ボストン絞殺魔事件 冤罪説

ボストン絞殺魔事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/30 13:24 UTC 版)

冤罪説

デザルボが法廷で絞殺魔として裁かれることは最期までなく、1980年代以降、本事件には多くの冤罪説が唱えられていた。

発覚の経緯

デザルボは前述のように、精神病院での同室のジョージ・ナッサーとの会話内容から絞殺魔と発覚したとされているが、実際にはデザルボは真の絞殺魔から事件の詳細を聞いたとの説もあり[17]、デザルボは自身が注目を浴びたいがため、もしくは精神疾患ゆえにその内容を自白として警察に告げたとの説も有力視されている[13]

また1992年には、そのジョージ・ナッサーの精神構造が一連の絞殺魔事件に似つかわしいとの精神科医の意見により、ナッサーこそが真の絞殺魔であり、デザルボの精神疾患につけこみ、彼に自白を促し、自分が絞殺魔と疑われることを避けたとの説も浮上している。なおナッサー自身はその後、絞殺魔とは別の殺人事件により終身刑を受けている[13]

自白内容

アメリカのジャーナリストであるスーザン・ケリー(Susan Kelly)は、1996年の自著『The Boston Stranglers』で、デザルボの自白内容のいくつかが、被害者のうちの何人かの殺害状況、殺害当日の行動、凶器の所在などと一致しないこと、さらに殺害時に目撃された不審人物がデザルボの容姿と一致しないことを指摘し、デザルボが犯人でないとの主張を展開している[1]

また前述のように、この事件の捜査には州の法務庁が介入していたが、当時の法務長官エドワード・ブルックが上院議員選挙に立候補していたことから(エドワード・ブルック#生涯も参照)、デザルボを強引に自白させて犯人に仕立て上げて事件解決につなげ、ブルックの名声を高めることで選挙の演出に利用したとの声もある[1]。この裏づけとして当時の捜査本部では、デザルボの自白内容はあたかも秘匿されるかのように、その内容を知る者は限られ、デザルボが犯人であることを疑問視する検察官や警察官も少なくなかったという[1]

物的証拠

事件の物証としては指紋頭髪血液精液などが残されていたが、それらはFBIの犯罪研究所に送られたものの、FBIからの回答は皆無であり、物証がデザルボと一致したかどうかを知る警察官は存在しない[1]

2000年、デザルボの遺族と最後の犠牲者メアリー・サリバンの遺族が司法長官とボストン警察に物証の開示を求めたが、デザルボが絞殺魔として起訴されていないことを理由に、開示は拒否された[1]。メアリーの遺族は自ら、埋葬されている彼女の遺体をもとにワシントン大学に調査を依頼したところ、遺体に犯人と思しき体液の痕跡があり、DNA型鑑定によりデザルボと一致しないことが判明している[1]。しかし、DNA鑑定における精度が向上したとしてメアリー殺害現場の生物学的物証はバージニア州とテキサス州のラボで検査され、2013年7月12日にデザルボの墓から遺体を掘り出してDNA鑑定を行った結果、完全に一致し、少なくともメアリー殺害については物証が裏付けられた。

犯罪心理学による分析

絞殺魔事件の後にデザルボが起こしたグリーンマン事件は殺人事件ではなく婦女暴行、いわば単なる変質者の犯行だが、変質者がエスカレートして殺人事件へ発展したのならともかく、逆に殺人犯が、それより軽い犯罪である変質者になったというのは犯罪心理学にから見て不自然とする意見もある[1][17]

1970年代以降にFBIにプロファイリングによる行動科学班が設立され、犯罪心理学や犯罪行動学が発達した後は、ボストン絞殺魔事件は複数犯だとする説が有力視されている[1]。元FBI捜査官ロバート・K・レスラーも、絞殺魔事件を最終的にデザルボの単独犯と断定した捜査当局の見方に疑問を抱き、結論を急ぎすぎたと語っている[1]

