シュメール神話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/04 07:48 UTC 版)
信仰
楔形文字の発明
文字の発明までのシュメール神話は口承によって語り継がれてきた。初期のシュメールの楔形文字は記録手段にすぎなかったが、初期王朝時代(early dynastic period)になると賛歌という形の宗教文学に[1]、そしてナム・シュブ(nam-šub)と呼ばれるまじないに使われるようになった[2]。
建築
初期のシュメールの都市国家では寺院は一段高い場所に造られた小さいワンルームの物件だった。その後初期王朝時代(early dynastic period)に複数の部屋とテラスを持つようになった。シュメール文明が衰退するころにはジッグラトがメソポタミアの宗教の寺院様式としてふさわしいものとされるようになる[3]。寺院は文化、宗教、政治の中心として機能し、およそ紀元前2500年ごろにルガル(Lu-gal、字義をとれば男+大きい[2]、軍事的コンテクストを背景に持つ王)が生まれると政治と軍事の中心は宮殿に分けられた[3]。
僧侶
ルガル、すなわち王の登場まで、シュメールの都市国家はエン(神官)の組織による事実上の神権政治が行われていた。神官たちは都市国家の文化、宗教の維持を担っていた。彼らは人と自然の力とを繋ぐ媒介者と考えられていた。神官は寺院に住まい、都市の存亡を左右する大規模な灌漑事業を含む都市国家の諸問題に取り組み、統治を行った。
宗教行事
ウル第三王朝時代、シュメールの都市国家ラガシュは62名のラメンテーション・プリースト(ラメント行う神官)を雇っており、それぞれには合唱団と楽団があわせて180名ついていたといわれている[4]。
世界観
シュメール人は世界が閉じたドーム状で、その外には原初の海が広がっていると考えていた[5]。ドームの基礎をなす地表の下には地下世界とアプスーと呼ばれる淡水の海が広がっていると考えていた。ドーム状の空を司る神はアン(An)、地上の神はキと呼ばれた。原初の海はナンムと呼ばれ、シュメール・ルネサンス(ウル第三王朝)の中でティアマトと呼ばれるようになった。なお、シュメール神話の太陽系を示す石板には天王星や海王星、冥王星といった当時未発見の天体の他[要出典]、ニビルなどの神話上の惑星も描かれているとされる。
創造神話
原初のアンとキがエンリルを生み出し、エンリルは後にシュメールのパンテオンのリーダーとなった。大気の女神ニンリルを妻にしようと彼女を犯したエンリルは、他の神々に咎められディルムンから追放された。ニンリルは月の神ナンナを儲けた。ナンナはニンガル(Ningal)との間に戦争と豊穣の神イナンナ、そして太陽の神ウトゥ(Utu)を儲けた[6]。
増えた神々が食料を得るために、低位の神々は農作業などに追われるようになった。この為、知恵の神であるエンキが神々にかわり労働する人間を作り出す方法を考え出した。これにより母神であるナンムが粘土から人間を創造し、その手伝いはニンマフが行った[7] 。のちに神々は「大洪水」を起こし人間を滅ぼすが、エンキは王で信仰深い神官であったジウスドゥラへと洪水が起きるという神託を下していたため、ジウスドゥラは大船を用意し、家族や動物の種をのせ生き残った。七日七晩の洪水の後、船から出たジウスドゥラが神々へ牡牛と羊を捧げると、神々はジウスドゥラに永遠の命を与え、東方のディルムンへと住まわせた[8] 。
神々
シュメールではもともと擬人観を通した多神教が信仰されていた。かれらは宇宙や地上の自然の力に神々を見ていた。その神々は紀元前3千年紀の間に人間中心主義的な側面を持つようになり、自然の神々はそれぞれの都市の神となった。エンキやイナンナのような神々はその地位、力、知識を、天の神アンや最高神エンリルから授かったという見方が定着した。
この世界観のシフトは近隣のアッカド帝国の宗教や、シュメールの都市国家間で頻発するようになった軍事的争いによるものだと考えられている。神々に授けられた権力を、都市国家や神官から権力を与えられたルガル(王)と重ねていると見ることができる[9]。
- ^ a b “Sumerian Literature”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2009年6月22日閲覧。
- ^ a b “The Sumerian Lexicon”. John A. Halloran. 2009年6月23日閲覧。
- ^ a b “Inside a Sumerian Temple”. The Neal A. Maxwell Institute for Religious Scholarship at Brigham Young University. 2009年6月22日閲覧。
- ^ john 2001, p. 106.
- ^ “The Firmament and the Water Above”. Westminster Theological Journal 53 (1991), 232-233. 2006年9月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年2月20日閲覧。
- ^ “Enlil and Ninlil”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2009年6月22日閲覧。
- ^ 岡田&小林 (2008), 第一章 「創世神話」, Kindle 版 (位置No.530-551/3779)
- ^ 岡田&小林 (2008), 第二章 神々が送る大洪水の物語, Kindle 版 (位置No.651-720/3779)
- ^ Karen Rhea Nemet-Nejat, (1998). "Daily Life in Ancient Mesopotamia", 178-179.
- ^ Bertman, Stephen (2003). Handbook to life in ancient Mesopotamia. Facts on File. p. 143. ISBN 978-0-8160-4346-0
- ^ The Sources of the Old Testament: A Guide to the Religious Thought of the Old Testament in Context. Continuum International Publishing Group. (18 May 2004). pp. 29–. ISBN 978-0-567-08463-7 2013年5月7日閲覧。
- ^ God in Translation: Deities in Cross-cultural Discourse in the Biblical World. Wm. B. Eerdmans Publishing. (2010). pp. 42–. ISBN 978-0-8028-6433-8 2013年5月7日閲覧。
- ^ Karen Rhea Nemet-Nejat, (1998). "Daily Life in Ancient Mesopotamia", 182.
- ^ “Gilgamec, Enkidu and the nether world”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2010年2月20日閲覧。
- ^ “A balbale to Suen (Nanna A)”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2010年2月20日閲覧。
- ^ “A balbale to Nanna (Nanna B)”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2010年2月20日閲覧。
- ^ “An adab to Ninlil (Ninlil A)”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2010年2月20日閲覧。
- ^ “A hymn to Utu (Utu B)”. Electronic Text Corpus of Sumerian Literature. 2010年2月20日閲覧。
- ^ “Mesopotamia: the Sumerians”. Washington State University. 2009年6月22日閲覧。
- ^ “Hurrian Mythology REF 1.2”. Christopher B. Siren. 2009年6月23日閲覧。
- ^ Samuel Noah Kramer, (1952). "From the Tablets of Sumer", 133-135.
- 1 シュメール神話とは
- 2 シュメール神話の概要
- 3 初期の神々
- 4 後世に残した影響
- 5 関連項目
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