ゼロの偶奇性 数量認識

ゼロの偶奇性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/21 08:34 UTC 版)

数量認識

0から8までの数についての偶奇について、複合的に組み合わせて2回繰り返した結果を統計解析すると、0が他の数字から離れていることが伺える。なお、この最小空間解析においては、軸は恣意的に引かれたものであり、数字の集まり方のみが意味を持つことに注意。[33]

ゼロは偶数であると信じる大人であっても、それを偶数と考えることに必ずしも馴染んでいるわけではない。その馴染の無さは、 反応時間テストで、それらの低減を計測できる程十分である。数量認識の分野における開拓者の一人であるStanislas Dehaeneは、1990年代初期にそのような一連の実験を行った。 ある命数あるいは数詞モニター上で被験者に表示される。被験者はその数字が偶数か奇数かを決定し、それに応じて右または左のボタンを押す。左右のボタンと偶数・奇数の対応は、実験ごとに変わる。コンピューターは被験者が二つのボタンの一つを押すまでにその対象を表示している時間を記録する。この結果、0は他の偶数よりも処理時間が遅いことが示された。この実験のあるバリエーションでは60ミリ秒ほどの遅れが見られた。この差は平均反応時間の約10%の小さなものだが重要である。[34]

Dehaene の実験は、特に0について研究するためにデザインされていたわけではなく、むしろ、いかにして偶奇性の情報が処理され抽出されるのかを説明するための、複数の競合するモデルを比較するためのものであった。もっとも明確なモデルである精神計算仮説は、0に対する反応は早くなるであろうことを示唆していた。0は小さな数であり、0 × 2 = 0を計算することは容易だからである。しかし、この実験結果は何かまったく違うことが発生していたことを示唆している。どうやら、偶奇性の情報は、素数やら2の冪のような関連する数の性質のクラスターとともに記憶から呼び出されているらしい。 2の冪の数列と、偶数の列2, 4, 6, 8, ...は両方共、それらのメンバーが偶数の原型であるような、よく目立つ精神的カテゴリーである。ゼロはこれらのリストのどちらにも属していない、だから反応が遅いのである。[35]

繰り返された実験では、命数形式での数の名前、文字による表示、および鏡文字などを使い、多様な年齢、国籍、言語などを持つ被験者に対してゼロでの遅れが示された。 Dehaeneのグループは、ある異なる要素を見出した。それは数学の専門知識である。これらの試験の一つでは、高等師範学校の学生が二つのグループに分けられた:文学専攻と数学、物理、生物専攻である。0での遅れは「本質的に文学専攻群に見られる」。そして実際、「試験の前に、ある文学専攻の対象者は0が偶数か奇数か確信が無く、数学的定義の復習をしなければならなかった」[36]

馴染みに対するこの強力な依存性は、精神的計算仮説をさらに不利にする[37] 。 この結果は又、グループとして偶数と奇数が比較されるような実験においてゼロを含むことは不適切であるということを示唆している。ある研究で述べられていたように「大部分の研究者は、0が典型的な偶数ではなく、精神的な数直線の一部として研究されるべきではない、ということに同意しているようだ」[38]


