ビルマ文字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/23 08:30 UTC 版)
文字の一覧
従前の多くのコンピュータ環境で、ビルマ文字の入力・表示は整備されていないのが現状である。標準搭載されていない環境でビルマ文字を表示するためには、Padauk Font等のビルマ文字フォントをインストールする(ソフト・ブラウザによっては、さらにフォント設定する)必要がある。
なお、以下では、利用者の便宜を図り、一部に画像も併せて掲載する。
基本字母
基本字母は、子音を表す。子音を表す文字は33個ある。ga, za, da など、同じ発音となる文字が複数あり、音声上(発声上)の子音は23種類である。以下の表は、各段ごとに左から右へ読み、辞書の配列はこれに従う。
インド系文字であるため、デーヴァナーガリーやクメール文字と、ある一定程度は対応関係を見ることができるが、かなり崩れている。
- 背景を灰色で示した文字は、主にパーリ語由来の語彙で用いられる。
- 背景をオレンジで示したရは、パーリ語や外来語の語彙では、よく(元来の発音である)[ɹ]で発音される。
以降の説明において斜体で示すラテン文字表記は、説明のための区別・書き分けの都合上、公式のラテン文字転写であるMLCTS式に準拠する。
無声音 | 有声音 | 鼻音 | |||
---|---|---|---|---|---|
無気音 | 有気音 | ||||
軟口蓋音 | က k(a) [k(a)] |
ခ hk(a) [kʰ(a)] |
ဂ g(a) [ɡ(a)] |
ဃ gh(a) [ɡˀ(a)] |
င ng(a) [ŋ(a)] |
(硬口蓋音) | စ c(a) [s(a)] |
ဆ hc(a) [sʰ(a)] |
ဇ j(a) [z(a)] |
ဈ jh(a) [zˀ(a)] |
ည ny(a) [ɲ(a)] |
歯茎音1 | ဋ t(a) [t(a)] |
ဌ ht(a) [tʰ(a)] |
ဍ d(a) [d(a)] |
ဎ dh(a) [dˀ(a)] |
ဏ n(a) [n(a)] |
歯茎音2 | တ t(a) [t(a)] |
ထ ht(a) [tʰ(a)] |
ဒ d(a) [d(a)] |
ဓ dh(a) [dˀ(a)] |
န n(a) [n(a)] |
唇音 | ပ p(a) [p(a)] |
ဖ hp(a) [pʰ(a)] |
ဗ b(a) [b(a)] |
ဘ bh(a) [bˀ(a)] |
မ m(a) [m(a)] |
接近音 | ယ y(a) [j(a)] |
ရ r(a) [j(a)] |
လ l(a) [l(a)] |
ဝ w(a) [w(a)] |
သ s(a) [θ(a)] |
摩擦音など | ဟ h(a) [h(a)] |
ဠ l(a) [l(a)] |
အ (a) [ʔ(a)] |
※話中において、無声音子音は、先行する発音次第で有声音(濁音)になることがある。(画像「ビルマ文字の基本字母および筆順」にも示した。スラッシュ「/」のあるものがそれ。スラッシュの前が元来の無声音子音。後が変化した有声音子音。)
介子音と複合文字
上記の基本字母に、ျ(y [j])、ြ(r [j])、ွ(w [w])、ှ(h [ ̥] - 鼻音などの無声化)といった4つの介子音記号(かいしいん記号)が付いたものを、複合文字という。
この4つの記号は、それぞれ単独でも基本字母と結びつくが、2~3の記号が結合して一緒に基本字母と結びつくこともある。
- ျ(y [j])、ြ(r [j])は、基本的に軟口蓋音と唇音 (すなわち、上記の表の1行目と5行目) に付いて、これらを硬口蓋化(すなわち、「○ャ行」の音に)する。
(※ただし、これらの記号が軟口蓋音(上記表1行目)に付く場合は、純粋な硬口蓋化というよりも、上記の表の2行目に本来あった音としての硬口蓋音、すなわち[tɕ](チャ行)の音を再現・補充する意味・役割となる。したがって、下の表で青で示した、က(k [k])、ခ(hk [kʰ])、ဂ(g [ɡ])に、これらの記号が付いた文字は、それぞれ([kj][kʰj](キャ行)[ɡj](ギャ行)ではなく)[tɕ][tɕʰ](チャ行)[dʑ](ジャ行)の発音になる点に、注意が必要。) - ှ(h [ ̥])は、基本的に鼻音と接近音 (すなわち、上記の表の5列目と6行目) に付いて、これらを無声化する。ここで言う無声化とは、気息と混ぜることで音素を弱化する働きだと捉えておけばいい。
