Iterとは? わかりやすく解説

Iter

名前 イテル

ITER

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/10 23:19 UTC 版)

ITER参加国

ITER(イーター[1])は、国際協力によって核融合エネルギーの実現性を研究するための実験施設である。この核融合実験炉は核融合炉を構成する機器を統合した装置であり、ブランケットダイバータなどのプラズマ対向機器にとって総合試験装置でもある。計画が順調に行けば原型炉、実証炉または商業炉へと続く。名称は、過去には International Thermonuclear Experimental Reactor の略称と説明された時期もあったが、現在、公式にはラテン語iter)に由来する、とされている[2]

日本では「国際熱核融合実験炉(こくさいねつかくゆうごうじっけんろ)」または「イーター(後述する協定の和文正文等における呼称)」と呼ばれている。

建設候補地として青森県六ヶ所村(日本)とカダラッシュフランス)が挙げられていたが、2005年6月、カダラッシュに建設することが決定された。2006年11月にはプロジェクトの実施主体となる国際機関を設立する国際協定である「イーター事業の共同による実施のためのイーター国際核融合エネルギー機構の設立に関する協定(Agreement on the Establishment of the ITER International Fusion Energy Organization for the Joint Implementation of the ITER Project)」に対する署名が行われた後、2007年10月24日に協定の効力が発生し、イーター国際核融合エネルギー機構が国際機関として正式に設立された。

ITERの目的

ITERの炉心モデル

21世紀初頭の現在、核融合に関する研究は世界各国で活発に行われており、装置の方式についても様々な種類のものが検討されている。しかし、これまでの研究装置では、実用化するに足る規模のエネルギー(数十万kW程度)を継続的に発生させた例はなく、瞬間値としても欧州連合のJET(Joint European Torus)が1997年に記録した1万6千kWが最大である。実用規模の核融合エネルギーが生じる条件下でのプラズマの物理は未知の領域であり、プラズマ物理における課題の解明が大きく期待されている。また、その解明は核融合エネルギーの実用化に不可欠な課題の一つである。ITERでは最大で50 - 70万kWの出力(熱出力)が見込まれており、実用規模のエネルギーを発生させる初の核融合装置となる。さらに、ITERではエネルギー発生プラントとしてのエネルギー収支も大きく向上され、運転維持に必要となるエネルギー(入力エネルギー)と核融合により生成されるエネルギー(出力エネルギー)との比(エネルギー増倍率)が従来装置では1程度であったところ、5 - 10を目標値としている。

また、核融合による発電を行う場合、長時間連続して核融合反応を生じさせる必要があるが、実用可能な程度に高い圧力のプラズマを保持するまでには至っておらず、韓国のKSTARが55秒を達成したのが最長である(低い圧力のプラズマについては、九州大学のTRIAMが5時間16分の記録を保持)。ITERではこれを超えて、エネルギー増倍率が10以上の場合でも300 - 500秒の長時間運転を達成できることに加え、エネルギー増倍率が5の場合には定常運転(連続運転)が可能となることを目標としている。

さらに、核融合装置はプラズマ閉じ込め用の超伝導コイル、プラズマ加熱用の加速器、保守のための遠隔ロボット等、高度な技術の集大成でもあり、ITERにおいてこれらの機器を統合的に運用して、核融合装置という特殊な環境においてもお互いに悪影響を及ぼさず、正常に運転するという経験を積むことは、核融合の実用化にあたって貴重な機会であり、これもITERの大きな目的の一つである。

一方で、核融合の実用化には、高い中性子照射に耐えるとともに、放射性物質に変化しにくい材料の開発が必要不可欠であるが、ITERは材料開発に用いるためには中性子の発生量が不十分であり、これを主な目的とはしていない。したがってITERと並行して核融合材料の開発を行う必要があり、IFMIF計画という、国際協力により材料開発のための照射設備の建設計画が、日本の青森県六ヶ所村で進行中である。

