リンドラー座標とは? わかりやすく解説

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リンドラー座標

(等固有加速度運動 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/14 15:05 UTC 版)

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相対論的物理において、リンドラー座標チャート (Rindler coordinate chart) は平坦な時空、すなわちミンコフスキー真空を表現するために重要かつ有用な座標チャート英語版である。リンドラー座標系は、ミンコフスキー空間内を一様加速度運動している基準系を記述する。特殊相対性理論によれば、一様な加速度を受ける粒子は双曲線運動英語版を行う。このような各粒子が静止して見えるのがリンドラー基準系である。

リンドラーチャートという名前は、この座標チャートの使用を普及させたウォルフガング・リンドラー英語版に由来する。ただし、アルバート・アインシュタインネイサン・ローゼンの1935年の論文[1]に既に使われていた概念である。

デカルトチャートとの関係

g=1 のリンドラーチャートをミンコフスキーダイアグラムにプロットしたもの。破線はリンドラー地平線を表わす。

リンドラーチャートを得るには、まず下の計量を持つデカルトチャート慣性系)から始める(ただし、c=1 とする)。

いくつかのリンドラー観測者(紺の双曲線)をデカルトチャート上に描いたもの。45°の赤線はリンドラー地平面を表わす。リンドラー座標系は赤線よりも右にのみ定義される。

ローレンツ多様体上の一般の時間的合同と同様、この合同にも kinematic decomposition[訳語疑問点] が存在する(レイチャウデューリ方程式を参照)。この場合、リンドラー観測者の合同の「膨張」と「渦度」は消える。膨張テンソルの消失は、「各観測者が隣の観測者と一定の距離を保つ」ということを意味する。渦度テンソルの消失は、各観測者の世界線が他の観測者の世界線に巻き付いたりしないということを意味する。これは局所的には「渦」が存在しないということである。

各観測者の加速ベクトル英語版共変微分を用いて以下のように得られる。

リンドラーチャート上に描いた代表的ミンコフスキー観測者(紺色の双曲正割曲線)。赤線はリンドラー地平面である。

別の基準系を導入してみよう。ミンコフスキーチャートにおける自然な選択は、以下のようなものである。

t=0 の空間的超断面に投影した、いくつか選んだリンドラー観測者のヌル測地線(黒の半円状弧)。リンドラー地平面は紫の平面として描かれている。

第一、第三、第四の式から、直ちに「一次積分」を得ることができる。

二人のリンドラー観測者(紺の縦線)の間の「レーダー距離」の作業的意味。リンドラー地平面は左端の赤い縦線で示されている。レーダーパルスの世界線と共に、世界点 A(中央下), B(右中央), C(中央上) における(適切にスケールした)光円錐も示す。

最初の一つは、ここまでに暗黙に採用されていたもので、空間的超断面 t = t0 上における誘導リーマン計量である。これを、この誘導リーマン計量に対応するという意味で「定規距離」と呼ぼう。しかし、この距離の作業的な意味は直ちに明らかなわけではない。

物理測定の立場からいってより自然な二つの世界線の間の距離概念は、「レーダー距離」である。これはある観測者の世界線上の世界点 A からヌル測地線を小物体に向けて飛ばし、世界点 B で反射して観測者に返し、世界点 C で受けとるのにかかった往復時間を観測者の持つ理想時計で測り、割ることで計算できる。

(ミンコフスキー時空では、幸いにも二つの世界線の間に複数のヌル測地線が存在するという可能性については考えなくてもよい。しかし、これを宇宙論的モデルに適用するのはそう単純にはいかない。この二人の観測者間の距離概念は、観測者の入れ替えに対して対称な概念であることに注意が必要である。)

具体的には、座標 x = x0, y = 0, z = 0 のリンドラー観測者と座標 x = x0 + h , y = 0, z = 0(前者は後続であるから、追随するためにより強い加速度をうけていることに注意。) リンドラー線素において dy = 0, dz = 0 と置くことにより、すぐに加速度方向のヌル測地線の満す方程式を得ることができる。

したがって、これら二人の観測者の間のレーダー距離は以下で与えられる。

これは定規距離より若干小さいが、近傍の観測者間では違いは無視できる。

三つめの距離概念は次のように説明される。(点ではなく)なんらかの物体の上に置かれた単位円を観測者の場所から見たときの見込み角を計測する。これを「光学直径距離」と呼ぶ。ミンコフスキー時空上におけるヌル測地線の単純な性質から、(加速方向に沿って並んだ)リンドラー観測者間の光学的距離は容易に決定できる。スケッチを書けば、光学直径距離が のようにスケールすることは納得できるだろう。したがって、後続の観測者が先行する観測者までの距離を推定する(h > 0 の)場合、レーダー距離よりも若干長い定規距離よりも光学距離が若干長いことになる。先行する観測者から後続の観測者までの距離は読者に考えて欲しい。