  1. ^ Penner 1999, p. 34: 補題 B.2.2, 整数0は偶数であって奇数ではない. Penner は証明の中で存在記号を使用し、"0が偶数であることを見るために、を証明しなければならないが、これは、等式から導かれる "
  2. ^ Ball, Lewis & Thames (2008, p. 15)では、 ある数学的事実に対して、その数学的理由を生徒に教えたいと望んでいるが、彼らの生徒達は同じ定義を利用できず教えたとしても理解できないであろう、初等教育課程の教師に対するこのような挑戦を考察している。
  3. ^ Lichtenberg 1972, pp. 535–536 "...数とは対象物の集合に対して、それがいくつあるか?という疑問に答える ... ゼロは空集合の性質の数 .... もし各集合の要素が二つ一まとめのグループに区切られるならば... その集合の数は偶数である。"
  4. ^ Lichtenberg (1972, p. 535)の図1
  5. ^ Lichtenberg 1972, pp. 535–536 "二つの星のゼロ集合は太極図をなし、余る星はない。だからゼロは偶数である。"
  6. ^ Dickerson & Pitman 2012, p. 191.
  7. ^ Lichtenberg 1972, p. 537; 著者は、図3と比較して、 "もし偶数が同じ特殊な方法で特定されるならば...そのパターンから0を除外すべき理由はまったくない。"
  8. ^ Lichtenberg 1972, pp. 537–538 "より進んだレベルでは...(2 ×□) + 0としての表現される数は偶数...ゼロはこのパターンにうまくあてはまる"
  9. ^ Caldwell & Xiong 2012, pp. 5–6.
  10. ^ Gowers 2002, p. 118 "一見したところの資意的な1の除外(素数の定義から)...数についてある深い事実が表現されるわけではない。それはただ、任意に与えられた数を素数の中で素因数分解するただ一つの方法が存在するということが受け入れられ、有用な風習が発生したということだ。" さらなる議論はCaldwell & Xiong (2012)を見よ。
  11. ^ a b c Partee 1978, p. xxi
  12. ^ a b Stewart 2001, p. 54 これらの規則は与えられているが、言葉どおり引用されてはいない
  13. ^ a b c d Frobisher 1999, p. 41.
  14. ^ これはアメリカ合衆国カナダイギリスアイスランドの学習過程における場合である。Levenson, Tsamir & Tirosh (2007, p. 85)を参照のこと。
  15. ^ Frobisher 1999, pp. 31 (Introduction), 40–41 (The number zero), 48 (Implications for teaching)
  16. ^ Frobisher 1999, pp. 37, 40, 42; これは、1992年のthe mid-summer termに実施された調査からの結果である。
  17. ^ Frobisher 1999, pp. 40–42, 47; これらの結果は、到達レベルに違いのある3学校からの481人の生徒を含む1999年2月の研究に拠る。
  18. ^ Frobisher 1999, p. 41, attributed to "Jonathan"
  19. ^ Frobisher 1999, p. 41, attributed to "Joseph"
  20. ^ Frobisher 1999, p. 41, "Richard"の例
  21. ^ Keith 2006, pp. 35–68
  22. ^ Levenson, Tsamir & Tirosh 2007, pp. 83–95
  23. ^ a b Ball, Lewis & Thames 2008, p. 27; 図 1.5 "ゼロについての数学的な主張。"
  24. ^ Ball, Lewis & Thames 2008, p. 16.
  25. ^ Levenson, Tsamir & Tirosh 2007; Dickerson & Pitman 2012
  26. ^ Dickerson & Pitman 2012.
  27. ^ Ball, Hill & Bass 2005, p. 22.
  28. ^ Ball, Hill & Bass 2005, pp. 14–16.
  29. ^ Hill et al. 2008, pp. 446–447.
  30. ^ Lichtenberg 1972, p. 535
  31. ^ Ball, Lewis & Thames 2008, p. 15. 適切な定義のさらなる議論に対するBallのキーノートも参照
  32. ^ Levenson, Tsamir & Tirosh (2007, p. 93)による結論として。Freudenthal (1983, p. 460)も参照。
  33. ^ Nuerk, Iversen & Willmes (2004, p. 851): "これは、応答すべきボタンが右か左かということとは無関係に、ゼロが他のすべての数字とは明瞭に異なっていることもまた見て取れる。(他の数からゼロを分離している線を見よ)"
  34. ^ Dehaene, Bossini & Giraux (1993)のあらゆるデータ、およびNuerk, Iversen & Willmes (2004, p. 837)によるサマリーを見よ。