参加国

日本の位置

第二次世界大戦に敗れた後の日本は、核兵器や航空機、宇宙ロケットなどの軍事に関わる分野での研究と開発で大きく規制がかけられ、世界の第一線から大きく取り残されることとなった。一方、核融合と高温プラズマに関わる研究は、軍事兵器利用の可能性の余地がなかったため、比較的自由に進めることができた。1960年代からは、日本の核融合研究者が世界の研究者と共同して高温プラズマの研究に従事するようになった。1972年にはJFT-2というトカマク型の研究装置が日本で完成し、これは西側世界での本格的なトカマク装置としては世界で最初であった。これにより、高温プラズマと核融合技術では日本が世界をリードしてゆくことになった。1978年に始まり約10年間のINTOR計画(国際トカマク炉計画)が終了した1988年からIAEAの後援の下でITERの概念設計活動が、1992年からは工学設計活動が開始された。ITERの建設地は2006年にフランス・カダラッシュへ決まったが、日本はITER計画の当初からの計画設立国であり、たとえばプラズマ中の断熱層の発見によってITERの建設費を約半分にする提案を行い、1998年以降に設計変更まで成し遂げるなど、大きな成果を挙げてきた。現在は、日本がITER計画の主導権をとって推進しているといえる。まだ計画の域から実行段階の最初に差し掛かったIFMIF計画も、六ヶ所村での建設計画がゆっくりと進められている。

その後の展開としては、基礎科学としての慣性核融合装置「激光」を始めとして、ヘリカル型装置「ヘリオトロン」等の基礎的研究も進めながら、ITER後の核融合実証炉実現に向けて基礎から応用まで含んだ研究基盤整備を続ける予定であり、原子力委員会核融合専門部会や文部科学省研究計画・評価分科会核融合研究作業部会などの審議会や、民間団体である核融合フォーラムの「社会と核融合クラスター」などで議論が行われている。どの方式が最良の解になるのか現時点ではわからないが、エネルギー問題を解決する一つの解として、研究を進めることになる予定である。原子力委員会は、「第三段階核融合研究開発基本計画における今後の核融合研究開発の推進方策について」(2005年(平成17年)11月1日原子力委員会決定)において、トカマク方式とそれ以外について、「(1)トカマク方式については、 ITERの建設に必要な研究開発において我が国が主要な役割を果たして、ITERの工学設計が確定するとともに、次段階につながる研究開発計画を具体化するための基盤が形成された、(2)トカマク方式以外(ヘリカル方式とレーザー慣性閉じ込め方式等)においては学術研究として研究が着実に進展した」と評価している。また、原型炉段階への移行については、核融合専門部会の報告書である「今後の核融合研究開発の推進方策について」において「実用化を見据えることや民間事業者の参画を得ることも重要」としており、電力各社の判断も含まれることを示唆しているとされる。[3]

2013年1月28日超電導型核融合実験装置「JT-60SA」の建設が日本原子力研究開発機構の那珂核融合研究所で始まった[4]。2021年3月に完成し、試運転開始前に起きた絶縁損傷で[5]、2023年6月現在、改修のために停止していた試運転が再開されている[6]

建設候補地 決定までの経緯

1985年ジュネーヴにおいて行われた米ソ首脳会談において、レーガン大統領ゴルバチョフ書記長は平和利用のための核融合研究の重要性を認め、核融合エネルギー実用化のための国際協力について合意した。これを契機として、核融合研究において先行していた米国ソ連日本および欧州原子力共同体の代表者が協力の形態について1987年から協議を開始した。その後、IAEAの後援の下、これら4ヶ国によってITERの概念設計活動(Conceptual Design Activity, CDA)が1988年から1990年まで行われた。

概念設計活動の終了後、より詳細な設計と、建設に必要な研究開発を行うことを目的として、上記4ヶ国(ソ連1991年に崩壊したため、ロシアが継承)は工学設計活動(Engineering Design Activity, EDA)を開始することに合意し、「国際熱核融合実験炉のための工学設計活動における協力に関する欧州原子力共同体、日本国政府、ロシア連邦及びアメリカ合衆国の間の協定(EDA協定)」を1992年に締結した。当初の有効期間は6年間で、1998年に最終設計報告書が提出されたが、各国の財政事情から建設費用を軽減する必要が生じ、再設計のために工学設計活動の期間は3年間延長された。その後、財政上の問題や建設地選定の遅延等を理由として1999年に米国が離脱したが、他の3参加国により活動は継続され、延長後の最終設計報告書は2001年7月に完成した。