デザルボの最期の疑惑

デザルボの担当医によれば、デザルボは死去前日に担当医に電話し、絞殺魔の告白の経緯について世間に公表すると語ったという。またウォルポール刑務所の警備はマサチューセッツ州で最も厳重といわれる上[16]、彼のもとへ行くまでには厳しいチェックを6回も要するにもかかわらず、彼を殺害した犯人は未だに不明である。さらに刺殺にもかかわらず遺体に争いの形跡はなく、彼の毛髪からは精神安定剤が検出された上、デザルボの実弟は殺害前日、彼から「食事のせいで気分が悪い」と電話を受けている。このことからデザルボは、自白を撤回しようとしたところを口封じのために暗殺され、襲撃時に抵抗できないよう薬物を投与されていたとの説も浮上している[1]


  1. ^ 日本語では「アルバート・デザルヴォ[13]」、「アルバート・デ・ザルヴォ[6]」などの表記もある。
  2. ^ 日本語では「ジョージ・ナーサー」との表記もある[13]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l 清原編 2009, pp. 21–23
  2. ^ Bidgood, Jess (2013年7月11日). “50 Years Later, a Break in a Boston Strangler Case”. The New York Times (New York City: New York Times Company). https://www.nytimes.com/2013/07/12/us/dna-evidence-identified-in-boston-strangler-case.html 2013年10月16日閲覧。 
  3. ^ “Remains unearthed of confessed Boston Strangler”. USA Today. Associated Press (Mclean, Virginia: Gannett Company). (2013年7月12日). https://www.usatoday.com/story/news/nation/2013/07/12/boston-strangler-remains-desalvo/2513931/ 2013年10月13日閲覧。 
  4. ^ DNA confirms Albert DeSalvo's link to 'Boston Strangler' killing of Mary Sullivan: authorities. NY Daily News archive, retrieved October 17, 2015.
  5. ^ a b 省心書房 1995, pp. 364–367.
  6. ^ a b c d レーン他 1995, pp. 122–124
  7. ^ a b c d e f g h 省心書房 1995, pp. 370–375
  8. ^ a b c d e ウィルソン 1983, pp. 50–51
  9. ^ 省心書房 1995, p. 387.
  10. ^ a b c d 省心書房 1995, pp. 378–381
  11. ^ 越智啓太『犯罪心理学がよ~くわかる本』秀和システム〈Shuwasystem Beginner's Guide Book〉、2009年、144頁。ISBN 978-4-7980-2220-8 
  12. ^ a b c d e f g h i j k 省心書房 1995, pp. 368–369
  13. ^ a b c d タイム・ライフ編 1993, pp. 101–105
  14. ^ a b 省心書房 1995, pp. 385–389
  15. ^ ウィルソン 1983, p. 52.
  16. ^ a b c d 省心書房 1995, pp. 392–395
  17. ^ a b ファイドー 1993, p. 244
  18. ^ 省心書房 1995, pp. 376–377.
  19. ^ ファイドー 1993, p. 242.
  20. ^ “1960年代に全米を震撼させた「ボストン絞殺魔事件」の監督候補にマーク・ロマネク!”. シネマトゥデイ. (2014年1月21日). https://www.cinematoday.jp/news/N0059538 2014年9月3日閲覧。 
  21. ^ “ケイシー・アフレックが「ボストン絞殺魔」を題材にした映画を製作!”. シネマトゥデイ. (2012年12月8日). https://www.cinematoday.jp/news/N0048446 2014年9月3日閲覧。 
  22. ^ Grobar, Matt (2023年1月3日). “Boston Strangler Premiere Date, First Look: Keira Knightley-Led True-Crime Thriller From 20th Century Studios To Be Accompanied By ABC Audio Podcast”. Deadline Hollywood. 2023年1月3日閲覧。
  23. ^ “リドリー・スコット製作×キーラ・ナイトレイ主演 連続殺人鬼を追う記者を描く「ボストン・キラー」3月17日から配信”. 映画.com. (2023年2月24日). https://eiga.com/news/20230224/18/ 2023年2月25日閲覧。 





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