エイリアン (映画)
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美術
監督に着任したスコットにとって目下最大の懸念事項は、主役であるエイリアンのデザインであった。既にコッブがおこしたデザインが存在していたものの、その内容はと言えば、2本足で立ち、鉤爪のついた4本の腕があり、頭部からは触角と目が突き出るように生えているという奇妙な外見で、満足のいくものではなかった[50][51]。
1978年2月8日、オバノンはスコットにギーガーの画集『ネクロノミコンIV』を見せる。そこに描かれていた機械とも生き物とも似付かぬ存在にスコットは衝撃を受け「このデザインを形にすることができれば映画は成功する」との確信を抱いた[52][53]。スコットはスイスに飛び、ギーガーを招聘。2月14日からギーガーは交渉を開始した。彼は「この映画はエイリアンこそが主演俳優なのだ」と主張し、デザイン料として高額なギャラを要求したため、20世紀フォックスとの間で長い話し合いがもたれた。契約が成立したのは3月30日のことであり、この日から製作に加わることとなる[18]。しかし、ギーガーが描く異質な世界に拒否感を示した者もおり、キャロルは当初「ギーガーは異常だ」と酷評している[24]。
撮影中のギーガーは常に黒ずくめの服を着ていたため、一部のスタッフは彼を「ドラキュラ伯爵」と渾名した[54]。彼の指揮する美術チームは150人にもなる大所帯で、「モンスター部門」と呼ばれた[55][56]。
ギーガーは異星人の遺棄船やエイリアンのデザインを受け持つことになったが、徹底した完璧主義者であり、自身の作品に強烈な自負を持っていた彼は、製作現場で度々スタッフと衝突し、上層部に対しても自分の要求を曲げなかった。4月5日になってこの対立は決定的となり、20世紀フォックスはそれまでのギャラを支払いギーガーを解雇した。契約成立から僅か1週間のことであった[57]。これについてギーガー自身は、契約では彼のサインした契約書がなければセットの製作はできなかったが、必要なデザインが既に仕上がっており、サイン済みの契約書が手元にある以上もはや用はなかったのだろうと推測している。しかしギーガーは自分がすぐに必要とされることを予見して、チューリッヒでデザイン作業を続行した[45]。
その予測は的中し、指揮者のいない現場は早速迷走をはじめ、本来のデザインとは程遠いセットになっていった。結局、彼の必要性を上層部も認めざるを得ず、5月末になってギーガーは現場に復帰している[58][45]。出来損ないのセットは放置されず、現場の美術スタッフのモチベーションを高めるため、そして新しいセット製作の準備が整うまでの時間稼ぎのため、あえて完成まで製作された後でスクラップ処分になった。これはギーガーにとってはまったく理解に苦しむ出来事であったという[59]。
宇宙服のデザインはジャン・ジローが手がけた。彼は次の仕事のためフランスに帰るまでという条件付であり、参加していた期間は数日程度だった[12]。実物の製作はジョン・モロが担当している[33]。リプリーの衣装に限り、実際にNASAで使われていた軍用フライトスーツの古着を流用している[36][33]。
冒頭におけるタイトルデザインは骨や肉を組み合わせたデザインが考案されていたが使用されなかった[60]。実際に採用された「一文字ずつ完成していくタイトルロゴ」は、広告との整合性を考えスコットが依頼したもので、スティーブ・フランクフルトとリチャード・グリーンバーグがデザインしている[41]。
- ^ かつて日本の空港などでも、「外国人」の意味で「Alien」という表記が見られたが、次第に「Foreigner」表記に改められていった。
- ^ ソフト等に表示されたあらすじでは「2087年」と誤記されていることが多い。
- ^ 原語でのリプリーの肩書は「Warrant officer」であり、これを訳すと「准士官(准尉)」もしくは「兵曹長」(海兵隊では四等准尉)に相当する軍の階級である。ラストシーンの最終報告では、自らの肩書を「3rd Navigator」と称している。また、航海士としての姿が見られるのは本作のみである。
- ^ ディレクターズ・カット版では次のカットで悲鳴を聞いたリプリーとパーカーが駆けつけるものの、劇場公開版ではすぐに集合シーンに切り替わり、パーカーが皆にエイリアンの急成長とブレットの死を報告している。
- ^ 直径、周囲、距離のいずれなのかは不明。ソフトの日本語吹替では「周囲」となっている。しかし、明らかに小惑星よりはるかに大きい惑星(衛星)サイズであり、設定が矛盾している。
- ^ ただし脱出艇が2隻あるとなると、終盤でリプリーが自爆を解除しようとするシーンや、危険を承知でナルキッソスに戻るシーンが矛盾する(また、仮にナルキッソス一つしかないとしても、全乗組員が脱出艇に乗れないという別の矛盾も発生する)。
- ^ 船級の設定は『2』冒頭の査問会シーンでも登場している。
- ^ 後発の設定であり、劇中には具体的な年代を明記したシーンはない。なおブルーレイ版パッケージ裏の表記では2087年となっている。
- ^ スコットが2年前に監督した『デュエリスト/決闘者』もコンラッドの作品が原作である。
- ^ ウェイランドとなったのは『2』から。
- ^ この構想は、1990年にポール・バーホーベン監督の『トータル・リコール』として結実した。
- ^ オバノンは本作でデス・スター設計図とヤヴィンの戦いのカウントダウン映像のCG製作に携わっている。
- ^ 唐沢俊一による書籍の記述を元に表紙の写真が山口百恵であるという説が広まったが間違いであることを杉村喜光が指摘している[38]。
- ^ ランバートが履いているのは白のパンツにブーツだが、ジーンズとスニーカーになっている。
- ^ ファーストは後にティム・バートン監督『バットマン』(1989年)でアカデミー美術賞を受賞する。
- ^ 公開時のポスターや予告編に登場するエッグはこの当初のデザインを使用している。
- ^ チェストバスターが飛び出してきた際にランバートが悲鳴を上げるシーンは、驚いて転倒する直前のものである。
- ^ ウィーバーも、ナルキッソス内で冷凍休眠を行うために服を脱ぐシーンは、下着姿ではなく全裸で撮影する予定があったことをアクターズ・スタジオのインタビューで語っている。
- ^ 日本語字幕では原語の「Frontier」に「銀河系」という単語をあてているが、「国境」「辺境地帯」とする方が正しい。
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- ^ 石塚倫子 (2002, p. 26)
- ^ ハロルド・シェクター『体内の蛇 フォークロアと大衆芸術』(吉岡千恵子共訳、リブロポート、1992年)
- ^ a b c 映画秘宝EX(2012)、p.71
- ^ "か弱い存在と位置づけられていた女性が,(中略)アクションの担い手へと立場を変えたのである" 塚本まゆみ (2003, pp. 103–104)
- ^ 石塚倫子 (2002, pp. 31–32)
- ^ 難波江和英/内田樹 『現代思想のパフォーマンス』 松柏社、2000年、96-103頁。ISBN 4-88198-932-4。内田樹『女は何を欲望するか?』角川書店、2008年 ISBN 978-404710090-9、『映画の構造分析』晶文社、2003年 ISBN 978-4794965752 も参照
- ^ ネイサン(2012)、p.136
- ^ “‘Alien’ Series From Noah Hawley in the Works at FX, Ridley Scott in Talks to Executive Produce”. Variety. 2020年12月13日閲覧。
- ^ a b c “『エイリアン』ドラマ版の主人公決定 ─ 『ドント・ウォーリー・ダーリン』シドニー・チャンドラーが抜擢”. THE RIVER (2023年5月2日). 2023年5月16日閲覧。
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