EDAの終了後、ITERの建設・運転等、計画の実施に必要となる国際協定について議論するために「ITER政府間協議(ITER Negotiations Meeting)」が開始された。カナダ2001年6月にオンタリオ州クラリントンを建設候補地として提案していたため、EDAに参加した日本欧州連合ロシアの3ヶ国と並んで政府間協議に当初から参加した。第1回政府間協議は2001年11月にトロントにおいて行われた。2003年2月に開催された第8回政府間協議において、米国が計画に復帰し、また、中国が新規に参加した。さらに2003年6月には韓国が、2005年12月にはインドが新規に参加したが、一方でカナダ2003年12月に離脱し、現在の参加国は日本欧州連合ロシア米国中国韓国インドの7ヶ国である。

建設候補地については、カナダが2001年6月にオンタリオ州クラリントンを提案した他、2002年6月に日本が青森県六ヶ所村を、欧州連合がカダラッシュ(フランス)とバンデヨス(スペイン)をそれぞれ提案し、4候補地が誘致を競っていた。これらの候補地を参加国が共同で調査することを目的として、「サイト共同評価(Joint Assessment for Specific Site, JASS)」が2002年9月から12月にかけて実施され、報告書 (PDF)2003年2月の第8回政府間協議において承認された。報告書は、差異はあるものの技術的にはどの候補地に建設することも可能としており、候補地間の総合的な優劣については言及しなかったため、候補地の決定は政治的な判断に委ねられた。その後、欧州連合は11月に候補地をカダラッシュに一本化し、また、カナダが連邦政府から財政的な支援を受けられなかったために12月に提案を取り下げたため、六ヶ所村とカダラッシュのみが候補地として残った。候補地の最終的な選定のために、参加国の閣僚級の代表による会合が12月に行われたが、日欧共に誘致を主張し、また参加国のうち米韓が日本支持、露中が欧州支持と拮抗したため、決定には至らなかった。その後、2005年5月にジュネーブにて日本とEUとの間で次官級協議が行われ、建設地決定に際して誘致国と非誘致国が合意すべき条件が話し合われた。後に発表された共同文書によれば、協議における合意内容は以下の通り。

  1. 誘致国は誘致できなかった国に対してITER建設費の10%分の調達枠を譲る
  2. 誘致国は誘致できなかった国にITER職員枠の10%を譲る
  3. 誘致国は誘致できなかった国が推薦するITER機構長候補を支持する
  4. 誘致できなかった国にITER関連施設を建設し、誘致国が建設費の50%を負担する

これを受けて6月に再度閣僚級会合が開催され、建設地はカダラッシュに決定された。また、この合意に従い、11月に開催された次官級会合において池田駐クロアチア大使が機構長候補として承認された。

プロジェクトの実施主体となる国際機関として「イーター国際核融合エネルギー機構(仮称)」の設立が予定されており、その設立根拠となる国際協定である「イーター事業の共同による実施のためのイーター国際核融合エネルギー機構の設立に関する協定」に対する署名が2006年11月21日にパリエリゼ宮において行われた。2007年10月24日、同協定の発効とともにイーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構、ITER International Fusion Energy Organization)が正式設立され、初代機構長には池田要元駐クロアチア大使が就任した。また、調達枠と職員枠については、上記合意に基づき日本がEUから割譲を受け、EU、日本、その他5か国が4:2:各1の分担となっている。

アメリカの誤算

1990年代初め、アメリカ合衆国は核融合の技術開発計画に関して2つの大きな選択肢を持っていた。1つは磁場閉じ込め方式であり、もう1つは慣性閉じ込め方式のひとつのレーザー核融合であった。当然これら2つは米国のみならず先進国の間では既知のアイデアであり、各国の核融合技術に関する研究者達も磁場閉じ込め方式のトカマク型がいいかヘリカル型がいいか、それとも慣性閉じ込め方式のレーザー核融合がいいかで検討がなされていたが、米国は1942年に始まる原子爆弾開発からの半世紀に渡る核物理学の研究実績の結果、水素爆弾の開発に関連した最高度の軍事機密であるコンピュータ・シミュレーションによって水素の核融合時の挙動を解き明かしたとの自負から、1990年半ばに他国に研究内容を一切明かさぬままローレンス・リバモア国立研究所内でレーザー核融合に関する実験施設の建設、つまり軍事研究としての性格を帯びたNIF計画(National Ignition Facility)を開始した。この秘密計画が順調に運んだため、米国は1999年にITER計画より離脱した。しかし、その年の末に設計上の大きな問題が隠蔽されていたことが判明し、必要予算は膨らみ、建設は大幅に遅れることが明らかとなり、計画は根本から見直されることとなった。全てをNIF計画に賭けていた米政府も、2003年2月にITER計画に復帰した[7]。 NIF計画は当初での建設費用は7億ドル以下であったが、1997年には21億ドルまで上昇し、2000年には33億ドルに増えて、完成予定も結局7年遅れる事となった。関連費用まで含めると50億ドルに届くとNIFの反対派は主張している。[8] この誤算以前は米国も磁場閉じ込め方式で世界のトップの位置を日仏と争っていたが、ITER計画に再加入した時点では大きく後れをとっており、計画の主導的地位には戻れそうにない。今もレーザー核融合のNIF計画は継続している。[9]

