樊氏
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| 樊氏 | |
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三国演義(繡像本)「趙子龍計取桂陽」
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| 後漢 | |
| 出生 | ?(生年不詳) |
| 死去 | ?(没年不詳) |
| 拼音 | Fán Shì |
| 兄弟 | 義弟:趙範 義妹:銭氏※京劇 弟:樊虎※京劇2001年 |
樊氏(はん し、拼音: Fán Shì、生没年不詳)は、中国後漢末期の女性。荊州桂陽太守・趙範の兄嫁。諱は不詳。
事跡
樊氏については、正史『三国志』の本文には記述がない。蜀書「趙雲伝」において、裴松之が注釈で引用した『趙雲別伝』にのみ記述がある人物である。
劉備が長江南岸を平定したとき、桂陽太守の趙範に代わって趙雲が太守になった。
その際に趙範は、自身の兄嫁の樊氏が中華一の色香の持ち主で、既に夫を失った未亡人だったため、趙雲に引き合わせた。しかし趙雲は「貴男とは同姓なのだから、貴男の兄は我が兄も同然ではないか」と言い、同姓を理由に固辞して承諾しなかった[注 1]。当時、承諾するよう趙雲に勧めた人もいたが、趙雲は「趙範は追い詰められて降ったに過ぎず、彼の心も知れたものではない。また天下にも女性は少なくない」と言い、ついに娶らなかった。その後、趙雲の警戒通り趙範は逃亡したが、趙雲は全く気にしなかったという[1]。
趙範と樊氏がその後どうなったかの記述はない。
盧弼の『三国志集解』では「趙雲が樊氏を娶らなかったのは、関羽が秦宜禄の前妻の杜氏を娶りたいと曹操に請願したのに対し、はるかに賢明な行ないである」と称えている[2]。
三国志演義
小説『三国志演義』第52回に登場。趙雲との顛末が詳細に描かれるが、正史同様に二人は結ばれない(→趙範#演義での趙範)[3]。
京劇
取桂陽
京劇・三国志の演目のひとつ(別名:打趙範[4]、または拳打趙範、趙子龍招親)。
演目内容は『演義』とほぼ同じで、樊氏と趙雲が結ばれることはない。趙範の妻の銭氏(後述の『2001年京劇三国志スペシャル』での名は金氏)といったオリジナルの登場人物が追加されている[5]。京劇以外の地方劇にも、同様の演目がある[6]。
2001年日本公演版・龍鳳呈祥
2001年に財団法人日本青少年文化センター創立50周年記念事業として日本で上演された『京劇三国志スペシャル』の『龍鳳呈祥』(甘露寺(美人計)・回荊州の総称で、『演義』第54-56回に相当)では、この公演のために「取桂陽」が新たに加えられ、樊氏は文武両道に秀でた女将軍・樊玉鳳として描かれ、趙雲と結ばれるという独自の展開となっている[7]。
そのため、通常の『龍鳳呈祥』は劉備と孫夫人(孫尚香)の婚姻を描く演目であり、「取桂陽」は含まれない[8]。趙雲と樊玉鳳が結ばれるのは、この『2001年京劇三国志スペシャル』に限った演出である[7][注 2]。
以下は『2001年・龍鳳呈祥』のあらすじ[9]。
赤壁の戦いで孫劉(孫権と劉備)連合軍が魏の曹操を破り、諸葛亮の「天下三分の計」は実現したかに見えた。しかし、魏の残党は依然として勢力を保っており、諸葛亮は趙雲に桂陽攻略を命じる際、「戦わずして桂陽を取れ」「龍は鳳に七分を譲れ」と意味深な言葉を添えた。「龍」が趙雲の字「子龍」を指すのは明らかだが、「鳳」の意味は趙雲には皆目見当がつかなかった。桂陽太守の趙範は、趙雲との戦を前に自信を失い、兄嫁の寡婦(未亡人)、樊玉鳳の助言に従い、戦わずして降伏する。趙雲と趙範は同姓同郷の同年生まれと知り、意気投合して義兄弟の契りを結んだ。宴席で趙範と妻の金氏は、樊玉鳳との縁談を持ちかけるが、趙雲は「義兄弟の姉との婚姻は道義に悖る!」と怒って固辞し、単身桂陽攻略を決意する。すると、戦場に現れたのは綸子を纏った武者姿の樊玉鳳……これこそ諸葛亮の言う「鳳」だった。
