忘却の椅子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 00:09 UTC 版)
くじに負けたペイリトオスが誰を妻に選ぶべきかゼウスの神託を伺ったところ、「わが娘でもっとも高貴なペルセポネーをなぜ妻としないのか」というお告げがあった。これは皮肉とも警告とも受け取れたが、ペイリトオスは真に受けてタルタロスに入ることとし、テーセウスにともに行くよう求めた。タルタロスに入って戻れた人間はオルペウスかシーシュポスくらいでごく希であり、さすがのテセウスもこの話には気が乗らなかったが、結局誓いに縛られて同行した。二人は冥界に赴き、ハーデースの面前に立った。ハーデースに勧められて二人が椅子に腰掛けたところ、その椅子は「忘却の椅子」であった。椅子に捕らえられた二人はたちまち何もかも忘れて座りつづけた。 4年後、ヘーラクレースがケルベロスを生け捕りにするためにタルタロスに降りてきたとき、テーセウスとペイリトオスは椅子に座ったままだった。二人は口もきけず、ただ手をさしのべて助けを求めた。ヘーラクレースはテーセウスを解放したが、このときテーセウスの尻の肉の一部が椅子に張り付いたまま残ったという。次にペイリトオスを椅子から助け起こそうとしたとき、大地が振動した。ヘーラクレースはペイリトオスを助け出すことができないことを悟り、そのまま脱出したという。 これには、ヘーラクレースは二人とも助けたという説、逆に二人とも助けられなかったという説がある。このほか、テーセウスとペイリトオスはイアーソーン率いるアルゴナウタイに参加したともいうが、アルゴー船の冒険は二人がタルタロスに幽閉されていたときのことで、どちらも参加していないとする説もある。
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