ITERの目標

公式のITERの目標は「平和的目的のための核融合エネルギーの科学的・技術的な実現性のデモンストレーション」となっている。ITERではいくつか個別の目標があるが、すべて実際に役立つ核融合動力炉の開発についての事柄である。

  • 短時間、外部入力エネルギーより10倍の融合熱によるエネルギーを発生させる(Q値=エネルギー増倍率:10)
  • Q値を5を超えて安定したプラズマを発生させる
  • 最大8分間の融合パルスを維持する
  • 「燃焼」(自己維持)プラズマを点火する
  • 核融合発電所に必要な科学技術と技法を開発する ― 超伝導磁石とロボットによる遠隔操作技術を含む
  • トリチウムの生産構想を立証する
  • 中性子を遮蔽し熱を生み出す技術を向上させる(D+T核融合反応での多くのエネルギーが高速中性子の形で得られる)

反応炉の原理と概要

重水素三重水素(トリチウム)を融合させると、ヘリウム4原子核(アルファ粒子)と高エネルギー中性子が生じる。

真空容器の1単位
  • 炉壁
    • ブランケット: 炉壁の最前線で冷却・燃料生産・遮蔽の役割を担う400-700個ほどのセグメントと呼ばれるタイル状のコンテナ
    • ダイバータ: 炉壁の最前線下部でプラズマ中の不純物を捕らえる
    • 真空容器: ブランケットやダイバータの背後に控える壁 超高真空を保つ
    • ポート: 炉壁に開けられた開口部 ブランケットやダイバータの交換装置やテスト装置の出入り口となる
  • 超伝導電磁石
    • センターソレノイドコイル: 6個が鉛直に重なって1本のコイルとなる
    • トロイダルフィールドコイル: 300トンx18基。D字形のコイルで、1基ごとの高さ16.5メートル、幅9メートル。製造費は1基あたり約100億円。2020年、三菱重工明石工場で製作されてフランスに輸出された[10]
    • ポロイダルフィールドコイル: 6本の円形コイル 最大直径24.7m
    • 超電導線:Nb3Sn 超伝導素線(高温超伝導ではない。直径0.83mm)576本と同寸法の銅線288本の撚線。古河電工で製作された。[11]
  • プラズマ加熱装置
    • 高周波加熱装置:
    • 中性粒子入射装置(負イオンビーム入射装置):
  • 支持体
  • 電力供給システム(超伝導電磁石、プラズマ加熱装置、冷却システム、その他)
  • 冷却システム(炉壁関連、超伝導電磁石)
  • 燃料供給システム
  • 燃料回収システム
  • 超高真空排気装置
  • 各種センサー類 および 制御機器類
  • 遠隔操作炉壁交換装置又はロボット
  • 建物

反応炉の諸元

(1998年度設計値)

  • 直径: 26 m
  • 高さ: 14.5 m
  • 大半径: 8.1 m
  • 断面の幅: 8.9 m
  • 体積: 4,250 m3
  • 表面積: 1,430 m2
  • 重量: 〜9,000 t(遮蔽体を含む)
  • 使用温度: 1×10-7 Pa
  • 真空性能: 10 μΩ以上
  • 寸法精度
    • 工場制作時: ±5 nm
    • 現場組立時: ±20 nm

