R 上の非線型解の存在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/03/30 17:00 UTC 版)
「コーシーの函数方程式」の記事における「R 上の非線型解の存在」の解説
Q 上の線型性証明の議論は、任意の実数 α を用いてスケール変換した Q のコピー αQ := {αq | q ∈ Q} に対する函数 f: αQ → R でも有効である。つまり、そのような集合に f の定義域を制限すれば線型解に限られ、したがって一般に任意の q ∈ Q と任意の α ∈ R に対して f(qα) = qf(α) が成り立つ。しかし以下に示すように、実数体 R を有理数体 Q 上のベクトル空間と見ることにより、これら Q-線型解に基づいて極めて病的な解 f: R → R を見つけることができる。ただし注意すべきは、これが非構成的方法であることである。それはツォルンの補題によって示される、任意のベクトル空間に基底が存在することを用いた議論だからである。 さて、任意のベクトル空間は基底を持つのだから、実数体 R にも Q 上のベクトル空間としての基底が存在する。それは部分集合 ℬ ⊂ R であって、各 x ∈ R に対して ℬ の適当な有限部分集合 {xi}i∈I (つまり |I| ≤ ℵ0) が存在して、何れも非零な定数 λi ∈ Q を用いて x = ∑i∈I λi xi の形に一意的に表すことができるという性質を持つものである。しかし、そのような R の Q-基底を構成的な方法で明示的に与えることはできないから、求める病的な解函数も同様に明示的に構成することはできないことを再度断っておく。 既にみた通り、各 xi ∈ ℬ に対して f を xiQ に制限したものは f(xi) を比例定数とする Q-線型写像 f: xiQ → R; λi xi ↦ f(xi)λi でなければならない。各 x ∈ R が xi の一意的な有限線型結合として表されるから、f: R → R が加法的との仮定のもとで、 f ( x ) = f ( ∑ i ∈ I λ i x i ) = ∑ i ∈ I f ( λ i x i ) = ∑ i ∈ I f ( x i ) λ i {\displaystyle f(x)=f{\Big (}\sum _{i\in I}\lambda _{i}x_{i}{\Big )}=\sum _{i\in I}f(\lambda _{i}x_{i})=\sum _{i\in I}{f(x_{i})\lambda _{i}}} と置くことにより、任意の x ∈ R に対して f(x) は矛盾なく定まる。基底に対する f の値 f: ℬ → R に基づいて定義した f がコーシーの函数方程式を満足することを確かめるのは難しくない。さらに言えば、任意の解函数がこのようにして得られることも明らかである。特に、方程式の解函数が R-線型となるための必要十分条件は、f(xi)/xi が xi ∈ ℬに依らず一定となることである。ある意味、非線型解を明示できないにもかかわらず、コーシーの函数方程式の解函数は(濃度の意味で)「ほとんど」が実際に非線型な病的解である。
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