バラク・オバマの国籍陰謀論 陰謀論の拡散者と支持者

バラク・オバマの国籍陰謀論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/28 23:16 UTC 版)

陰謀論の拡散者と支持者

オバマ出生証明書の正当性に疑問を投げかける抗議者たち

オバマの大統領資格を疑問視する人々の中でも著名なのが、ペンシルベニア州弁護士で9・11陰謀論者でもあるフィリップ・J・バーグ英語版である[117]。バーグは自身を「リベラル寄り」の民主党員で、大統領候補にはヒラリー・クリントンを支持するとしている[118]。 この他著名な人物として、2004年のイリノイ州上院議員選挙でオバマと議席を争ったアラン・キーズ英語版がいる。キーズはレーガン政権時代に外交官経験があり、現在はメディアに出演し「保守派政治活動家」を自称して活動している[119][120]。 カリフォルニア州の歯科医兼弁護士で、ソ連からイスラエルに、その後アメリカに移住した経歴をもち、アメリカとイスラエルの二重国籍者でもあるオーリー・テイツ英語版は、オバマの国籍問題追及の顔ともいえる存在であることから「バーサーズの女王蜂(queen bee of the birthers)」とも呼ばれている[121]。 他には、「オバマは実はイスラム教徒だ」とする運動を始めた泡沫政治活動家アンディ・マーチン英語版[122]、 2008年12月にシカゴ・トリビューン紙に全面広告を掲載し、オバマがケニアで生まれたことや、その後米国籍を放棄したなどとを主張した納税抗議者(tax protester)で政治活動家のロバート・L・シュルツ英語版などがいる[123]第三政党英語版のアメリカ立憲党もオバマは正式な出生証明書を公開せよとのキャンペーンを行っている[124]

AmericaMustKnow.com というサイトは、オバマの大統領就任に反対票を投じる「不実の選挙人英語版」になるようにアメリカ選挙人団に対してロビー活動を行うよう訪問者に促した[63]。 全国の選挙人たちのもとには、オバマ氏の出生証明書は偽造であり、彼がケニアで生まれたことを主張し、オバマの大統領就任を否定するよう要求する多数の手紙や電子メールが送り付けられた[125]。 ネット上の運動参加者の中には、週に一度電話会議を行って最新のニュースや話をどうやって広めるかを話し合うなどの調整を行っていた者もいた[126]

またニュースサイトWorldNetDaily(WND)もこの陰謀論を支持し、最高裁へ手紙を書くキャンペーンを後援した[63]。WNDの創設者ジョセフ・ファラー英語版は、「出生証明書はどこだ?」とする電子掲示板を使用し、オバマの大統領資格を確認する必要があるとする社説を何度も書いた[127][128]

ラジオ番組ホストのマイケル・サヴェジジョージ・ゴードン・リディブライアン・サスマン英語版ラーズ・ラーソン英語版ボブ・グラント英語版ジム・クイン英語版ローズ・テネント英語版バーバラ・シンプソン英語版マーク・デイビス英語版らは、自分の司会する番組でオバマには大統領の資格がないとする主張を繰り広げた。ラッシュ・リンボーショーン・ハニティールー・ドブス英語版も、自分たちの番組で大統領資格問題を何度か取り上げている[15]。特にサヴェジは「俺たちは非アメリカ市民が指揮する共産主義者によるアメリカ乗っ取りに対する備えをしている」と強く主張した[126]

ただし、運動家たちの反オバマ・アプローチは必ずしも一致していない。例えば「WorldNetDaily」はフィリップ・バーグの出生証明書偽造主張を批判しており「オバマの(抄録版・ショートフォーム)出生証明書についてWNDが偽造の専門家とともに行った調査で…この文書は本物であることが判明した」と述べている[129]。 一方でWNDは、オバマ側に証明書原本(ロングフォーム)の公開を求めて、WNDは「オバマが誕生した頃、ハワイでは外国での出生をハワイで登録することを認めていた」と主張しているが[130]、そのような状況で発行された出生証明書には、ホノルルなどハワイの地名ではなく、実際の出生地が記載されるという事実を無視している[99]。その後、WNDの記事は記事の内容を撤回し、先に引用した専門家について、「どの専門家も、電子画像が本物であるか、偽造であるかについて決定な報告はできなかった」と述べている[131]。 この露骨な手のひら返しを見たMSNBCキース・オルバーマンは、WNDのジョセフ・ファラーを2009年1月5日の「世界で最悪の人物(Worst Person in the World)」と紹介した[132]