(出典:「核融合工学概論」関昌弘編 日刊工業新聞社 ISBN 4-526-04799-6

プラズマの計画値

  • プラズマ大半径: 6.2 m
  • プラズマ小半径: 2.0 m
  • プラズマ体積: 840 m3
  • プラズマ電流: 15.0 MA
  • 軸でのトロイダル磁場強度: 5.3 T(テスラ)
  • 核融合出力: 500 MW
  • プラズマ保持時間: >400 s
  • エネルギー増倍率(Q値): >10

(出典:www.iter.org)

フランスの建設予定地

フランスのカダラッシュが赤丸 コート・ダジュールの近く

ITERの建設地選びはとても長引いた。フランスのプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏カダラッシュと日本の青森県六ヶ所村が有力であった。カナダのクラリントンが2001年5月に名乗りを挙げてきたが、2003年には引き下がった。2002年4月にスペインがヴァンデロスで立候補してきたが、2003年11月にEUはフランス単独で集中して応援することに決めたので、候補地選びは日本とフランスとの戦いとなった。

2005年5月3日にEUと日本は7月にこの件について話し合うことに合意した。2005年の6月28日、モスクワでの最後の会議において、参加各国はフランスのカダラッシュを建設地とする事で合意した。 ITERの建設は2008年より始められる予定となり、トカマク炉の組立は2011年よりと決まった。

建設に関わる国と機関

今のところ7つの国と地域がITER計画に関わっている。EU、インド、日本、中国、ロシア、韓国、そして、アメリカ合衆国である。EUの一つのポルトガルがブラジルをプロジェクトに加えたがっている。

カナダは当初は正式メンバーであったが、連邦政府の予算不足でメンバーから抜けることとなった。2003年の建設地レースからカナダが抜けたのも予算不足が原因であった。ITER参加国ではカザフスタンの参加を認めるか協議中である。

事業スケジュール

事業期間35年(建設10年、運転20年、密閉隔離5年)

  • 2025年12月 運転開始
  • 2035年12月 核融合運転[12]

注:報道によれば、部品の不具合のため運転開始は当初の予定は2025年であったが,早くても2034年に先送りになるという[13]

日時 できごと
2006-11-21 7 参加国 が正式に核融合炉への出資に合意
2008 ITERサイトの整備開始 [14]
2009 ITERサイトの整地完了 [14]
2010 トカマク建屋の工事が開始
2015 組立建屋の屋根据付完了[15]
2019 トカマク据え付け完了。 トーラス真空排気開始[14]
2034 プラズマ達成(予定)[13]
2039 重水素-トリチウム運転開始(予定)[13]

資金拠出

現状では、ITERの開発、建設と運用に関わる総資金は100億ユーロ(約1.6兆円)と見積もられている。2005年6月のモスクワでの会議で、ITER機構の参加メンバーは以下の比率での資金拠出に合意した。建設国であるフランスは50%を、EUとその他のメンバー国は10%をそれぞれ拠出する。伝えられるところでは、韓国の済州島で行なわれたITERの会議では非建設国メンバー6カ国は総費用の6/11、合わせて半分を少し超える拠出を行ない、EUは残る5/11を拠出する。工業的な協力でいうと他の5カ国、韓国、中国、インド、ロシア、アメリカの拠出はそれぞれ1/11で、合わせて5/11となる。日本は2/11でEUは4/11を拠出する。 なお、大韓民国に対しては経済的な支援ではなく知的な面での貢献が求められており、現在韓国内で稼働中の核融合実験施設KSTARで培われるであろう超電導磁石などの高度な技術の提供が予定されているとのことである[16]

日本の資金面での協力は非建設国としての総額の1/11であったが、EUは特殊な状況を考慮して、日本が建設契約の2/11を負担する代わりに、カダラッシュの研究者の2/11を占めることに同意した。これにより、EUの人員と建設に関わる費用拠出の割合は5/11から4/11となった。また、その他にEUと日本共同で幅広いアプローチという関連研究プロジェクトを行い、その拠点を日本に置くことになった。

国際的批判

国際グリーンピースのジャン・バンデ・プット(Jan Vande Putte)は「各国政府は、使えるエネルギーを一度も産み出したことがない危険なオモチャに、われわれの金をむだにするべきではない。その代わりに彼らは2080年ではなく今、豊富に存在する再生可能なエネルギーに投資すべきだ。」と発言した。[17]

