ラストエンペラー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/06 20:48 UTC 版)
スタッフ
- 監督・脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
- 脚本:マーク・ペプロー
- プロデューサー:ジェレミー・トーマス
- 音楽:デヴィッド・バーン、坂本龍一、蘇聡
- 撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
- 美術:フェルディナンド・スカルフィオッティ
- 衣装:ジェームズ・アチソン
- 制作協力:李文達(溥儀の自伝『わが半生』の共著者)、愛新覚羅溥傑、郭布羅潤麒(婉容の実弟)、愛新覚羅毓嶦
評価
1987年度のアカデミー賞では『恋の手ほどき』以来となる、ノミネートされた9部門(作品賞[11]、監督賞[11]、撮影賞、脚色賞、編集賞、録音賞、衣裳デザイン賞、美術賞、作曲賞[11])全てでの受賞を達成した[12]。
特に日本においては、溥儀や満洲国という日本人にとって非常に近い題材を描いた内容であったことで幅広い年齢層を引きつけたことと、高松英郎や立花ハジメなどの日本人俳優が多く出演し、さらに甘粕正彦役兼音楽プロデューサーとして参加した坂本龍一が、日本人として初めてアカデミー賞作曲賞を受賞[11]したことなど、様々な要因が大ヒットに繋がった。
事実との相違点
史実を元に製作されているが、演出のために脚色された部分が多く史実とは違う点が複数みられる。
- ソ連軍の捕虜となった溥儀が自殺未遂を起こした事実はない。
- 西太后が溥儀を召見したのは1908年10月20日で、崩御したのはそれから26日後の11月15日である(映画では召見中に崩御)。
- 西太后の崩御シーンはセットによる撮影で、実際に西太后が崩御したのは紫禁城ではなく、西苑(現在の中南海)に建てられた儀鸞殿(現・懐仁堂)内の福昌殿。龍が柱に巻き付いた内装なども美術チームの創作。
- 溥儀が紫禁城から城外へ出ようと屋根に上った際に頭を打ち、これをきっかけにメガネをかけるようになったのは史実ではない。
- 婉容が川島芳子と同性愛関係にあったように描かれているが、このような事実はない。
- ジョンストンが帰国する際、溥儀が自ら天津港まで見送った事実はない。史実では、ジョンストンが天津の溥儀寓居「静園」を訪れ暇乞いをした。なおその後も溥儀とジョンストンは再会している。
- 満洲国建国時、溥儀は執政に就任し、2年後に皇帝に即位したが、この史実は省略されている。
- 史実の嵯峨浩は溥儀の満洲国皇帝即位関連行事に参列していない。即位式は1934年に挙行され、溥傑と浩の結婚は1937年。
- 舞踏会シーンを撮影した満洲国皇宮の同徳殿は1938年竣工で、溥儀の即位当時には存在しない。
- 甘粕正彦は隻腕となっているが、実際は両腕ともあった。隻腕という設定は監督の発案によるもので、坂本は右腕を背中に縛り付けての撮影であった。
- 甘粕正彦が溥儀の監視役となっているが、実際この役目は吉岡安直が行っていた。
- 甘粕正彦が川島芳子と恋愛関係にあったように描かれているが、このような事実はない。
- 甘粕正彦は切腹して自決する筋書きになっていたが、これに強い違和感を持った坂本が監督を説得し、拳銃自殺に変更された。史実上の甘粕は服毒自殺した。
- 勅令に署名する際、溥儀は万年筆を使用しているが、史実では皇帝の署名は毛筆を使用していた。
- 鄭孝胥は息子が共産ゲリラに暗殺されたため国務総理大臣を辞任し、僧院に籠ったとの説明があるが、実際は日本(関東軍)を批判する発言を行ったため、解任に近い形で辞任に追い込まれ、死去まで自宅で軟禁に近い状態に置かれた。なお、鄭の長男である鄭垂は父の辞任より2年前に急死している。
- 張景恵は麻薬取引に暗躍した実績を買われて国務総理大臣になったという設定だが、このような事実はない。
- 婉容の出産した娘は誕生後すぐに注射器で毒殺されているが、史実では溥儀の命を受けた従者がボイラーに放り込んで殺害していた。
- 婉容が出産後、療養と称して帝宮から連れ出されるが、史実では満洲国崩壊まで帝宮で生活していた。
- 溥傑は溥儀の釈放の翌年に戦犯刑務所より出所し、自由に面会できたがこのことには触れられていない。
- 釈放後の1960年に溥儀が政協第4期文史研究委員会専門委員や中国人民政治協商会議全国委員(国会議員に相当)を務めたことには一切触れられず、北京植物園の庭師として死んだことになっている。
エピソード
- 陳凱歌が紫禁城の近衛兵隊長役として、溥儀が収監されていた当時の戦犯収容所副所長(後に所長)だった金源が溥儀に特赦を知らせる共産党幹部役として、それぞれカメオ出演している。
- 溥儀の即位式では満洲語が用いられている。
- 甘粕正彦役兼音楽プロデューサーで坂本龍一[注 7]が参加。坂本がベルトルッチ監督から音楽についてのオファーを請けるのは、撮影が終了して半年も後のことだった。
- キャストとして昭和天皇が登場する想定で撮影が進められ[21]、来日した溥儀を東京駅ホームで出迎える大礼服姿や溥儀と対面する後ろ姿のシーンがスチール写真に残されているが、公開版、ディレクターズカット版とも登場シーンは全てカットされた。
- 日本での劇場公開に際しては、配給元の松竹富士が「溥儀が中華人民共和国の収容所で、『日本軍が行った生体実験』『日本軍が軍費にしたアヘン生産工場』『日本軍による南京大虐殺』[注 8]のニュースフィルムを見せられるシーン」を問題視し、ベルトルッチ監督に削除を依頼した。しかし、ベルトルッチが前者2場面しかカットしなかったため、日本側は「南京大虐殺のシーン」をベルトルッチ監督に無断でカットした。宣伝試写会を見た映画人がベルトルッチに連絡し、そのためベルトルッチ監督から激怒され、松竹富士はベルトルッチ監督の条件を呑んだ[22]。
注釈