南部貧困法律センターのマーク・ポトクは「バーサーズ運動は急進右派から大きな支持を得ており…最も有害な人々もこの陰謀論を採用している」と述べている。この「有害な人々」の中には、白人至上主義者やネオナチのグループが含まれている[133][134]。 2009年6月10日に発生した米国ホロコースト記念館銃撃事件英語版の被疑者として告発された白人至上主義者であるジェームズ・フォン・ブルン(James von Brunn)は、過去インターネットに、オバマとメディアが彼の人生に関する文書を隠していると非難するメッセージを投稿していた[135][136]ポリティコのジャーナリスト、ベン・スミス英語版はこうした状況について次のようにコメントしている。「バーサーズ神話が暴力的な非主流派グループへ浸透している現状は、シークレットサービスにとっても憂慮すべき事態であろう。神話の中心にあるのは、オバマが大統領職にあることの正当性をいかにして否定するか、なのだから。」[135]

ドナルド・トランプ

ドナルド・トランプは、オバマの国籍陰謀論を広く拡散した人物のひとりであり[137][138][139]、このことによって政治的地位を高め、数年後の2016年アメリカ合衆国大統領選挙での成功を収めたとも言われている[137][138][140]。米政治学者のジョン・サイズ(John Sides)、マイケル・テスラー(Michael Tesler)、リン・ヴァヴレック英語版らによると、トランプは「事実上『バーサー』運動のスポークスマンだった。この戦略は成功し、トランプが2011年に大統領選への出馬しようとした際、オバマを外国生まれ、またはイスラム教徒、あるいはその両方だと考えている共和党支持者のなかで、かなりの割合の人々がトランプ支持に傾いた」という[138]

2010年、当時トランプの顧問弁護士であったマイケル・コーエン英語版の働きかけで、タブロイド紙ナショナル・エンクワイアラー英語版はトランプ大統領選出馬の可能性を喧伝し始め、またコーエンが関与して、同タブロイド紙はオバマの出生地と市民権に疑問を投げかける報道を始めた[141]

2011年3月、情報番組グッド・モーニング・アメリカでのインタビューの中でトランプは、大統領選出馬を真剣に検討していること、オバマの市民権について「少し」懐疑的であること、そしてこの見解を共有する人を「馬鹿[142]」(トランプは「バーサー」という用語を「蔑称」と見なしている[143])の一言で片づけるべきではないと述べた。トランプはさらに「彼(オバマ)の幼児期を誰も知らない[142]」という、ポリティファクトで「Pants-on-Fire」にランク付けされた主張を付け加えた[144]。その後、トランプはトーク番組ザ・ビューに出演し、「彼(オバマ)に出生証明書を見せて欲しい」と何度も繰り返した。トランプは「(オバマが)何か気に入らないことが出生証明書に書かれているのではないか」と推測するコメントをしたが、司会のウーピー・ゴールドバーグによれば「ここ何十年かで聞いた中で一番でっかいクソみたいな話("the biggest pile of dog mess I've heard in ages.")」であった [145]。 2011年3月30日のCNNニュースルームでは、アンカーのスザンヌ・マルヴォー英語版が、自身がハワイに行き、幼少期のオバマを知る人たちと話をしたドキュメンタリーを作ったことを指摘してトランプの発言についてコメントした[146][147]。 2011年4月7日に放送されたNBCテレビのインタビューで、トランプは、オバマが市民権を証明したことに満足していないのでこの問題から手を引くつもりはないと述べた[148]。 トランプがこうした見解を公表し始めた後、WorldNetDailyのジョセフ・ファラーがトランプに接触し、1週間毎日のようにトランプと電話をして、トランプにバーサー”入門書”を提供したり質問への回答の仕方やアドバイスなどを行っていたと報じられている[149]。2011年4月27日にオバマ氏が出生証明書の原本コピーを公開した後、トランプは「私は他の誰にもできなかったことをやり遂げたということなので、大変光栄で、非常に誇りに思っている。」と語った[150]