コストで考えればITERは、米軍が開発している新型戦闘機のひとつ ジョイント・ストライク・ファイター(Joint Strike Fighter,JSF、統合打撃戦闘機)のプロジェクト費のおよそ5分の1である。[18]

フランスの環境団体は、プロジェクトITERは「危険」で「金がかかる」それでいて「雇用は産まない」といっている。およそ700の反核団体からなるフランスの協会「Sortir du nucléaire(核エネルギーは出て行け)」は、ITERは科学者がいまだ融合過程で扱う高エネルギーの重水素とトリチウム水素同位体を扱う方法を知らないので危険である、といっている。[19]

ITERプロジェクトは多くの技術的な挑戦課題に直面している。フランスのノーベル物理学賞受賞者、ピエール=ジル・ド・ジャンヌ(Pierre-Gilles de Gennes)(融合の専門家ではない)は「我々は太陽を箱に入れると言っている。これはすばらしい。問題は、我々がその箱の作り方を知らないことだ」と述べている。

技術的な懸念として核融合反応によって生じる 14MeV(1,400万電子ボルト)もの高エネルギー中性子が、製造された時点から障害を与える。[20]猛烈な中性子の爆撃に曝される中にあって、十分に長期間に渡って商業動力炉として成長しうるような炉壁の設計が行なえるか、それが可能ならばどうやって実現するか、国際核融合材料照射施設(IFMIF)において開発が進められている。 障害は主として高エネルギー中性子が結晶格子中の原子を正しい位置から叩き出すことで発生する。 未来の商業融合炉プラントでの関連する問題は、中性子の爆撃が反応炉自体の中の放射性を誘発することである。商業炉の保守と廃棄は困難で高価なものとなるだろう。また中性子束による超伝導電磁石の障害も問題である。

欧州議会の工業・研究・エネルギー委員会のGreen/EFA(European Greens ? European Free Alliance)のメンバーのレベッカ・ハームス(Rebecca Harms)は「今後50年間、核融合は気象変動を止めることはできないし、エネルギー供給の安定化を保障することもない」と主張。EUのエネルギー研究はどこか他の方向へ集中するべきだとするレベッカは「Green/EFAグループはそれらの予算をエネルギー開発に使うよりも、未来のために当を得た使い方を要求する。今こそ再生可能エネルギーに集中すべきである」とも述べている。フランスの緑の党の弁護士 ノエル・マメールは、現在の地球温暖化との戦いにさらに集中すべきなのに、ITERの結果によって無視されることになるとし、「これは温室効果との戦いにとっていいニュースではない。効果がないと判明するまでの30-50年間に総額100億ユーロの予算が1つのプロジェクトにつぎ込まれようとしている」とコメントしている[21]。ロバートバサード(Robert Bussard)やエリック・ラーナー(Eric Lerner)のような幾人かのトカマクでないシステムで作業している研究者は、よりリーズナブルでより費用対効果の高い核融合動力プラントの設計に予算を振り換えるべきだとITERを批判し、また「批判はいつもITER支持者の抵抗にぶつかる。彼らを潜在的な技術的・経済的問題に目を向けさせようとしても、多くの科学者の仕事がトカマク研究にかかっているのだ」とも述べている。

国際的批判への反論

ITER賛成派は、ITER反対派の実験にまつわる「根源的な危険」という典型的な主張に含まれる多くの批判は、誤解であり不正確であるとしている。商業融合動力ステーション設計に関する公表された目標は、分裂炉に比べて数百分の一以下の総放射性廃棄物しか出さず、それらは長命な放射性廃棄物ではなく、また分裂炉のような大規模な核分裂の連鎖反応によるメルトダウンの危険も存在していない。プラズマが炉壁に直接ふれただけで不純物が混じったプラズマは冷えてしまい、融合反応が止まってしまうからだ。さらに、分裂炉が数年持続するのに比べれば、融合炉の中に投入される燃料、総量わずか0.5グラムの重水素/三重水素で反応が長くても1時間持続できるだけである[22]。賛成者たちは、もし完成したら、巨大な核融合炉で実用的な電気が生み出せて、なおかつ一切のCO2 / SO2 / NOxガスを排出しないですむ点を強調している。