ほかにも距離概念はあるが、要点は明確である。これらの様々な概念による、あるリンドラー観測者間の距離の値は一般的に一致しないが、全ての概念で「リンドラー観測者は一定の距離を保つ」ということは一致するのである。近傍のリンドラー観測者の間が相互に定常であることは、リンドラー合同の膨張テンソルが恒等的にゼロであることの帰結である。しかし、この剛体性はより大きなスケールでも保たれることはここまで見てきた通りである。この剛体性は、相対論的物理学においては(少くとも不均一な応力をかけることなしに)棒を剛体的に加速することはできない(および円板を剛体的に回転させることはできない)というよく知られた事実に対するに、真に特筆すべき性質である。この事実を明らかにする最も簡単な方法は、ニュートン力学では剛体を「蹴った」場合、その全ての物質要素は瞬時に運動状態を変える。これは当然のごとく、光速よりも速く物理的効果のある情報を伝えることはできないとする相対性原理に反している。

この帰結として、棒の長さに沿って各所に外力を加えるときは、棒の異る箇所には異なる大きさの加速度を与えなければ、いつか棒は限界を越えて膨張し最終的には破壊されるということを示すことができる。換言すれば、破壊されずに加速され続ける棒はその長さに沿って変化する応力を感じなければならないということである。さらには、力を時間的に変化させるどんな試行実験でも、「蹴る」にしろ徐々に加速するにしろ、物体の違う部分が外力に対して光速を超えて反応を示すような、相対論とは相容れないモデルを避けなければならないという問題からは避けて通れないということが言える。

定規距離の作業的意味の問題に戻ると、観測者間で非常にゆっくりと小さな定規を片方の端からもう片方の端まで繰り返し手渡していった場合に得られる距離に他ならないことがわかる。しかし、この理解を詳細にわたって正当化するためには、なんらかの物性モデルについての考察が必要となる。

曲がった時空への一般化

ここまで説明してきたリンドラー座標は、フェルミ正規座標英語版という形で曲がった時空へと一般化できる。この一般化は根本的には適切な正規直交四つ組の構築と、それらのフェルミ・ウォーカー移動による適当なトラジェクトリ上の移動に関わっている。詳しくは、Ni & Zimmerman (1978)を参照されたい。この一般化により、実際に地球上の研究室から慣性および重力の効果を研究したり、さらにはより興味深い慣性・重力カップリング効果を研究したりすることができる。

関連項目

  • ベルの宇宙船パラドックス英語版: ときたま議論になる主題。リンドラー座標系を用いて考えることができる。
  • ボルン座標英語版: ミンコフスキー時空における加速する観測者の運動に適用される、もう一つの重要な座標系
  • 合同 (一般相対論)英語版
  • エーレンフェストのパラドックス英語版: ときたま議論になる主題。しばしばボルン座標を用いて考えられる。
  • 一般相対論における基準系場英語版
  • 一般相対性理論
  • ミルンモデル英語版
  • レイチャウデューリ方程式
  • ウンルー効果

脚注

  1. ^ Einstein, Albert; Rosen, Nathan (1935). “A Particle Problem in the General Theory of Relativity”. Physical Review 48: 73. Bibcode1935PhRv...48...73E. doi:10.1103/PhysRev.48.73. 
  2. ^ Koks, Don: Explorations in Mathematical Physics (2006), pp. 240-252

参照文献

背景知識として有用:

  • Boothby, William M. (1986). An Introduction to Differentiable Manifolds and Riemannian Geometry. New York: Academic Press. ISBN 0-12-116052-1  See Chapter 4 for background concerning vector fields on smooth manifolds.
  • Frankel, Theodore (1979). Gravitational Curvature: an Introduction to Einstein's Theory. San Francisco : W. H. Freeman. ISBN 0-7167-1062-5  See Chapter 8 for a derivation of the Fermat metric.

リンドラー座標系:

  • Misner, Charles; Thorne, Kip S. & Wheeler, John Archibald (1973). Gravitation. San Francisco: W. H. Freeman. ISBN 0-7167-0344-0  See Section 6.6.
  • Rindler, Wolfgang (2001). Relativity: Special, General and Cosmological. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-850836-0 
  • Ni, Wei-Tou; Zimmermann, Mark (1978). “Inertial and gravitational effects in the proper reference frame of an accelerated, rotating observer”. Physical Review D 17 (6): 1473–1476. Bibcode1978PhRvD..17.1473N. doi:10.1103/PhysRevD.17.1473. 

リンドラー地平面:




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