原本公開後の2011年4月30日夜、ホワイトハウス記者協会主催の夕食会で行われたオバマ大統領のスピーチで、これまでオバマの国籍、出生地問題を攻撃してきたトランプがオバマのジョークのネタとなった[151]。このとき大勢の前で恥をかかされたことが後のトランプ大統領選誕生のきっかけになったとする説もあるが[152][153]、トランプは「大統領を目指す理由はいくつもあるが、これは違う」と否定している[154]

2012年10月24日、トランプは、2012年10月31日までにオバマの大学入学願書あるいはパスポートの申請書が公開されればオバマが選んだ慈善団体に500万ドルを寄付することを申し出た[155]

2016年9月16日、共和党の大統領候補となったトランプは「バラク・オバマ大統領は、アメリカで生まれました。以上です。 」と認める発言を行った。トランプは論争を収束させたことを自らの手柄とした上で、2016年大統領選のトランプの対抗馬であり、2008年の民主党大統領選のオバマの対抗馬でもあったヒラリー・クリントンがオバマの出生地をめぐる論争を始めたという虚偽の主張を繰り返した。なおクリントン支持者のなかには出生地を疑問視した人々もいたが、クリントン本人や陣営がそうであったという証拠はない[156]

その他の公職者・公職候補者

リチャード・シェルビー

2009年2月にアラバマ州の地元紙が報じたところによると、タウンホール・ミーティングでリチャード・シェルビー英語版上院議員(アラバマ州選出)が「オバマ氏は出生による合衆国市民ではないという噂は本当ですか」と尋ねられた際、「彼の父親はケニア人で、彼はハワイ生まれだと言われているけど私は出生証明書を見ていない」と答えたという[157]。 シェルビー議員の広報担当はこの話を否定したが地元紙は話は本当だとしている[158]

ロイ・ブラント

2009年7月28日、レポーターのマイク・スターク英語版が、ミズーリ州選出の下院議員ロイ・ブラント英語版にバラク・オバマがアメリカ合衆国で生まれた市民(natural-born citizen)ではないという陰謀論について質問したところ、ブラントはこう応答した:

私はわからない。なぜ大統領は出生証明書を提出しないのか。誰だって出せるでしょう。 そして私はこれは正当な質問と思います。保健記録もない、出生証明書もないのだから[159]

ブラントの広報担当は、これは文脈を無視して発言の一部を切り取ったものだと後日主張した[160]

ジーン・シュミット

2009年9月5日、オハイオ州ウェストチェスター(en)で開催された「ボイス・オブ・アメリカ・フリーダム・ラリー」で演説した共和党のジーン・シュミット英語版下院議員は、オバマには大統領になる資格はないとコメントした女性に対し「私もそう思います。でも裁判所はそうではないようです。」と答えた[161]。 シュミットの事務所はその後、このコメントのビデオクリップは「文脈を無視して切り取られたものだ」と回答し、オバマは合衆国市民だというのがシュミットの公式見解だと繰り返し述べた[162]。 その後シュミットは、自分はオバマの大統領当選を決める選挙人投票の結果を承認する票を投じており、オバマは合衆国市民であると信じているとの声明を発表[163]。 この声明は2009年7月28日にYouTubeで公開された動画を受けて発表されたもので、この動画ではリポーターのマイク・スタークがシュミットにオバマ大統領の市民権について疑問があるかどうかを尋ね、シュミットがスタークから逃げ去ろうとする様子が映されていた[164]

サラ・ペイリン

2009年12月3日、ラスティ・ハンフリーズ英語版のラジオ・トークショーでインタビューを受けたサラ・ペイリンは、ハンフリーズから、もし2012年の大統領選に出馬することを決めた場合バラク・オバマの出生証明書を選挙運動の争点にするかどうかを尋ねられ、次のように答えた。

世間は当然ながら今でも話題にしていると思いますし、そうすることが問題だとも思っていません。有権者はまだ答えを求めていると思うので、わざわざ選挙の争点にする必要があるかどうかはわかりません。

ハンフリーズは続けて、オバマ大統領の出生証明書に関する質問は注目に値すると思うかどうかを尋ね、ペイリンは、「私は注目されて当然だと思います。過去の交友関係や過去の投票記録などと同じで、それらすべてが質問されるに値すると思う。マケイン-ペイリン陣営はこの分野で十分な仕事をしていませんでした」と述べた[165]