- ^ 2023年3月の坂本龍一逝去により、4月から追加上映が実施された[15][16]。
- ^ 溥儀の身辺に関する歴史的資料として評価が高い。映画公開当時、日本では1935年版を最後に絶版状態だった。
- ^ 無残に毟られ食べられる蘭は満洲を象徴する花であり、美貌の妃が流す涙に満洲国の運命が暗示される。
- ^ 史実では溥傑と浩の結婚は1937年である。
- ^ 登場シーンは公開時から全てカットされた。
- ^ 薄儀が収容所でニュース映画を視聴する場面で、日本軍の生物兵器使用に関する説明とアヘン生産工場を説明する部分のみをカットしている。
- ^ 1988年に坂本龍一が東京などで同作品をテーマにしたコンサートを開催している。
- ^ その映像自体は実際の南京大虐殺の映像ではなく、国共内戦時の映像や他の映画のシーン。
出典
- ^ a b c d “The Last Emperor(Company credits / Distributors)”. IMDb. 2023年5月19日閲覧。
- ^ a b c “『ラストエンペラー』ほか名作12作品を上映!「12ヶ月のシネマリレー」を8月より開催!”. TFC 東北新社. 東北新社 (2022年6月23日). 2023年5月20日閲覧。
- ^ a b “OVERVIEW - 2nd 1987 FESTIVAL”. TIFF HISTORY - 東京国際映画祭の輝かしき軌跡をたどる. ユニジャパン. 2023年5月19日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “The Last Emperor(Release info / Release Date)”. IMDb. 2023年5月19日閲覧。
- ^ a b “Rétrospective - 2013”. Festival de Cannes. 2023年5月20日閲覧。
- ^ a b 編集KN (2015年5月7日). “上海国際映画祭、3D版「ラストエンペラー」が中国初登場へ”. 人民網日本語版 (人民日報社) 2023年5月20日閲覧。
- ^ a b “The Last Emperor”. LUMIERE(リュミエール・データベース). 欧州オーディオビジュアル・オブザーバトリー. 2020年4月2日閲覧。
- ^ a b “The Last Emperor (1987)” (英語). IFFANMACAO. 2020年7月24日閲覧。
- ^ “The Last Emperor (1987)” (英語). Box Office Mojo. 2011年4月3日閲覧。
- ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)470頁
- ^ a b c d e f g h 外部リンクに映像
- ^ a b c d “The Last Emperor - Awards(Academy Awards, USA / Golden Globes, USA)”. IMDb. 2023年5月20日閲覧。
- ^ Debra Kaufman, Creative COW Magazine (2013年6月26日). “Prime Focus Brings The Last Emperor into 3D”. 3Droundabout. 2023年5月21日閲覧。
- ^ “12ヶ⽉連続 名作上映プロジェクト「12ヶ⽉のシネマリレー」”. 12ヶ⽉のシネマリレー (2022年). 2023年5月20日閲覧。
- ^ “坂本龍一さん関連作を上映する『Ryuichi Sakamoto Premium Collection』 『ラストエンペラー』がラインナップに追加”. SPICE. イープラス (2023年4月21日). 2023年5月20日閲覧。
- ^ 12ヶ月のシネマリレー [@12cinemarelay] (2023年4月13日). "【上映のお知らせ】 坂本龍一さんが音楽を担当された『ラストエンペラー 劇場公開版 4Kレストア』『シェルタリング・スカイ』の上映が全国の映画館で決定しました。". X(旧Twitter)より2023年5月20日閲覧。
- ^ 堀切日出晴 (2022年11月28日). “アカデミー賞9冠の名作が4K化『ラストエンペラー』【海外盤Blu-ray発売情報】 - UK盤『ラストエンペラー』 2023年2月13日リリース”. Stereo Sound ONLINE. 株式会社ステレオサウンド. 2023年5月20日閲覧。
- ^ 株式会社スター・チャンネル (2023年1月19日). “『ラストエンペラー[オリジナル全長版]』1989年放送の「日曜洋画劇場」吹替版<ソフト未収録>34年ぶり2度目の超貴重な放送&配信が決定!”. PR TIMES 2023年1月19日閲覧。
- ^ “ラストエンペラー 特別版 映画(ビデオ) KING RECORDS OFFICIAL SITE”. 2023年1月23日閲覧。
- ^ 株式会社青二プロダクションによる公式プロフィール
- ^ 吉川 慧 (2018年11月27日). “「ラストエンペラー」から消された“幻のシーン”とは”. BuzzFeed. BuzzFeed Japan. 2023年5月20日閲覧。
- ^ 『シネフロント』136号、p.28(朝日新聞、1988年1月24日分の記事の引用)
- ^ “故宮”. 東武ワールドスクウェア. 2023年5月22日閲覧。
- ^ 東京印書館 [@t_inshokan] (2023年4月6日). "#坂本龍一 氏に関する大変貴重なものが、当社のアーカイブから発見されました。坂本龍一氏が編集した #写真集『#ラストエンペラー』です。". X(旧Twitter)より2023年5月20日閲覧。
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