バラク・オバマの国籍陰謀論 論説と批評

バラク・オバマの国籍陰謀論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/28 23:16 UTC 版)

論説と批評

オースティン (テキサス州)でのティーパーティー運動で看板を掲げている男性(2009年7月4日)[99][214]

オバマの適格性を疑問視する主張の支持者達は、9/11陰謀論者の俗称「トゥルーサー」になぞらえて、「バーサー」との異名が付いている。『ネーション』誌のレスリー・サヴァンは、月面着陸否認ホロコースト否認地球温暖化を否認する人々、税金を払う必要があると信じないティーパーティ運動家、地球が6000年前にできたと信じるYEC創造論などの団体と、今回のいわゆる「バーサー」を比較した[215]MSNBC政治評論家のレイチェル・マドウは「バーサー」を次のように定義した。

バラク・オバマが大統領であることに付随する本当の問題とは、彼が米国で生まれたなどありえないと確信している合衆国陰謀論者の新たな人達のことである。「オバマは大統領になる資格がない」「出生証明書は偽物」「オバマは外国人」このことがひとたび露見すればホワイトハウスは大騒ぎになる、と邪推している人達である[以下略][216]

多くの保守系論説家が、バーサー論支持者と保守系運動における広範な影響を批判している。トークショーの司会者マイケル・メドヴェドも批判的で、他の保守を「病的で問題だらけで文明集団にそぐわない」一派に見せてしまうためバーサー論者達を「保守運動の最悪の敵」と呼んでいる[217]。保守系コラム作家アン・コールターは彼らを「まさしく少数派の変人」と呼んでいる[218]。2008年大統領選挙期間中、保守主義の学識者スティーブ・サイラーも同様に、オバマがケニアで生まれたという理論は特に信じがたいと考え、バーサー達の主張を次のように退けた。

1961年に彼女(アン・ダナム)がケニアに行くには何回別の飛行便を乗り継ぐ必要があったのか、貴方はご存知ですか? ホノルルからカリフォルニア、カリフォルニアから東海岸、東海岸(ガンダー湾で給油)からロンドン、ロンドンからカイロ、カイロからナイロビですよ。どれほどの費用がかかったのでしょうね? しかもそのあと、ホノルルにある近代的なアメリカの病院ではなく、アフリカで自分の赤ちゃんを抱えて立ち尽くすことになってしまうのですよ。このほか世界中を逆向きに巡ることも可能ですが、いずれの方法でも距離は変わりません。[219]

ホノルル・スター・ブレティン紙の社説は、オバマの大統領適格性に関する主張を「オバマの両親、州当局、マスコミ、シークレットサービス、シンクタンク、そしてまだ名を知られていない多くの人が、オバマが誕生してからずっと、彼が47年後に大統領を目指すことができるよう共謀して虚偽の記録を構築してきたとする気の遠くなるような陰謀論だ」として退けた[220]。事実検証サイトのポリティファクトは、出生証明書発行に関する一連の問題を次のように結論付けた。

候補者の名前がバラク・フセイン・オバマであるというポリティファクトの結論を反証するものや、彼が公開した出生証明書が本物ではないという主張を裏付ける証拠は一つも存在しない。そして、どれだけ多くの人達が疑惑の手掛かりに固執しても、インターネットを使って生来の不信感を煽っても、上述の事は紛れもなく真実である。[221]

2008年11月、社会評論家のカミール・パーリアはこの話題の「馬鹿げたことを長々と話す、狂信的な行き過ぎ」を批判したが、オバマの対応についても疑問を呈し「オバマはこの件で最新かつスタンプが押された証明書謄本を発行するようハワイ州に公式に要請し、著名な記者を幾人か招いて、その文書を調査および撮影することで、この問題全てを数ヶ月前に終わらせることができた」と述べた[222](その後の運動でファクトチェックでは証明書の抄本が閲覧可能となった)[222]

2008年12月に『サロン』誌のアレックス・コッペルマンは、オバマが完全な証明書の原本コピーを公開すべきでその噂や疑念が消えただろう、という一般的なパーリアの主張に妥当ではないと反論した[61]。陰謀論の専門家から教わった事では、熱心に活動する陰謀論者は自分達の説を虚偽立証するより多くのデータを提示された場合、新しい証拠を受け入れることを拒絶してしまう。「無視できないものはどれも、(陰謀の)物語に合わせて捻じ曲げてしまう。正しさによる、論争を終結できる筈の新たな開示はどんなものでも、新たな疑念を生じさせるだけで、新たな陰謀だと認定するに過ぎない」と彼は書いており、オバマの抄本公開は「陰謀という怪物の熱気に火を注いだ」だけなので、証明書謄本の公開でも「ほぼ確実に」噂の堂々巡りを続けるだろう、とコッペルマンは予見していた[61]

オバマの祖父母が、孫がいつの日か大統領になれるよう新聞に誕生欄を仕込んだのだとする考えに対し、ファクトチェックは「その道を行くことを選ぶ人は、まず高品質のティンホイル・ハットを装着すべきだ」と提案した[31]。同サイト主幹事のブルックス・ジャクソンは「それはバラク・オバマを好まない人々の間にある被害妄想の苦悩を反映したもの」で彼らは選挙結果を取り消したいと考えている、と述べた[223]。 陰謀論の拡散を研究する報道記者チップ・ベレットは「一部の人達にとって、自分の応援する側が選挙で負けたとき、『これは腹黒い、邪悪なやつらが、何らかの不正を行った』が、彼らを納得させてくれて我慢できる唯一の説明なのです」と述べた[224]

政治作家のダナ・ミルバンクはワシントン・ポスト紙への執筆で、ボブ・シュルツ(2008年にオバマの市民権に公的に異議を唱えたNPO団体 (We the People Foundationの会長)のオバマ市民権理論を「ティンホイル・ハット旅団に由来するお伽話」と表現した[225]。コロラド州選挙人のカミラ・オーガーは選挙人団へのロビー活動に対して「この国に憂鬱で不条理な主張をする頭のおかしな人がこれほど多くいることが心配になりました」と述べた[125]

一部の解説者は、人種差別がオバマ市民権陰謀論の推進を動機づける要因だと断言している[226] [227]ヘイト団体や過激主義を監視する団体南部貧困法律センター代表のJ・リチャード・コーエン(J. Richard Cohen)は、2009年7月に支持者に向けて電子メールを送り「この陰謀論は反ユダヤ主義によるでっち上げで、黒人男性が大統領に選ばれたという事実を受け入れられない人種差別の過激派によって流布されたもの」だと宣言した[228]

オバマがどうやって2つのアイビー・リーグ機関に入会を果たしたのかというドナルド・トランプの疑念ならびに「私は黒人と素晴らしい関係を持っている」という彼のコメントは、特にデビッド・レムニック、デビッド・レターマン、ビル・マーハー[229]などからトランプの人種差別を非難させるに至り[230][231]、オバマに関する人種への注目を高めた[232]。2011年4月、ティーパーティー活動家で地元オレンジ郡 (カリフォルニア州)の共和党執行委員会の委員マリリン・ダベンポートは、写っている2匹の仔チンパンジーをバラク・オバマと見なして[233]「出生証明書が無い理由が今分かった」との書き込みをそこに加えた[234]、人種差別と広く見なされる写真を電子メールで拡散させて、全米規模の物議を巻き起こした[235]。同月後半にオバマの証明書謄本が公開された後、ニューヨークタイムズ紙は「オバマを狡猾な『他者』だと描写するこの活動が、白人大統領に対して実行されるだろうとは考えられない」と社説で述べた[234]


  1. ^ ここでいうバイタルレコードとは出生記録に限ったものではなく、誕生から、結婚、離婚、それから死亡に至るまでの各ライフイベントの証明ができる、米政府当局下で保管している記録。日本の戸籍関連でいう全部事項証明データに近い。詳細は英語版en:Vital recordを参照。
  2. ^ 原文が"diffuse angry"で「怒りを発散させる」。英語にはこれと非常によく似た"difuse angry"(fが一つ少ない同音異義語)という表現もあり、こちらだと「怒りをなだめる」[192]





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