(※ただし、下の表で緑で示した、ယ(y [j])、ရ(r [j])に、この記号が付いた文字は、[ɕ](シャ行)の発音になるので注意。黄緑で示したလ(l [l])でも、語彙によっては[ɕ](シャ行)の発音になる。)
記号 | 使用例 |
---|---|
ျ (-y [j]) | ကျ(ky [tɕ])、ချ(hky [tɕʰ])、ဂျ(gy [dʑ])、ပျ(py [pj])、ဖျ(hpy [pʰj])、ဗျ(by [bj])、မျ(my [mj])、လျ(ly [lj]([ja]))[1] |
ြ (-r [j]) | ကြ(kr [tɕ])、ခြ(hkr [tɕʰ])、ငြ(ngr [ɲ])、ပြ(pr [pj])、ဖြ(hpr [pʰj])、ဗြ(br [bj])、မြ(mr [mj]) |
ွ (-w [w]) | ကွ(kw [kw])、ခွ(hkw [kʰw])、ဂွ(gw [ɡw])、ငွ(ngw [ŋw])、စွ(cw [sw])、ဆွ(hcw [sʰw])、ဇွ(jw [zw])、ညွ(nyw [ɲw])、တွ(tw [tw])、ထွ(htw [tʰw])、ဒွ(dw [dw])、နွ(nw [nw])、ပွ(pw [pw])、ဖွ(hpw [pʰw])、ဗွ(bw [bw])、ဘွ(bhw [bw])、မွ(mw [mw])、ယွ(yw [jw])、ရွ(rw [jw])、လွ(lw [lw])、သွ(sw [θw])、ဟွ(hw [hw]) |
ှ (h- [ ̥]) | ငှ(hng [ŋ̊])、ညှ(hny [ɲ̥])、နှ(hn [n̥])、မှ(hm [m̥])、ယှ(hy [ɕ])、ရှ(hr [ɕ])、လှ(hl [ɬ]([ɕ]))、ဝှ(hw [ʍ]) |
ျွ (-yw [(j)w]) | ကျွ(kyw [tɕw])、ချွ(hkyw [tɕʰw])、ဂျွ(gyw [dʑw]) |
ြွ (-rw [(j)w]) | ကြွ(krw [tɕw])、ခြွ(hkrw [tɕʰw])、ပြွ(pyw [pjw]) |
ျှ (h-y [ ̥ (j)]) | မျှ(hmy [m̥j])、လျှ(hly [ɬj]([ɕ])) |
ြှ (h-r [ ̥ (j)]) | ငြှ(hngr [ɲ̥])、မြှ(hmr [m̥j]) |
ွှ (h-w [ ̥w]) | ငွှ(hngw [ŋ̊w])、ညွှ(hnyw [ɲ̥w])、မွှ(hmw [m̥w])、ရွှ(hrw [ɕw])[2]、လွှ(hlw [l̥w])[3] |
ြွှ (h-rw [ ̥(j)w]) | ငြွှ(hngrw [ɲ̥w])、မြွှ(hmrw [m̥jw]) |
母音・声調
母音記号は、母音だけでなく声調を表す役割も担っているので、同じ音価でも声調の違いによって異なってくる。
母音は[a][4][i][u][e][ɛ][o][ɔ]の7種あり、声調は
- 下降調 : 短く急激に下降する。「あ!」と驚く調子に近い。(初期値)
- 低平調 : 低位で平坦に伸ばす。「へぇー」と気持ちなく返事する調子に近い。
- 高平調 : 高位で平坦に伸ばすが末尾でやや下る。「ふーむ」と納得する調子に近い。
(※この他に、後述する末子音[ʔ](声門閉鎖音)で終わる高く短い音節を、4つめの声調としてカウントする考えもある。)
の3種があるので、組合わせは7(母音)×3(声調)= 21個 である。
表にまとめると、以下の通り。
- 赤で示した記号は、ခ(hk [kʰ])、ဂ(g [ɡ])、ဒ(d [d])、ပ(p [p])、ဝ(w [w])の5字母の場合に用いられる。
下降調 | 低平調 | 高平調 | |
---|---|---|---|
[a] | ◌ a. |
ာ/ါ a |
ား/ါး a: |
[i] | ိ i. |
ီ i |
ီး i: |
[u] | ု u. |
ူ u |
ူး u: |
[e] | ေ့ e. |
ေ e |
