噴水孔とは? わかりやすく解説

噴水孔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/15 14:03 UTC 版)

ルリホシエイの噴水孔

噴水孔(ふんすいこう、Spiracles)は特定の脊椎動物において眼の後方に存在する、通常は呼吸器系に繋がる開口部である。

Squalus bucephalusの噴水孔

無顎類では、口の直後にある第一裂(他の鰓裂と同型)がこれに相当する。初期の顎口上綱における進化に伴い、顎骨弓と舌骨弓に挟まれた鰓裂は下方から閉じられ、穴状に残存した部分が噴水孔となった[1][2]。噴水孔には偽鰓英語版と呼ばれる小さな器官が付属する。これは真の鰓に似た構造を持つが、真の鰓を通過した後の酸素豊富な血液が流れるという点で異なる[3]

多くのサメエイは噴水孔を通して水を口腔へ吸い込み、その後に鰓へと送り込む。噴水孔が頭部の上の方に位置することで、底質にほぼ潜り込んだ状態で呼吸できる種も多い[4]。高速遊泳に適応したサメの中には、前進によって強制的に鰓に水を通過させるラム換水 (ram ventilation) のみにより呼吸するものがおり、そのようなメジロザメ科シュモクザメ科などのサメは噴水孔を失っている[5]ギンザメは噴水孔を持たず、鰓蓋を用いた口腔ポンプ英語版によって呼吸する[6]

硬骨魚はギンザメ同様に鰓蓋を用いて呼吸する。最も基盤的条鰭類であるポリプテルスが肺に空気を吸い込むために噴水孔を用いることから、全ての硬骨魚と四肢動物の祖先は元来このように空気呼吸していたことが推測される[7]シーラカンスでは噴水孔は閉じており、これは深海生活に移行したため空気呼吸を行う肺を失ったことと関連している可能性がある[8]チョウザメ目は痕跡的な噴水孔を残すが[9]、全骨類ではさらに退化し[10]真骨類(全魚類の96%の種を含む)では完全に消失している。

初期の四肢動物では噴水孔は耳切痕英語版となり、未だ呼吸の機能を担っていたと推測される。これは現生の四肢動物では耳管となり、呼吸の機能は失ったものの口腔との接続を保っている[11][12][13]

脚注

  1. ^ Graham, Jeffrey B.; Wegner, Nicholas C.; Miller, Lauren A.; Jew, Corey J.; Chin Lai, N.; Berquist, Rachel M.; Frank, Lawrence R.; Long, John A. (2014). “Spiracular air breathing in polypterid fishes and its implications for aerial respiration in stem tetrapods”. Nature Communications 5: 3022. doi:10.1038/ncomms4022. PMID 24451680. 
  2. ^ Romer, A.S. (1949): The Vertebrate Body. W.B. Saunders, Philadelphia. (2nd ed. 1955; 3rd ed. 1962; 4th ed. 1970)
  3. ^ Romer, Alfred Sherwood; Parsons, Thomas S. (1977). The Vertebrate Body. Philadelphia, PA: Holt-Saunders International. pp. 316–327. ISBN 0-03-910284-X 
  4. ^ Will a Shark Drown if It Stops Moving?” (英語). HowStuffWorks (2008年6月9日). 2021年5月18日閲覧。
  5. ^ A list of sharks that are obligate ram ventilators :: Sacha Chua”. sachachua.com. 2021年5月18日閲覧。
  6. ^ Encyclopedia of Fishes. San Diego: Academic Press. (1998). pp. 69. ISBN 0-12-547665-5 
  7. ^ Graham, Jeffrey B.; Wegner, Nicholas C.; Miller, Lauren A.; Jew, Corey J.; Lai, N. Chin; Berquist, Rachel M.; Frank, Lawrence R.; Long, John A. (2014-01-23). “Spiracular air breathing in polypterid fishes and its implications for aerial respiration in stem tetrapods” (英語). Nature Communications 5 (1): 3022. doi:10.1038/ncomms4022. ISSN 2041-1723. https://www.nature.com/articles/ncomms4022. 
  8. ^ Clack, Jennifer A. (2012-06-27) (英語). Gaining Ground, Second Edition: The Origin and Evolution of Tetrapods. Indiana University Press. ISBN 978-0-253-00537-3. https://books.google.com/books?id=4j9AKGsQ1msC&q=%22spiracular+chamber+is+closed+in+coelacanths%22&pg=PA391 
  9. ^ Burggren, W. W. (August 1978). “Gill ventilation in the sturgeon, Acipenser transmontanus: unusual adaptations for bottom dwelling”. Respiration Physiology 34 (2): 153–170. doi:10.1016/0034-5687(78)90025-7. ISSN 0034-5687. PMID 30128. 
  10. ^ Read the eBook Commissioners' report by Ontario. Game and fish commission online for free (page 37 of 41)”. www.ebooksread.com. 2021年5月18日閲覧。
  11. ^ Lombard, R. Eric; Bolt, John R. (1979). “Evolution of the tetrapod ear: an analysis and reinterpretation” (英語). Biological Journal of the Linnean Society 11 (1): 19–76. doi:10.1111/j.1095-8312.1979.tb00027.x. ISSN 1095-8312. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1095-8312.1979.tb00027.x. 
  12. ^ Hearing in Stegocephalians”. tolweb.org. 2021年5月18日閲覧。
  13. ^ Eustachian Tube Dysfunction: Treatment, Causes, Surgery & Healing Time” (英語). MedicineNet. 2021年5月18日閲覧。

噴水孔

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軟骨魚綱」の記事における「噴水孔」の解説

軟骨魚類には眼の後方に噴水孔・呼吸孔と呼ばれる左右一対の孔がある。脊椎動物の顎が鰓弓変化によってできた時、前方鰓孔からなくなった後の痕跡である。通常遊泳型のサメでは単なる孔であるが、底棲サメや特にエイでは呼吸のための水の取り入れ口となっており、口から海底の砂を吸い込むことなく呼吸ができる。顎の形成前の鰓孔起源であり、原始的な特徴考えられ現生硬骨魚類では、チョウザメ除いて消失している。ギンザメでは胚の段階見られる孵化までにふさがる。耳小骨参照

※この「噴水孔」の解説は、「軟骨魚綱」の解説の一部です。
「噴水孔」を含む「軟骨魚綱」の記事については、「軟骨魚綱」の概要を参照ください。

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