報道機関やブログなどがペイリンのこの発言を取り上げ「バーサー」運動と関連付けて報道すると[166]、ペイリンは自らのフェイスブック上で、発言の意味は有権者には質問する権利があるということであって、自分自身はオバマに出生証明書の作成を求めたことはないと釈明した。さらにペイリンは、オバマの出生証明書への疑問を、2008年の大統領選挙の際に自身に対して提起された、息子トリグの実の母であるかについての疑問と比較した[167]。 ロサンゼルス・タイムズ紙のマーク・ミリアンは、ペイリンがトリグが自分の息子かどうかという問題とバラク・オバマの出生証明書問題とを関連づけたことを激しく批判した[168]。また、ペイリンとトリグの関係について懐疑的な立場にあるアンドリュー・サリバン英語版は、ペイリンのコメントに対して次のように述べた。「ペイリンはトリグの出生証明書も、トリグが本当に彼女の生物学的な息子であることを証明する客観的医学的証拠も何も出していない[169]。」

デイヴィッド・ヴィッター

2010年7月11日、ルイジアナ州メテリーで開催されたタウンホール・ミーティングで、デイヴィッド・ヴィッター上院議員はバラク・オバマの出生証明書に関する質問を受け、「私個人には法廷で訴訟を起こす資格はありませんが、保守的で法で認められた団体などが訴訟を起こすなら、支持します。それが一番効果的かつ合法的な方法だと思っています」と述べた。ヴィッター陣営からはこの問題に関する追加コメントなどは発表されていない[170][171]

軍関係者

レイキン中佐の軍法会議

2010年4月13日、アメリカ陸軍は医務部隊軍医のテレンス・リー・レイキン(Terrence Lee Lakin)中佐がアフガニスタンへの配属を拒否したため同中佐を軍法会議にかけると発表した。レイキンは、オバマ大統領は出生による米国市民であるか疑いがあることから合法的な米軍最高司令官とはいえず、したがって自分をアフガニスタンへ派遣する法的根拠が欠けていると主張した。軍はレイキンのペンタゴンビル通行証を取り消し、政府支給のノートパソコンを没収した [172]。審議の期間中、レイキンはウォルター・リード陸軍医療センター英語版に配属された[173]

レイキンの事例はステファン・クック(Stefan Cook)の事例とは異なっている。退役軍人であるクックは、配属を志願し配属命令を受けたが、その後に服務を拒否する訴訟を起こした。これに対し軍はクックへの配属命令そのものを取り消すことで対応した[174]。レイキンのケースは配属命令を受けてこれを拒否したもので、米軍は統一軍事司法法典英語版に基づいて訴訟手続きを開始した。2010年9月2日、軍判事のデニス・リンド(Denise Lind)大佐は、オバマの資格はアメリカ合衆国議会の管轄下にあり軍の判断の管轄外であるため、出生による合衆国市民というオバマの地位はレイキンに対する軍法会議とは無関係であるとの判決を下した[175]

3人の退役軍人がレイキン支持を公表している。一人目は元陸軍少将でFOXニュースの主任軍事アナリストポール・バレリー英語版で、バレリーはインタビューの中で「私は軍の中にいる大勢が、そして軍の外でも大勢がオバマが出生による米国市民かに疑問をもっている」と述べた[176]。 バレリーの声明を受けて、元陸軍少将ジェリー・カリー(Jerry Curry)と元空軍中将トーマス・マキナニー英語版もレイキン支持を明らかにした[176][177]

2010年12月15日、軍の陪審員は、意図的に部隊の移動に参加しなかった罪 (a charge of missing movement) でレイキンに有罪判決を下した[178]。翌日、レイキンは6ヶ月の禁固刑と免職処分を言い渡された[179]


  1. ^ ここでいうバイタルレコードとは出生記録に限ったものではなく、誕生から、結婚、離婚、それから死亡に至るまでの各ライフイベントの証明ができる、米政府当局下で保管している記録。日本の戸籍関連でいう全部事項証明データに近い。詳細は英語版en:Vital recordを参照。
  2. ^ 原文が"diffuse angry"で「怒りを発散させる」。英語にはこれと非常によく似た"difuse angry"(fが一つ少ない同音異義語)という表現もあり、こちらだと「怒りをなだめる」[192]





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