趙雲は樊玉鳳の美貌に、樊玉鳳は趙雲の勇姿に惹かれ合うが、樊玉鳳は容赦なく攻めかかる。趙雲は諸葛亮の言葉通り七分を譲り(わざと敗れる)、そこへ諸葛亮が現れ、趙雲と趙範の仲を取りなし、両者は和解する。
呉の孫権から妹の孫尚香との縁談を持ちかけられた劉備は、趙雲を伴い呉へ赴く。これは周瑜が仕組んだ劉備暗殺の計略であったが、樊玉鳳とその弟、樊虎の助けもあり、趙雲は劉備と孫尚香を守り抜き、無事荊州へ帰還する。祝宴が開かれ、劉備と孫尚香に手を取られた趙雲と樊玉鳳は、めでたく結ばれるのであった。
【取桂陽】
【甘露寺(美人計)・回荊州】
家族
民間伝承
- 民間伝承によると、樊氏は樊玉鳳のほかに樊雲仙・樊娟と呼ばれていたらしい。正史・演義同様、趙雲とは結ばれない。[要出典]
関連作品
講談・漫画
- 『長坂雄風』
袁闊成による、趙雲を主題にした『三国志演義』の評書(説話)作品。樊氏が趙雲の妻となる[11]。 - 『火鳳燎原』
陳某の漫画作品。趙雲の長子である趙統(燎原統)が、燎原火(趙雲)と樊氏の子という設定になっている。
ゲーム
- 『三國志シリーズ』
コーエーテクモゲームス(旧:光栄)のシミュレーションゲーム。樊氏の名で登場。 - 『真・三國無双ブラスト』
コーエーテクモゲームスのモバイルゲーム。樊玉鳳の名で登場(CV:斉藤梨絵)。 - 『三国趙雲伝』
趙雲を主題にした中国のアクションロールプレイングゲーム。樊娟の名で登場。リンク先はSteam版(新版)。 - 『Three Kingdoms Zhao Yun』
『三国趙雲伝』のリメイク作品。原題は『趙雲伝:雲漢騰龍』。
3人のヒロイン(馬超の妹:馬雲騄、公孫瓚の娘:公孫玥、趙雲の幼馴染:樊娟)の一人(DLCページ参照)[13]。 - 『三国殺』
Yoka Gamesのカードゲーム。樊玉鳳の名で登場。
脚注
注釈
出典
- ^ 『三國志』巻三十六「趙雲伝」裴松之注《雲別伝》従平江南,以為偏将軍,領桂陽太守,代趙範。範寡嫂曰樊氏,有国色,範欲以配雲。雲辞曰:「相与同姓,卿兄猶我兄。」固辞不許。時有人勧雲納之,雲曰:「範迫降耳,心未可測;天下女不少。」遂不取。範果逃走,雲無繊介。
- ^ 『三国志集解』 樊氏国色,而子龍不取,賢于関羽之乞娶秦宜禄妻去遠矣。
- ^ 『三国演義』第五十二回「諸葛亮智辞魯粛・趙子龍計取桂陽」
- ^ 沈・譚 1996, p. 126.
- ^ 趙 2019, pp. 270–271.
- ^ 中国中央電視台 2016(外部リンク:湘劇)
- ^ a b 有限会社楽戯舎 2001, pp. 11, 20–21.
- ^ “《CCTV空中劇院》 20240101 京劇《龍鳳呈祥》” (中国語). CCTV中国中央電視台. 2024年1月1日閲覧。
- ^ 有限会社楽戯舎 2001, pp. 29–41.
- ^ 有限会社楽戯舎 2001, p. 24.
- ^ 袁闊成評書『長坂雄風』中央人民広播電台、1988年。
- ^ 袁 2020(外部リンク:講談)
- ^ “[CJ2023]三国志の趙雲を主人公にしたアクションRPG「Three Kingdoms Zhao Yun」が出展。日本語版も制作予定”. ウェイバックマシン(4Gamer.net). 2023年7月31日閲覧。
参考文献
中国語文献
- 『三国志』
- 『三国志演義』
- 『三国志集解』
- 沈伯俊、譚良嘯『三国志演義大事典』潮出版社、1996年。ISBN 4267012385。
- 趙春陽『完美武将:趙雲』江蘇鳳凰文芸出版社、2019年。 ISBN 9787559436634。
日本語文献
- 有限会社楽戯舎『京劇三国志スペシャル「龍鳳呈祥」』有限会社楽戯舎、2001年。
関連項目
外部リンク
- 講談“《名家書場》袁闊成評書《常山趙子龍》第15集〈取桂陽〉” (中国語). CCTV中国中央電視台 (2020年7月23日). 2025年10月5日閲覧。
- 湘劇“戯曲採風:湘劇《趙子龍計取桂陽》晋京演出” (中国語). CCTV中国中央電視台 (2016年10月1日). 2025年11月3日閲覧。
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