ေး e: |
[ɛ] | ဲ့ ai. |
ယ် ai |
ဲ ai: |
[o] | ို့ ui. |
ို ui |
ိုး ui: |
[ɔ] | ော့/ေါ့ au. |
ော်/ေါ် au |
ော/ေါ au: |
また、ည(ny [ɲ])とၲの組み合わせで、[i][e][ɛ]が表現されることもある。
下降調 | 低平調 | 高平調 | |
---|---|---|---|
[i] [e] [ɛ] |
ည့် any. |
ည် any |
ည်း any: |
なお、一部の母音には、デーヴァナーガリーやクメール文字など、他のインド系文字と同じく、独立した母音字もある。
下降調 | 低平調 | 高平調 | |
---|---|---|---|
[ʔa] | a. |
a |
a: |
[ʔi] | ဣ i. |
ဤ i |
i: |
[ʔu] | ဥ u. |
ဦ u |
ဦး u: |
[ʔe] | e. |
ဧ e |
ဧး e: |
[ʔɛ] | ai. |
ai |
ai: |
[ʔo] | ui. |
ui |
ui: |
[ʔɔ] | au. |
ဪ au |
ဩ au: |
末子音
末子音は、[ɴ](鼻音「ン」)と[ʔ](声門閉鎖音)の2種類のみ。
基本的には、က(k [k])、စ(c [s])、တ(t [t])、ပ(p [p])、င(ng [ŋ])、ဉ(ny [ɲ] ※ညの異字体)、န(n [n])、မ(m [m])の8字母 (すなわち、上記した基本字母表の1列目と5列目) に、်(ビルマ語では အသတ် ビルマ語発音: [ʔət̪aʔ] アタッ という)を付加することで表現される。
- င(ng [ŋ])、ဉ(ny [ɲ])、န(n [n])、မ(m [m])と、ၲの組み合わせでは、[ɴ](鼻音「ン」)が表現される。
- က(k [k])、စ(c [s])、တ(t [t])、ပ(p [p])と、ၲの組み合わせでは、[ʔ](声門閉鎖音)が表現される。
ただし、どちらの場合も、末子音のみを単独で表現するわけではなく、他の記号も織り交ぜられつつ、先行する母音とひとまとめで表現されるので、上記した母音表現の延長線上のものとして捉えるといい。
前者の[ɴ](鼻音「ン」)で終わるものは、上記した母音表現と同じく、3種の声調に合わせて3通りの形に分かれるが、後者の[ʔ](声門閉鎖音)で終わるものは、3種の声調とは異なる高く短い音になるので、1通りしかない(これを4つめの声調と捉える考え方もある)。
複数の表記法があるものは、語彙の区別に活用される。
[aʔ] | တ်/ပ် at/ap |
---|---|
[aɪʔ] | ိုက် uik |
[aʊʔ] | ောက် auk |
[ɪʔ] | စ် ac |
[ʊʔ] | ွတ်/ွပ် wat/wap |
[eɪʔ] | ိတ်/ိပ် it/ip |
[ɛʔ] | က် ak |
[oʊʔ] | ုတ်/ုပ် ut/up |
その他
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
၁ | ၂ | ၃ | ၄ | ၅ | ၆ | ၇ | ၈ | ၉ | ၀ |
- ^ 例: လျက်…〈舐める〉の場合は [jɛʔ]、〈…つつ、…であれど〉の場合は [jɛʔ] または [ljɛʔ]
- ^ 例: ရွှေ [ɕwè]〈黄金〉
- ^ 例: မလွှ [məl̥wa̰]〈特定のノウゼンカズラ科植物〉
- ^ 最も基本的な母音である「[a]の下降調」は、曖昧母音[ə]とも表現される。
- ^ 世界の文字研究会 編 編 『世界の文字の図典』(普及版)吉川弘文館、2009年、283頁。ISBN 978-4-642-01451-9。
- ^ Sujaritlak Deepadung (1996). “Mon at Nong Duu, Lamphun Province”. Mon-Khmer Studies 26: 411–418 .
- ^ Unicode 5.1.0, The Unicode Consortium, (2008-04-04)
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