エイリアン (映画)
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エイリアン・フェミニズム
ホラーSFである『エイリアン』には、性的・恋愛要素がほとんどないにもかかわらず、妊娠・出産のメタファーを中心に「濃厚なセクシュアリティが漂っている」ことが指摘されている[114]。
内田樹はこの生殖のメタファーを「体内の蛇」[115]のモチーフをもちいて考察している。それによると本作における「宇宙船のクルーがエイリアンの幼体からその子孫を体内にうえつけられ、それが体を破って外に出てくる」という流れは、ヨーロッパ全域で流布している「体内の蛇」と呼ばれる民間説話をなぞったものであり、この説話をフェミニズムに結びつけたことにオリジナリティがあるという。
本作でのエイリアンは男性社会のメタファーであり、男性器のような頭部を持ち、口から精液のような粘着性の液体をしたたらせている[116]。エイリアンは女性を妊娠させようとする男性の性欲の象徴であり、主人公のリプリーはそれに対抗するフェミニズム志向の女性の役割を果たしている(リプリーを襲ったアッシュにとどめを刺すのも女性のランバートである)。リプリーはそれまでのSF映画のヒロインのような「強い男に付き従う弱い女性」ではなく、男性クルーと対等に渡り合い、会社の陰謀を探り、1人で怪物と対峙する「強い女性」として描かれている。リプリーの姿は1970年代後半に製作された女性の自立や台頭を描いた映画『結婚しない女』『クレイマー、クレイマー』などとともに語られることがあり[116]、また、本作はそれまでのSF映画にはなかった新しい(アクションの担い手としての)役割を女性に与えた先駆的な映画としても語られる[117]。
映画公開当時、男性に依存しない勇敢な女性が自力で(男性性の象徴である)エイリアンを退治するというこの映画を、女性たちはフェミニズムの勝利の物語として賞賛したのだ、と評価されることが多かった[118]。しかし内田は、本作は女性からだけでなく保守的な(反フェミニスト的な)男性からも支持されていることを指摘し、「戦闘的フェミニストの勝利」という劇的な結末を演出するために結末以前の部分では「ヒロインがエイリアンから徹底的に陵辱される」という描写で埋め尽くされていると述べている[119]。映画のクライマックスで下着姿のリプリーに襲いかかろうとするエイリアンは男社会に虐げられてきた女性の縮図であるとされる[116]。
原案でリプリーにあたる役を男性から女性に変更した際、性別を意識した台詞の改変はほとんど行われなかった。ウィーバー自身はリプリーがフェミニズムに関連付けて語られることには慎重であり、「いいキャラクターはいいキャラクター、性別なんて関係ない」と述べている[120]。
- ^ かつて日本の空港などでも、「外国人」の意味で「Alien」という表記が見られたが、次第に「Foreigner」表記に改められていった。
- ^ ソフト等に表示されたあらすじでは「2087年」と誤記されていることが多い。
- ^ 原語でのリプリーの肩書は「Warrant officer」であり、これを訳すと「准士官(准尉)」もしくは「兵曹長」(海兵隊では四等准尉)に相当する軍の階級である。ラストシーンの最終報告では、自らの肩書を「3rd Navigator」と称している。また、航海士としての姿が見られるのは本作のみである。
- ^ ディレクターズ・カット版では次のカットで悲鳴を聞いたリプリーとパーカーが駆けつけるものの、劇場公開版ではすぐに集合シーンに切り替わり、パーカーが皆にエイリアンの急成長とブレットの死を報告している。
- ^ 直径、周囲、距離のいずれなのかは不明。ソフトの日本語吹替では「周囲」となっている。しかし、明らかに小惑星よりはるかに大きい惑星(衛星)サイズであり、設定が矛盾している。
- ^ ただし脱出艇が2隻あるとなると、終盤でリプリーが自爆を解除しようとするシーンや、危険を承知でナルキッソスに戻るシーンが矛盾する(また、仮にナルキッソス一つしかないとしても、全乗組員が脱出艇に乗れないという別の矛盾も発生する)。
- ^ 船級の設定は『2』冒頭の査問会シーンでも登場している。
- ^ 後発の設定であり、劇中には具体的な年代を明記したシーンはない。なおブルーレイ版パッケージ裏の表記では2087年となっている。
- ^ スコットが2年前に監督した『デュエリスト/決闘者』もコンラッドの作品が原作である。
- ^ ウェイランドとなったのは『2』から。
- ^ この構想は、1990年にポール・バーホーベン監督の『トータル・リコール』として結実した。
- ^ オバノンは本作でデス・スター設計図とヤヴィンの戦いのカウントダウン映像のCG製作に携わっている。
- ^ 唐沢俊一による書籍の記述を元に表紙の写真が山口百恵であるという説が広まったが間違いであることを杉村喜光が指摘している[38]。
- ^ ランバートが履いているのは白のパンツにブーツだが、ジーンズとスニーカーになっている。
- ^ ファーストは後にティム・バートン監督『バットマン』(1989年)でアカデミー美術賞を受賞する。
- ^ 公開時のポスターや予告編に登場するエッグはこの当初のデザインを使用している。
- ^ チェストバスターが飛び出してきた際にランバートが悲鳴を上げるシーンは、驚いて転倒する直前のものである。
- ^ ウィーバーも、ナルキッソス内で冷凍休眠を行うために服を脱ぐシーンは、下着姿ではなく全裸で撮影する予定があったことをアクターズ・スタジオのインタビューで語っている。
- ^ 日本語字幕では原語の「Frontier」に「銀河系」という単語をあてているが、「国境」「辺境地帯」とする方が正しい。
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- ^ 石塚倫子 (2002, p. 26)
- ^ ハロルド・シェクター『体内の蛇 フォークロアと大衆芸術』(吉岡千恵子共訳、リブロポート、1992年)
- ^ a b c 映画秘宝EX(2012)、p.71
- ^ "か弱い存在と位置づけられていた女性が,(中略)アクションの担い手へと立場を変えたのである" 塚本まゆみ (2003, pp. 103–104)
- ^ 石塚倫子 (2002, pp. 31–32)
- ^ 難波江和英/内田樹 『現代思想のパフォーマンス』 松柏社、2000年、96-103頁。ISBN 4-88198-932-4。内田樹『女は何を欲望するか?』角川書店、2008年 ISBN 978-404710090-9、『映画の構造分析』晶文社、2003年 ISBN 978-4794965752 も参照
- ^ ネイサン(2012)、p.136
- ^ “‘Alien’ Series From Noah Hawley in the Works at FX, Ridley Scott in Talks to Executive Produce”. Variety. 2020年12月13日閲覧。
- ^ a b c “『エイリアン』ドラマ版の主人公決定 ─ 『ドント・ウォーリー・ダーリン』シドニー・チャンドラーが抜擢”. THE RIVER (2023年5月2日). 2023年5月16日閲覧。
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