別伝 (中国)とは? わかりやすく解説

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別伝 (中国)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/18 12:54 UTC 版)

別伝とは、主に中国後漢時代から東晋時代までにおいて多く作成された、ある個人を対象とする伝記である。

概要

別伝の多くは、名士を中心とした知識人層の名声を高める目的を持っていたが、中にはあまり重要視されなかった人物に焦点を当てるためや[1]、あるいは晋代以降に世家の子弟が多く就任していた秘書郎中国語版(皇室の蔵書を管理し、校正や編纂を行う官吏)や佐著作郎中国語版(国史の編纂をする著作郎中国語版の下に位置する官吏)の課題として書かれたものもあった[2]

後漢時代から続く人物評の流行のみならず、魏晋時代における名士層の気風の発達に伴い盛んに製作された別伝は、対象の人物に関する雑多な内容が盛り込まれており、「正統」である史書とは異なる視点や性質を有するほか[3]、表現に小説的技法が見られるのが特徴である[4]。裴媛媛によれば、別伝の作者名が往々にして無記載である理由としては、単なる逸名によるもの以外では、別伝が成立する初期段階では書面ではない逸聞の寄せ集めに過ぎなかったために、それを引用する後世の歴史家たちが便宜的に「別伝」という通称を用いたこと、またそれらの逸話が単独の人物ではなく複数人から伝わったことも挙げられる[5]

また『三国志』に注釈を施した裴松之が指摘しているように、家伝由来の伝記であるために該当する人物の失点を隠して記されたものも存在した[6][7]。さらには、顔師古が『漢書』の注釈において、東方朔の別伝について「みな実際の出来事ではない」と難じたように、怪奇現象などの確証に欠ける逸話が載せられることもあった[8]。とはいえ、全ての別伝がそれらと同様に信憑性が低いとは限らず、別伝には依然として一定の史料的価値を見出すことができる[9]

しかし国家が編纂した正史と比較した場合、別伝の信憑性は相対的に低く評価される[10]。たとえば『趙雲別伝』は、武将という当時の社会では重きを置かれなかった立場にある人物の別伝であるが[11]、偏私の記述が多いとも指摘されている[12]、また別伝作品を含む人物伝については、『隋書』の雑伝評価を踏襲し、史官の手慰みによるものとして問題視されることもある[13][14]

脚注

出典

  1. ^ 楊 2009, p. 58.
  2. ^ 朱 2006, p. 65.
  3. ^ 田 1995, pp. 77–78, 80; 趙 2003, p. 58; 朱 2006, pp. 62–64.
  4. ^ 王 2004, p. 74.
  5. ^ 裴 2012, p. 107.
  6. ^ 田 1995, p. 80; 楊 2009, p. 58.
  7. ^ 『三国志』巻14孫資伝注引『孫資別伝』
  8. ^ 『漢書』巻65東方朔伝顔師古注. 中国哲学書電子化計画. 2024年6月18日閲覧, "謂如《東方朔別傳》及俗用五行時日之書,皆非實事也。"
  9. ^ 矢野 1967, pp. 30–31; 田 1995, pp. 77, 80.
  10. ^ 永田 2015, p. 163; 林 2022, p. 264.
  11. ^ 仇 2006, p. 42.
  12. ^ 林 2022, p. 264.
  13. ^ 永田 2015, p. 163.
  14. ^   (中国語) 『隋書』巻33経籍志二, ウィキソースより閲覧, "又漢時,阮倉作《列仙圖》,劉向典校經籍,始作《列仙》、《列士》、《列女》之傳,皆因其志尚,率爾而作,不在正史。後漢光武,始詔南陽,撰作風俗,故沛、三輔有耆舊節士之序,魯、廬江有名德先賢之贊。郡國之書,由是而作。魏文帝又作《列異》,以序鬼物奇怪之事,嵇康作《高士傳》,以敘聖賢之風。因其事類,相繼而作者甚眾,名目轉廣,而又雜以虛誕怪妄之說。推其本源,蓋亦史官之末事也。載筆之士,刪采其要焉。魯、沛、三輔,序贊並亡,後之作者,亦多零失。今取其見存,部而類之,謂之雜傳。" 

参考文献

日本語文献

中国語文献

関連項目

  • 曹操 - 『曹瞞伝』と題する別伝が記された。

以下の人物たちは、いずれも『隋書』において雑伝に分類された著作を持つ。

  • 劉向 - 『列女伝』の著者。
  • 皇甫謐 - 『高士伝』、『逸士伝』、『列女伝』などの著者。
  • 曹丕 - 『列異伝』の著者とされる。



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