赤は原油価格が高い場合の予測。青は予測中央値。黄色は原油価格が低くなった場合の予測値
黄色が高成長経済の結果需要がさらに高くなった場合の予測値。青は予想の中央値。赤は経済があまり伸びなかった場合の需要予測値

科学的または工学的なプロジェクトのコストは、それから得られる利益によって慎重に計られねばならない。アメリカ合衆国だけでも年間の電気料金の総額は2,100億ドルであった[23]。アジア地域への1990年から1999年までの電力産業への企業投資額の総額は930億ドルであった[24]

これらの数字は単に現在の価格で計っているに過ぎない。原油価格は上昇してゆき、二酸化炭素の排出に圧力がかかり、今後も電力需要は伸び続ける限り、この数字は疑いなく増えてゆく。賛成派は、経済的に見ても現在の研究への投資が近い将来の大きな利益に結びつくと主張している。そして、世界中集めても年間10億ドル以下のITERへの投資が見合うだけの、他に代わりうる発電に関する同じような研究は存在しない。批判派の話と正反対に、ITERの推進派はこのプロジェクトが大きな雇用の機会を生み出すと主張している。ITERは数百の物理学者、エンジニア、物性科学者、建設作業者、技術者を短期的に雇用する。また、融合炉発電所が完成すればそれを中心とした大きな雇用を生むこととなることが予想される。

ITERを支持する人達は、猛烈な中性子束に耐えるという、考えを納得させ立証する唯一の方法は、その耐ええる被験材料を実験に基づいて示すことである、と強調する。そしてそれは、2つの実験施設にとって、実際のD-T燃焼プラズマとIFMIFで得られるものとの中性子のパワー分布の違いは、極めて重要な目的である[25]

ITERの目的は、将来適切に発電プラントが建設できるように、核融合発電に関する科学的で工学的な疑問を解明することである。材質の特性に関して、理論どおりの結果を得るには、あまりにも強力な中性子束のためにほとんど不可能に近い。また、実際のプラズマは外部で加熱して作ったプラズマとは全く違った特性を持つ[要出典]

支持する人達によれば、ITERの実験によって融合炉に関するこれらの疑問が解決した時、経済的な研究投資に対して、途方もなく大きな利益が得られるという。

最後に、支持派の人達は、現在の化石燃料資源の使用を何か選択肢へと切り替えることは、我々自身の環境問題であると指摘している。太陽光発電風力発電水力発電 などはすべて面積あたりの発電効率が低い点で劣っている。ITERの次のDEMOでは5,000 MWを発電する予定であり、これは大きな核分裂発電プラントを超える規模となる[26]。もし融合技術が商業的に成功すれば、火力発電などからの温室効果ガスの発生が完全に抑えられるので、環境に与える影響は最小限になり、同時に長命な核廃棄物の問題は消滅する。

脚注

  1. ^ ITER職員公募プレエントリー”. なか国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)日本国内機関窓口. 2023年8月2日閲覧。
  2. ^ ITER計画”. 日本原子力研究開発機構. 2024年8月10日閲覧。
  3. ^ http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2005/kettei/kettei051101.pdf (PDF)
  4. ^ “写真で振り返る2013年”. 電気新聞. (2013年12月27日). http://www.shimbun.denki.or.jp/news/special/20131227_01.html 2014年1月19日閲覧。 
  5. ^ JT-60SAの統合試験運転の中断と調査状況について - 量子科学技術研究開発機構”. www.qst.go.jp. 2023年7月5日閲覧。
  6. ^ JT-60SA 統合試験運転の再開について ~今年秋の初プラズマ達成に向けて~ - 量子科学技術研究開発機構”. www.qst.go.jp. 2023年7月5日閲覧。
  7. ^ w:en:National Ignition Facility
  8. ^ http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20050530306.html
  9. ^ ブルーバックス 新核融合への挑戦 狐崎晶雄 吉川庄一 ISBN 4-06-257404-7
  10. ^ 核融合実験炉用の300トン巨大コイル初号機完成 三菱重工が初公開”. 毎日新聞 (2020年1月30日). 2020年1月30日閲覧。
  11. ^ ITER(国際熱核融合実験炉)向け超電導ケーブルを受注|2014|ニュースリリース|古河電気工業株式会社”. www.furukawa.co.jp. 2021年1月4日閲覧。
  12. ^ https://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/021/005.htm
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