フォトフォン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/05 18:33 UTC 版)
設計
フォトフォンは電話の仕組みと似ているが、電話が電線で運ばれる変調された電気で音声を伝達するのに対し、フォトフォンは変調された光によって音声を伝達する。
ベルは、光変調について次のように説明している[7]。
我々は、この柔軟な素材の平面鏡で構成される最も単純な装置が、その背後から話者の声を送り出す効果があることを発見した。声の作用で鏡が順番に凸と凹になり、光を散乱させたり凝縮させたりする。
そのため、受光器の位置から見た反射光の明るさは、鏡に作用する空気圧の音声周波数の変化(音波)に応じて変化することになる。
受光器は、当初は光音響効果を利用した非電子式だった。ベルは、光を直接音に変換できる物質がほかにも色々あることを発見した。その中でもランプブラックは優れていた。完全に変調された太陽光をテスト信号として使用し、ランプブラックを蒸着しただけの実験的な受信機で、装置に耳を近づけたときにベルが「痛いほど大きな音」と表現した音が出た。
最終的に使用した受光器は、放物面鏡の焦点にセレンを設置したものだった[5]。 セレンの電気抵抗(約100 - 300Ω)は、光の当たり具合に反比例して変化する。薄暗いと抵抗が大きくなり、明るいと抵抗が小さくなる。このセレン受光器を電池、イヤホン、可変抵抗器を直列に接続し、セレンに当たる光の変化により回路を流れる電流が変化し、その電流をイヤホンで空気圧の変化(音)に変換する。
ベルは、1880年8月のアメリカ科学振興協会での講演で、光による音声伝送の最初のデモンストレーションは、1878年秋にロンドンのA・C・ブラウンが行ったものだと述べている[5][8]。
フランスの科学者エルネスト・メルカディエは、この装置の鏡が太陽の放射エネルギーを、可視光だけでなく赤外線帯域を含む複数の帯域で反射することから、この装置は「フォトフォン」(photophone: 光・音)ではなく「ラジオフォン」(radiophone: 放射・音)と名付けるべきだと提案した[9]。ベルはしばらくこの名称を使っていたが、後に発明された電波を利用する電話である「ラジオフォン」とは別のものである[10]。
世界初の無線音声通信の成功
ベルは、ヨーロッパに新婚旅行に行った際に、1878年4月25日に『ネイチャー』誌に掲載されたロバート・サビーンの論文で、「セレンに光を当てると抵抗値が変化する」という新発見の特性を知ったものとみられる。サビーンは、電池に接続されたセレンに光を当て、その効果を電流計で確認するという実験を行っていた。ベルは、電流計の代わりに電話の受話器を接続すれば、電流の変化を音として聞くことができると考えたのである[11]。
ベルのかつての助手だったトーマス・A・ワトソンはベル電話会社の製造管理者として忙しかったので、ベルは1874年の金星の太陽面通過の観測に参加していた機器製造者のチャールズ・サムナー・テンターを週給15ドルで雇い、ワシントンD.C.のL通り1325番地に作った新しい研究所(ボルタ研究所)で実験を開始した[12]。
1880年2月19日、2人はフォトフォンで音声を伝送することに成功した。金属製の格子を振動板に取り付け、音声に反応して格子が動くことで光のビームが遮断される仕組みだった。変調された光のビームがセレン製の受信機に当たると、ベルはヘッドフォンで、テンターが歌う『オールド・ラング・サイン』をはっきりと聞くことができた[13]。
1880年4月1日、ワシントンD.C.で行われた実験では、ベルとテンターは、路地を約80メートル進んだ所から実験室の後部窓までの間での通信に成功した。6月21日には、太陽光を光源として、約213メートルの距離をクリアに通信することに成功した。エジソンによってアメリカに実用的な電気照明が導入されて間もない時期のことである。後者の実験は、送話管の先に設置された非常に薄い鏡の表面で太陽光を反射させ、言葉を話すと鏡が凸と凹の間で振動し、鏡の表面から受信機に反射する光の量が変わるというものであった。フランクリン・スクールの屋上にいたテンターが、研究室にいたベルにフォトフォンを使って話しかけ、ベルは要求された通りに窓から帽子を振ってテンターに合図した[6]。受信機は、セレン受光器を焦点に設置した放物面鏡だった[5]。
この実験は、世界初の無線電話であった。すなわち、最初の無線電話は光による通信であり、電波による音声送信が開発されたのはその19年後のことである。ベルとテンターは、フォトフォンのための光ビームの変調と復調の方法を50種類ほど考案し、その後、グラフォフォン(改良版蓄音機)の開発へと移っていった[14]。
- ^ Bruce 1990, pg. 336
- ^ Jones, Newell. First 'Radio' Built by San Diego Resident Partner of Inventor of Telephone: Keeps Notebook of Experiences With Bell Archived 2002-02-19 at the Wayback Machine., San Diego Evening Tribune, July 31, 1937. Retrieved from the University of San Diego History Department website, November 26, 2009.
- ^ Bruce 1990, pg. 338
- ^ Carson 2007, pg. 76-78
- ^ a b c d e f g h Groth, Mike. Photophones Revisted, 'Amateur Radio' magazine, Wireless Institute of Australia, Melbourne, April 1987 pp. 12–17 and May 1987 pp. 13–17.
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- ^ Grosvenor and Wesson 1997, p. 104.
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- ^ Mims 1982, pp. 6–7.
- ^ Mims 1982, p. 7.
- ^ Mims 1982, p. 10.
- ^ Mims 1982, p. 12.
- ^ Editorial, The New York Times, August 30, 1880
- ^ International Fiber Optics & Communication, June 1986, p. 29
- ^ Carson 2007, pg.77
- ^ Carson 2007, pg. 76–78
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- ^ Phillipson, Donald J.C., and Neilson, Laura Bell, Alexander Graham, The Canadian Encyclopedia online. Retrieved 2009-08-06
- ^ a b Mims 1982, p. 14.
- ^ Bruce 1990, pg. 339
- ^ Hecht, Jeff. Fiber Optics Calls Up The Past, New Scientist, January 12, 1984, pp. 12–13.
- ^ Carson 2007, pp. 77–78
- ^ Carson 2007, pg.78
- ^ Cover page Technical World, March 1905.
- ^ "Correspondence: Wireless Telephony" (October 30, 1902 letter from Ernst Ruhmer), The Electrician, November 7, 1902, page 111.
- ^ Wireless Telephony In Theory and Practice by Ernst Ruhmer, 1908, pages 55–59.
- ^ Mims 1982, pp. 14–17.
- 1 フォトフォンとは
- 2 フォトフォンの概要
- 3 反応と採用
- 4 その後の開発
- 5 関連項目
- 6 外部リンク
- フォトフォンのページへのリンク