象区間の経由の有無にかかわらず割引対象外。
  • 時間帯割引は、本割引適用後料金に対して重複適用する。
阪神高速道路
5号湾岸線六甲アイランド北天保山間を経由する大型車と一部の普通車について、阪神西線および阪神東線の料金を30%引き。ただし、阪神東線に割引が適用されるのは、天保山以西の区間のみを利用する場合に限る。

注釈

  1. ^ ただし、公平性も重視する現実の政治では必ずしも普遍的な純便益最大化を追求できるわけではなく、葛藤が生じる。

出典

  1. ^ 「外来語」言い換え提案(国立国語研究所)http://www.ninjal.ac.jp/gairaigo/index.html
  2. ^ 宇沢弘文、自動車の社会的費用、岩波新書、1974年、ISBN 978-4-00-411047-7
  3. ^ 岡並木、都市と交通、岩波新書、1981年、ISBN 978-4-00-420155-7
  4. ^ 竹内健蔵、交通経済学入門、有斐閣、2008年、ISBN 978-4-64-118368-1
  5. ^ 宮川公男 、高速道路 なぜ料金を払うのか ―高速道路問題を正しく理解する、東洋経済新報社、2011年、ISBN 978-4492223147
  6. ^ 根本敏則、味水佑毅、対距離課金による道路整備、勁草書房、2008年、ISBN 978-4-32-654814-9
  7. ^ Taxation of heavy goods vehicles: Eurovignette Directive Directive 1999/62/EC, Directive 2006/38/EC
  8. ^ Trends in Tolling and Telematics, 2007
  9. ^ Directive 2004/52/EC on the interoperability of electronic road toll systems, 2004
  10. ^ Paying Our Way: A New Framework for Transportation - National Surface Transportation Infrastructure Financing Commission, 2009
  11. ^ Facing the future on the roads; Governing and Paying for England's Roads, 2010
  12. ^ Towards fair and efficient pricing in transport, 1995
  13. ^ Fair Payment for Infrastructure Use: A phased approach to a common transport infrastructure charging framework in the EU, 1998
  14. ^ PKW-Maut in Deutschland?, 2010(ドイツ語)「ドイツでの乗用車通行課金?」
  15. ^ Road User Charging, GINA
  16. ^ 1968年、1973年の構想については下記を参照
    「都心乗り入れ車から"通行税" 賦課金構想が再燃 交通渋滞にカンフル」『読売新聞』1973年7月1日朝刊2面
  17. ^ 日中の首都高は千円上乗せ、夜間は半額に…渋滞緩和のため「ロードプライシング」開始”. 読売新聞 (2021年7月19日). 2023年7月17日閲覧。
  18. ^ 近藤咲子 (2023年6月20日). “アクアラインが変動料金を試験導入へ 渋滞緩和対策としては全国初”. 朝日新聞. 2023年7月17日閲覧。
  19. ^ 日本テレビ (2023年6月20日). “「東京湾アクアライン」 来月22日から土日祝日の時間帯による通行料金変更を試験導入 渋滞緩和へ”. 日テレNEWS. 2023年7月17日閲覧。
  20. ^ アクアライン、変動料金導入 渋滞緩和へ今夏から―国交省”. 時事通信 (2023年6月21日). 2023年7月17日閲覧。
  21. ^ TBSテレビ (2023年7月22日). “東京湾アクアラインで変動料金の社会実験開始 土日祝の午後1時~8時は1200円”. TBS NEWS DIG. 2023年7月22日閲覧。
  22. ^ 道路は、だれのものか、森川高行、ダイヤモンド社、2010、ISBN 978-4478012710





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ロードプライシング」の関連用語

ロードプライシングのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ロードプライシングのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのロードプライシング (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS