再生サイクルとは? わかりやすく解説

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再生サイクル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/19 16:42 UTC 版)

熱機関の再生サイクル(さいせいサイクル、: regenerative cycle)とは、熱機関から排出されて廃棄されていた熱を活用して、元のサイクルの加熱の一部を代行するサイクルのことである。またこのような操作を再生とよぶ。これにより外部より加える加熱量が減るので、熱効率が向上する。

スターリングサイクルエリクソンサイクルでは、等積加熱・冷却または等圧加熱・冷却を再生でまかなえば、外部熱源との熱の出入りは等温加熱・冷却だけとなるので、カルノーサイクルに等価になる。現実の熱機関では、ボイラ蒸気タービンランキンサイクル)やガスタービンブレイトンサイクル)で広く再生が行われている。

再生ランキンサイクル

ランキンサイクルの熱効率を上げるには、タービン入口の蒸気を高温高圧化するのが有効であるが、高圧になるにつれてその効果は鈍くなる。その原因は、ボイラへ給水される低温の水の加熱に多量の熱量が必要とされることにあり、高圧になればなるほど、その比率が増すからである。再生ランキンサイクルでは、この低温の水の加熱をサイクル内でまかなうことにより実質的に削除し、熱効率を大幅に向上させることができる。

1 段抽気再生サイクル

再生サイクルの構成

図 1 再生ランキンサイクルの構成

図 1 のように、タービン膨張途中の蒸気 H1[注釈 1]を一部取り出して(抽気)、給水加熱器 E1 に導いてボイラへ送る水(給水)に混合し、給水を加熱するのに使用する。

タービン流入蒸気量 1 kg に対する抽気量を m1 kg とすると、タービンの前半(高圧)部分には 1 kg の蒸気が流れ、後半(低圧)部分には (1 - m1) kg が流れる。タービン後半部分を出た湿り蒸気は、復水器で凝縮されて飽和水となり、ポンプにより給水加熱器へ送られて抽気と混合される。

抽気と給水を混合するためには、両者の圧力を等しくしなければならないので、給水ポンプを CP[注釈 2]と P の 2 つに分けて、その間に給水加熱器 E1 を配置する。

給水加熱器に入る給水は復水ポンプ CP で加圧されているので、サブクール水(圧縮水)となっている。後述のようにポンプ仕事を無視できるので、このサブクール水の比エンタルピーはほぼ hC のままと考えてよい。給水加熱器 E1 では比エンタルピー hC のサブクール水 (1 - m1) kg と、H1 の抽気 m1 kg を混合して、h1 の飽和水 1 kg を作る[注釈 3]

こうなるように、抽気量 m1 を調整する。飽和水 h1 を給水ポンプ P でボイラ圧まで加圧してサブクール水としてボイラへ送る。

抽気により給水加熱器で加熱した分だけ、ボイラでの加熱量が少なくてすむ。同時に、タービンで取り出す仕事量も抽気した分だけ減少するが、 ボイラから低温での加熱を削除した効果の方が大きい。これは、ボイラで熱を加える水の温度範囲がより高温側にシフトしたことに対応しており、 熱力学第二法則(カルノーの定理)の当然の結果である。このことは、以下のように具体例で計算して評価するか、または T-s 線図上で考えれば、より分かりやすい。

再生サイクルの基本計算

復水器圧力 0.005 MPa 、タービン入口蒸気条件 5 MPa, 500 ℃ のランキンサイクルを例に、再生サイクルの基礎となる計算法を以下に例示する。計算においては、蒸気配管での圧損やタービンでのまさつ損失等を無視し、可能な範囲で可逆変化として扱う。

表 1 1段抽気再生ランキンサイクルの蒸気条件例
圧力 p 温度 T かわき度 x 比エンタルピー h 比エントロピー s
MPa --- kJ/kg kJ/(kg K)
HT 5.0 500.00 (過熱蒸気) 3433.661 6.97702
H1 0.4163 163.40 (過熱蒸気) 2780.493 6.97702
hC 0.005 32.90 0.8208 2127.324 6.97702
hC 0.005 32.90 0 137.772 0.47626
h1 0.4163 145.07 0 610.888 1.79125

元のランキンサイクルの復水器圧とタービン入口の蒸気条件が与えられているので、蒸気表や h-s 線図等を用いて、表 1 に示す蒸気条件の タービン入口 HT、復水器出口 hC の値が求まる。また、タービンで等エントロピー膨張するとして、h-s 線図よりタービン出口 hC の値が求まる。

次に、抽気圧力を決める。後述のようにいくつかの経験則があり、またタービンの構造上の制約もあるが、ここではタービン内のエンタルピー落差が等しくなるように H1 = ( HT + HC)/2 として、抽気圧 0.4163 MPa を求めた。

抽気圧が決まれば、h1 は抽気圧に対応する飽和水として値が求まる。復水ポンプ CP 出口、給水ポンプ出口の比エンタルピーは、それぞれのポンプ入口の値 hC、h1 に等しいので、表 1 には記載していない。