  35. ^ Dehaene, Bossini & Giraux 1993, pp. 374–376
  36. ^ Dehaene, Bossini & Giraux 1993, pp. 376–377
  37. ^ Dehaene, Bossini & Giraux 1993, p. 376 "ある直感的な意味で、偶奇性の概念は2より大きい数に対してのみ馴染みがある。実際に、試験の前に、ある文学専攻の対象者は0が偶数か奇数か確信が無く、数学的定義の復習をしなければならなかった。この証拠は手短に言うと、2で割り切れることの基準を使うことによりその場で計算する代りに、偶奇性の情報は他の意味的な性質の数を集めたメモリーから検索されることを示唆する...もし意味的メモリーが偶奇性の判断でアクセスされるなら、個人間の差は、数の概念に対するその対象者の親しみ具合に依存するべきだ
  38. ^ Nuerk, Iversen & Willmes 2004, pp. 838, 860–861
  39. ^ The Math Forum participants 2000; Straight Dope Science Advisory Board 1999; Doctor Rick 2001
  40. ^ Grimes 1975, p. 156 "...人は、彼の知人の結婚したカップルに次の質問を提起できる: (1) ゼロは偶数か? ... 多くのカップルは不一致になる..."
  41. ^ Wilden & Hammer 1987, p. 104
  42. ^ Snow 2001; Morgan 2001
  43. ^ Kaplan Staff 2004, p. 227
  44. ^ Graduate Management Admission Council 2005, pp. 108, 295–297; Educational Testing Service 2009, p. 1
  45. ^ Arsham 2002; この引用は、1977年10月1日に放送されたドイツの報道番組en:heuteによる。 Arshamの証明は Crumpacker (2007, p. 165)によっても繰り返されている。
  46. ^ Sones & Sones 2002 "ペンシルバニア州立大学の数学者George Andrewsはオーストラリアでガソリン補給をしたときのことを思い出して...それからニューサウスウェールズ議会の誰かが、これは最後の桁が0の車はガソリンが買えないことを意味する。なぜなら'ゼロは偶数でも奇数でもないからだ、と断定した。そこで、ニューサウスウェールズ議会は、ガソリン供給の目的のためにゼロは偶数であると規定したのである!'"
  47. ^ 1980年のメリーランド法では以下のように規定している: "カレンダーの日付が偶数である日には、数字を含まない個人的ナンバープレート、または最後の桁が偶数であるようなナンバープレートを持つ車の運転者のみが、ガソリンを購入できる。ただし、アマチュア無線のプレートはこれに含まない。ゼロは偶数とする:(b)カレンダーの日付が奇数である日は..."メリーランド州法 1974より抜粋
  48. ^ Brisman 2004, p. 153
  49. ^ Smock 2006; Hohmann 2007; Turner 1996
  50. ^ Diagram Group 1983, p. 213
  51. ^ Baroody & Coslick 1998, p. 1.33
  52. ^ Devlin 1985, pp. 30–33
  53. ^ Penner 1999, p. 34.
  54. ^ a b Berlinghoff, Grant & Skrien 2001 孤立点については、p. 149; 群については p. 311.
  55. ^ Lorentz 1994, pp. 5–6; Lovas & Pfenning 2008, p. 115; Nipkow, Paulson & Wenzel 2002, p. 127
  56. ^ Bunch 1982, p. 165
  57. ^ Wise 2002, pp. 66–67
  58. ^ 単連結でないような、いわゆる「島」がある図形の場合でもこの判定法は有効である。しかし、「ポリゴン」の定義に含まれないが、多角形の外側に直線を付け加えたいわば「毛が生えた」ような図形の場合、点が図形の外側にあっても、奇数回交差することはありえる。
  59. ^ Anderson 2001, p. 53; Hartsfield & Ringel 2003, p. 28
  60. ^ Dummit & Foote 1999, p. 48
  61. ^ Andrews 1990, p. 100
  62. ^ Tabachnikova & Smith 2000, p. 99; Anderson & Feil 2005, pp. 437–438





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ゼロの偶奇性」の関連用語

ゼロの偶奇性のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ゼロの偶奇性のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのゼロの偶奇性 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS