ネロ 建築事業

ネロ

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建築事業

ドムス・アウレア(黄金宮殿)

ドムス・アウレアにあるミューズ

ドムス・アウレア(黄金宮殿)は、ローマ市街を焦土と化した64年の大火災の後に建設された、誇大妄想的な巨大宮殿である。

帝政初期のローマ建築にあって、皇帝ネロが造形に与えた影響はかなり大きい。ネロはローマ芸術の保護者を自認しており、今日、皇帝浴場と呼ばれている建築の先駆けとなるネロ浴場、そしてドムス・アウレア(黄金宮殿)を建設した。当時ローマ市は非常に密集した状態であったにもかかわらず、エスクイリヌスの丘(現エスクィリーノの丘)の斜面にテラスを造り、人工池(現在コロッセオがある場所)とこれを囲む庭園を見下ろす、すばらしい景観を眺めることができた[注釈 1]。現在はトライアヌス浴場の地下に残された一部のみが残る。八角形を半分にしたような中庭を挟んで、方形の中庭を囲む食堂などがある部分と八角堂のある部分に分かれ、おおまかな構成は当時の海辺に建設されたヴィッラそのものである。内部は大理石やモザイクを使った贅沢なもので、その装飾はルネサンス時代にグロテスクと呼ばれ、ラファエロ・サンティらに影響を与えた[7]。しかし、この建物の真に革新的な部分は、ローマン・コンクリートによって構築されたヴォールト天井とドームが架けられた八角型の部屋である。八角堂の形式は他にみられないが、ドムス・アウレアではじめて採用されたとは考えにくいので、直接の原型があると考えられる。ドーム頂部からだけでなく、これに付随する部屋への採光を確保できるような造形は、オクタウィアヌスの時代から培われたローマン・コンクリートがあってはじめて成り立つもので、皇帝自らの邸宅に革新的な造形が採用されたことは、他の建築に新しい技術や意匠をもたらす契機となった[8]

ネロの死後、104年に宮殿は火災に遭い、その敷地は次々と公共建築用地に転用された。宮殿の庭園にあった人工池の跡地にはコロッセウム(コロッセオ、コロシアム)が建設された。建設開始は75年で、利用開始は80年である。正式名称は「フラウィウス闘技場」(フラウィウス円形闘技場)だが、ネロの巨大な像(コロッスス)が傍らに立っていたため、コロッセウムと呼ばれるようになったといわれている[9]

コリントス運河

67年にネロはコリントス運河の開削を開始。コリントス地峡に運河を掘る構想は古代ギリシアの時代からあり、古代ローマ時代にもカエサルやカリグラも関心をもっていた。ネロは6000人の奴隷を動員して3.3kmあまりを掘ったが、途中、ローマでガルバらの反乱が起こりネロは自殺してしまう。死後、帝位についたガルバによって工事は中断された。ネロが計画した運河は、1893年に完成した現在のコリントス運河と同じルートである。古代ローマの土木建設技術の高さがうかがわれる。


注釈

  1. ^ 短い記述ではあるが、この宮殿の仕掛けの数々は、スエトニウスが記述している[6]
  2. ^ 当時のキリスト教はユダヤ教の一派とされていた。これが明確に分裂するのは紀元後66-73年ユダヤ戦争以後となる。

出典

  1. ^ Nero Roman emperor Encyclopædia Britannica
  2. ^ 明石和康『ヨーロッパがわかる 起源から統合への道のり』岩波書店、2013年、14頁。ISBN 978-4-00-500761-5 
  3. ^ 原淳 『ハチミツの話』 六興出版、1988年9月。ISBN 4-8453-6038-1。122-123頁。
  4. ^ 原1988、169頁。
  5. ^ 本村 2011, pp. 118-119; ウィズダム 2002, p. 88, 89.
  6. ^ スエトニウス(国原)2007b p. 166
  7. ^ 小佐野 (1993) pp. 39-40。
  8. ^ パーキンズ (1979)(桐敷1996 pp. 80-83)およびSear (1983 pp. 98-102)。
  9. ^ Martialis, Marcus Valerius、Sullivan, John Patrick、Whigham, Peter、1987年『Epigrams of Martial - Englished by divers hands』カリフォルニア大学、ISBN 0520042409 の51ページ目参照。
  10. ^ 島創平「ネロとキリスト教再考」『東洋英和大学院紀要』第11巻、東洋英和女学院大学大学院、2015年、1-9頁、ISSN 1349-7715NAID 1200056048482021年4月22日閲覧 
  11. ^ 福山佑子「帝政前期ローマにおけるダムナティオ・メモリアエ : 改変されたローマ皇帝の記憶と記録」早稲田大学 博士論文32689甲第5159号、2017年、NAID 5000010775352021年6月10日閲覧 
  12. ^ Cory, Catherine A. (2006). The Book of Revelation. Collegeville, Minn.: Liturgical Press. ISBN 978-0-8146-2885-0。61頁。
  13. ^ Garrow, A.J.P. (1997). Revelation. London.: Routledge. ISBN 978-0-415-14641-8。86頁。
  14. ^ sources, translated from the original languages with critical use of all the ancient (2005). The Catholic youth Bible: New American Bible including the revised Psalms and the revised New Testament (Rev. ed. ed.). Winona, Minn.: Saint Mary's Press. ISBN 978-0-88489-798-9. https://books.google.co.jp/books?id=SnORJqkR7qsC&pg=RA7-PT1423&redir_esc=y&hl=ja 
  15. ^ Just, Felix (2002年2月2日). “666: The Number of the Beast”. 2006年6月6日閲覧。
  16. ^ Hillers, D.R. (1963). “Revelation 13:18 and a Scroll from Murabba'at”. Bulletin of the American Schools of Oriental Research 170 (170): 65. doi:10.2307/1355990. JSTOR 1355990.  Note: website requires subscription.The New Jerome Biblical Commentary. Ed. Raymond E. Brown, Joseph A. Fitzmyer, and Roland E. Murphy. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall, 1990. 1009
  17. ^ Some Recently Published NT Papyri from Oxyrhynchus: An Overview and Preliminary Assessment Archived 2011年7月6日, at the Wayback Machine. by Peter M. Head, Tyndale Bulletin 51 (2000), pp. 1–16 http://www.tyndale.cam.ac.uk/Tyndale/staff/Head/NTOxyPap.htm#_ftn39
  18. ^ (whose name, written in Aramaic, can be valued at 666, using the Hebrew numerology of gematria), a manner of speaking against the emperor without the Roman authorities knowing. Also "Nero Caesar" in the Hebrew alphabet is נרון קסר NRON QSR, which when used as numbers represent 50 200 6 50 100 60 200, which add to 666. The Greek term χάραγμα (charagma, "mark" in Revelation 13:16) was most commonly used for imprints on documents or coins.


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