このサイクルの T-s 線図を図 2 に示す。

図 2 再生ランキンサイクルの T-s 線図

T-s 線図上には、圧力 5 MPa, 0.416 MPa、0.005 MPa の3 本の等圧線を黒の破線で示しているが、図の左方のサブクール水領域では等圧線は互いに極めて接近しており、この3本の等圧線は飽和水線にほぼ重なっている。復水器出口 hC は圧力 0.005 MPa の飽和水線上にあり、それを復水ポンプで圧力 0.4163 MPa に加圧するとサブクール水となるが、両者の温度差および比エンタルピー差は微小であり、図では重なっている。比エンタルピー差はポンプ仕事に相当するが、ポンプ仕事は、タービン仕事、ボイラ加熱量または復水器放熱量のいずれと比べても微小であるため、この説明ではすべてのポンプ仕事を無視している。

熱収支より

図 3 3段抽気再生ランキンサイクルの構成(混合形)

  • 図 4 3段抽気再生ランキンサイクルの T-s 線図(混合形)

  • 表 2 3段抽気再生サイクルの蒸気条件例
    圧力 p 温度 T かわき度 x 比エンタルピー h 比エントロピー s
    MPa --- kJ/kg kJ/(kg K)
    HT 5.0 500.00 (過熱蒸気) 3433.661 6.97702
    H1 1.7139 333.02 (過熱蒸気) 3107.077 6.97702
    H2 0.4163 163.40 (過熱蒸気) 2780.493 6.97702
    H3 0.05995 85.93 0.9130 2453.908 6.97702
    hC 0.005 32.90 0.8208 2127.324 6.97702
    hC 0.005 32.90 0 137.772 0.47626
    h3 0.05995 85.93 0 359.836 1.14519
    h2 0.4163 145.07 0 610.888 1.79125
    h1 1.7139 204.70 0 873.645 2.37501
    表 3 混合形給水加熱再生サイクルの計算式および計算結果
    計算式 計算結果
    1

    図 5 3段抽気再生ランキンサイクルの構成(表面形)

  • 図 6 3 段抽気再生ランキンサイクルの T-s 線図(表面形)

  • 表 4 表面形給水加熱再生サイクルの計算式および計算結果
    計算式 計算結果
    1
    2
    - - - - - - - - - -
    i
    - - - - - - - - - -
    最終 N
    熱効率

    表 4 には混合形と同じ表 2 の蒸気条件での計算結果を示す。また、このサイクルの T-s 線図を図 6 に示す。面積がタービン流量 1kg あたりの熱量と仕事が面積で表されるように、この抽気量を用いて補正したサイクルは、図 6 の閉曲線 となる。

    表面形給水加熱器の構造は、伝熱管内のサブクール水を過熱蒸気の抽気で管外より加熱する多管円筒形(シェル&チューブ形)熱交換器が一般的である。

    管内の給水は通常の条件では凝縮する抽気の飽和温度程度まで加熱できるので、最低限 となることが期待できる。

    表 2 および 図 6 は、この条件での計算結果を示している。混合形の場合に比べて抽気量が高圧側でやや多く、低圧側でやや少なくなるが、熱効率はほぼ同じである。

    給水加熱器を対向流形熱交換器とし、過熱蒸気の抽気で給水の出口部を加熱する構造にすれば、給水の温度を抽気の飽和温度以上に上げることができ、熱効率がさらに良くなることが期待できる。

    再生ブレイトンサイクル

    (ブレイトンサイクルの項を参照。)

    注釈

    1. ^ H1 などは比エンタルピー(単位質量あたりのエンタルピー)を表す。作業物質の状態を示すのに、便宜上その比エンタルピーを表す記号で呼ぶことにする。
    2. ^ 復水器に溜まった水(復水)を汲み上げるポンプ CP を特に「復水ポンプ」とよび、他の給水ポンプと区別している。
    3. ^ 給水の温度を高くすればその分ボイラの加熱量が少なくてすむが、抽気混合量が多くなって湿り蒸気となれば、混在する気泡により次の給水ポンプで障害が生じる。最良の条件は飽和水である。
    4. ^ 図 2 では -273.15 ~ -50 ℃ ( 0 ~ 223.15 K )の範囲を割愛しているので、図の下方の割愛した部分を補って考えることが必要である。
    5. ^ hC h1 間を外部熱源で加熱した場合の加熱量は曲線 hC h1 の下方の面積であり、そのうち仕事に変わらずに復水器で放熱される熱量は復水器の等温線 hC HC の下方の面積である。

    参考文献

    1. ^ a b c 石谷清幹 他、『蒸気工学』(1962)、コロナ社 ISBN 4-339-04013-4
    2. ^ a b 岐美格 他、『工業熱力学』(1987)、森北出版 ISBN 4-627-61081-5
    3. ^ 石谷清幹 他、『蒸気動力』(1989)、コロナ社 ISBN 4-339-04184-X

    関連項目



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